830.場違いな衣装の、指人形。
『高速飛行艇 アルシャドウ号』の格納庫スペースを物色した俺たちは、『アルシャドウ号』に搭載できる『魔砲』と『魔弾機銃』と『防御用マスト』を見つけた。
だが、それ以外の武装は発見できていない。
船の付喪神となった第四皇女の残留思念体でもあるエメラルディアさんの話によれば、主砲といえる『三連魔砲』が装備できるはずとの事だが、どこにもない。
修理されていなかったのかもしれない。
エメラルディアさんが命を落とした戦いで、悪魔が融合した『亜竜 ワイバーン』に特攻した時に、主砲も大破したはずとのことなので、そもそも修理できなかったのかもしれない。
格納庫スペースには、船の修理に使える魔法の溶接道具などいくつかの魔法道具があったので、移動可能なものは船に乗せることにした。
それから、武器はフミナさんが発見した『レイピアガン』以外は置いていなかった。
『レイピアガン』は、以前エメラルディアさんが使っていた武器ということだった。
格納庫スペースにあった主なものは、以上となる。
これから周囲に配置されている各個室を、一つ一つ確認していく予定だ。
「ここが武器庫になります。まだ何か残っているかもしれません」
エメラルディアさんがそう言って、一つの扉を開けた。
武器庫ということだったが、剣や槍などは何も残っていない。
ほぼ空っぽだ。
だが一つだけ変なものが置いてある。
人の手首を模った像……手のひらのマネキンのようなものに、五つの指人形が付いている。
その指人形は、なぜか全てライフルのような銃を構えている。
「こ、これは……。親指将軍が使っていた『パペットバレット』!」
盾の付喪神フミナさんが、驚きの声を上げた。
「ほんとだわ! まさか回収されていたなんて……」
エメラルディアさんも、驚いている。
「私たちも回収されていたっていう話は、聞いていませんでした。もしかしたら、あの戦いの直後じゃなく、だいぶ後に回収されたのかもしれませんね……」
フミナさんが、少し悲しげな顔で言った。
会話を見守っていた俺に、二人は詳しい説明をしてくれた。
ここに置いてある五体の指人形は、特別な『
五本の指に装着する指人形で、すべての人形がライフル銃を持っている。
ライフル銃といっても、指人形のサイズが持っているライフル銃なので、小さくておもちゃにしか見えない。
ただこれが本当に魔法銃として威力があるとすれば、この小型化技術はかなり優れものと言えるだろう。
羽妖精サイズのニアが持つとしても、小さすぎるサイズだからね。
親指に装着する指人形は、スーツのようなものを着てネクタイを締めている。
……サラリーマン風のおじさんだ。
人差し指に装着する指人形は、割烹着のようなものを着ている。
……おばさんだ。
というか……小料理屋の女将さんというか……昔のおかんという感じだ。
中指に装着する指人形は、学生服のようなものを着ている少年だ。
薬指に装着する指人形は、セーラー服を着ている少女だ。
小指に装着する指人形は、黄色い帽子と園児服を着ている幼児の男だ。
お父さん、お母さん、お兄さん、お姉さん、弟といった感じだろうか。
おそらく……家族という設定だよね。
そして……セーラー服の少女が持っている銃は、他のと違って機関銃のようなデザインになっている……。
これってもしかして……有名な映画をオマージュしているのだろうか……?
それぞれの指人形の服装といい、どう考えても、この世界には似つかわしくない。
このアイテムを作った人間もしくはその関係者は、俺と同じ世界からの転移者か転生者だったに違いない。
『波動鑑定』をしてみると、『名称』が『魔具 パペットバレット』となっていた。
『階級』は、『
『操縦型人工ゴーレム』通称べつじん28号の中で発見した『パレットバレット』と名前が似ていて、めっちゃ紛らわしい。
『パレットバレット』は、パレット型の魔法道具で、浮遊し自由に動くことができ、備え付けられている高性能の魔法銃で狙撃することができるという凄いアイテムだった。
名前が紛らわしいというか、似ているので……同じ人が作った可能性もあるのではないだろうか。
そう思って尋ねてみた。
「『パレットバレット』……完成していたんですね。『特殊兵器開発計画』というのがあって、その一環で作ろうとしていたのは知っています。『操縦型人工ゴーレム』の開発を行っていた『魔機開発部門』の担当でした。『パペットバレット』とは、技術的にはあまり関係ないと思います。ただ『パペットバレット』はかなり有名な魔具だったので、それにもじったネーミングなのかもしれません。そもそも『パペットバレット』は、前文明……『マシマグナ第三帝国』の遺物なんですよ」
エメラルディアさんが、記憶をたどるように視線を上に向けながら話してくれた。
「『勇者武具シリーズ』と同じ遺跡から発見されたみたいです。勇者が使っていたわけではないんですが、私たちを助けてくれていた親指将軍の武器だったんですよ。性能的にも『勇者武具シリーズ』と言っていいほど、すごい武器でした」
フミナさんも懐かしそうに、そして少し悲しげな表情で教えてくれた。
「シュワローン将軍……彼は、勇者の称号こそなかったんですけど、勇者と言える存在でした。帝国の英雄で、『勇者団』を除けば、帝国騎士の中では最強の存在でした……」
エメラルディアさんも、懐かしそうな顔をしつつ少し悲しげだ。
「そうだ、グリムさんならわかると思うんですけど、私たちがいた世界で全世界的に大ヒットした未来からやってくるロボットの映画があるんですけど、その俳優さんにめっちゃ似てたんですよ。親指将軍というあだ名も、彼の口癖からついたものなんです。出かけるときは、必ず親指を突き出して「私は帰ってくる」というんですよ。最初見た時は、みんなで笑っちゃって、転移者か転生者と思ったんですけど……彼は『ホムンクルス』だったんですよね……」
フミナさんは、少し沈んだ雰囲気を明るくするかのように、元気なトーンでそんな話をしてくれた。
フミナさんの話で、どの外国人俳優のことを言っているのかは、完全にわかった。
そんな容姿で、よく言う言葉も映画に出てくるような言葉だったとしたら、確かに転移者か転生者だと思うよね。
でも『ホムンクルス』だったということで、そうではなかったということだが……。
ふと思ったが……彼を作った設計者や技術者の中に、転移者か転生者がいたのではないだろうか……。
「なるほど……誰のことか、よくわかります。まさか……革ジャンとかサングラスは、してないですよね?」
俺は、フミナさんの明るい雰囲気に乗り、少しおどけたような感じで言った。
もちろん俺とフミナさん以外のメンバーには、何のことか全くわからないだろうけどね。
「ふふ、実は、『勇者団』のみんなで盛り上がっちゃって、革ジャンとサングラスを着せて、ショットガンを持たせようと計画したりしたんですよ。『斬撃の勇者』のケントくんと『突撃の勇者』のソウジくんなんか、当時の技術者と本気で打ち合わせをしてたんです。革ジャン風の軽鎧と、サングラス風のゴーグル、ショットガンタイプの魔法銃を本気で開発してましたからね……ふふ」
フミナさんは、そう言って笑い出した。
なるほど……当時の『勇者団』のみんなは、そのネタで本格的に盛り上がっていたわけね。
その気持ちは、よくわかる。
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