831.第三世代型、人造生命体。

「親指将軍は、口数は少ないんですが、優しくてすごくいい人でした。やはりエメル皇女と同じく最終決戦直前の戦いで、『勇者団』を守るために命を落としてしまったんです。その時には指人形は回収されていなかったので、多分その後にどうにかして回収したんだと思います。シュワローン将軍は、みんなに好かれてたから、遺品を探したのかもしれません。あの戦いの直後には、何も回収できませんでしたから……」


 盾の付喪神フミナさんは、当時を振り返り表情を曇らせた。


 親指将軍という愛称で親しまれたシュワローン将軍も、エメラルディア皇女と同じように『勇者団』を守るために戦死していたようだ。


「あの……その親指将軍という方は『ホムンクルス』だったということですが、ニコちゃんと同じ『ホムンクルス』だったのでしょうか?」


 俺は、少し気になったことを尋ねた。


「いえ、シュワローン将軍は、遥か昔に製造が中止された『第三世代型人造生命体』の唯一の生き残りでした。ニコちゃんは、『ホムンクルス』の研究と生産が再開された後に、全く新しい発想で作られた第四世代型ですので、かなり異なっています」


 エメラルディアさんが、答えてくれた。


「ということは、シュワローン将軍はかなり前に生み出され、その後ずっと生きていたということなんですか?」


「ええ、シュワローン将軍は、その当時から見て四百年くらい前に生み出された存在でした。今からの換算では、三千四百年くらい前ということになりますね。ただずっと活動していたわけではなく、コールドスリープ技術のテストの被験体とされていたのです。それで四百年後に目覚めたのです」


「なるほど……それでは、たまたまコールドスリープ装置の被験体であったがために、エメラルディアさんたちの時代に、一体だけ存在していたということなんですか?」


「そうなります。コールドスリープの技術は、迷宮技術が開発された頃に確立していて、最後の課題は、実際に数百年という単位を経て、予定通りに目覚めるか、問題なく生きていられるかという検証だったようです。目覚める保証のない危険な実験だったので、『ホムンクルス』が選ばれたのでしょう……」


「目覚めたときには、問題はなかったのですか?」


「そのようです。ただ、その後彼の命を維持させることは、結構大変だったのです。彼が被験体になった後に、当時の『ホムンクルス』生産技術や研究は凍結され、時間の経過とともに技術はほぼ失われた状態でした。我々が活動していた帝国の末期には、『ホムンクルス』の開発は再開され、それで技術を再構築し設計されたのが第四世代型ということになりますが、その時に同時に細胞を修復できる培養槽も再設計、再生産されたのです。それを将軍用に何度も検証を繰り返して調整し、何とか定期的なメンテナンスができるようになったのです。第一世代型から第三世代型までは、細胞の劣化などを修復するために定期的なメンテナンスが必要な仕様でしたから」


「なるほど定期的なメンテナンスというのが、一番のポイントだったんですね。ただ帝国最強の騎士の実力があったということですから、能力的にはやはり『ホムンクルス』はかなり高かったのですか?」


「はい、そうです。特に第三世代型の『ホムンクルス』は、『ホムンクルス』開発の理念が捻じ曲げられ、人の代わりに戦闘させるための存在として開発されたので、各種ステータスを始めとした肉体的能力が特に高かったのです。初めからレベル20程度のステータス数値を持った大人の状態で誕生し、実際のレベルは1なので、そこから普通にレベルを上げただけで通常よりはるかに強い状態になるのです。ただ我々の時代には、それらの資料が全て失われていて、そのような噂があっただけなのです。将軍が現れたことによって、伝説的に伝わっていた内容がほぼ事実であるということが、確認されたという次第なのです。当然軍部は、将軍と同じような『ホムンクルス』を作ろうと考えたみたいですが、その技術も資料も失われていたので、できなかったのです」


「なるほど……肉体的能力が高かったということですから、実際の戦闘でもかなり強かったんですか?」


「はい。戦闘テストでは、ずば抜けた能力を発揮したそうです。それゆえ、帝国を守る騎士として登用され、すぐに将軍の地位を与えられました。その後勇者が召喚され、『勇者団』のサポートメンバーに選ばれました。ステータス数値以外にも、自然治癒能力が高かったり、スキルや魔法が発現しやすい体質だったようです。これは設計の段階で、様々な種族の細胞なども取り入れられていたからのようですが。いずれにしろ能力的には、召喚した勇者と同等もしくはそれ以上の力を持っていたと思います」


 エメラルディアさんは、感慨深げに言った。


「『勇者団』のみんなは、無口な親指将軍が大好きだったんですよ」


 フミナさんが、懐かしむように微笑んだ。

 親指将軍のことが、大好きだったようだ。


 ちなみに『ホムンクルス』のニコちゃんは、『第四世代型人造生命体 ホムンクルス』となっている。

 長らく中断していた『ホムンクルス』の開発・生産を再開するにあたって、新設計されたとのことだった。

 最初から大人として生産するのではなく、五歳児の状態で生み出し、そこから人族と同じように成長していくと設計になっているとのことだった。

 ただ成人年齢である十五歳以降は、十年で一年分外見が成長するという妖精族と同じような特徴を目指して、設計されているとのことでもあった。

 人族と近いかたち、さらには妖精族の特徴を取り入れるかたちでゆっくり成長する仕様にすることによって、定期的なメンテナンスを必要とせずに、普通の生活の中で長期間生きられる設計になっているのだそうだ。


 だからニコちゃんは、定期的に培養槽に入ることなく、普通に暮らしていけるのである。


 第三世代型の技術は失われていたので完全に同じではないが、似たような技術を再現し、他の種族の細胞などを取り込んで強化されているので、人族より能力的に大きく上回っているということでもあった。


 ニコちゃんも、これからかなり強くなってくれるだろう。



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