832.指人形、起動!
「親指将軍は、近接戦闘能力が高かったのに、この『パペットバレット』に一番適性があって、肉弾戦ではなくこの魔法道具を使った戦いが主になっちゃったんですよね」
盾の付喪神フミナさんが、指人形を見ながら微笑んでいる。
「そうだったわね。でもこの『パペットバレット』を使いこなすと、彼が一人で肉弾戦で暴れるよりも、はるかに効率よく敵を倒せたから、そうするしかなかったのよね。でもいつだったかは、左手を前に突き出して『パペットバレット』を使いながら、右手で幅広の大剣を振って肉弾戦もしてたわよね」
船の付喪神エメラルディアさんが、フミナさんに並んで懐かしそうに声を弾ませた。
「確かに! あの時は、すごかったですね!」
フミナさんが、笑顔だ。
悲しさを振り払うように、笑顔を作っているのかもしれない。
「そういえば……あの大剣は無いのかしらねぇ……。ここに無いってことは、この基地には無いんだろうけど……」
エメラルディアさんは、そう言いながら改めてこの武器庫の中を見渡したが、やはり他には何もない。
「そうですね。あれも独特でしたから、形見みたいなものになるんですけどね……。この『パペットバレット』も、親指将軍みたいに使いこなせる人がいるといいんですけど……」
そう言うフミナさんに、俺は少し気になったので確認してみた。
「この『パペットバレット』は、誰でも使えるというわけではないんでしょうか? もしかして……魔法道具が使用者を選ぶとか……そういう感じなんですか?」
「はい。誰でも使いこなせるというわけではないんですよね。魔法道具が使用者を選ぶというほど厳重では無いんですが……適性がないと、機能を十分に発揮させられないみたいなんです」
「そうなんです。当時、軍の中で魔力が高い者を選抜して試してみたんですが、一番適性があったのが、親指将軍ことシュワローン将軍だったんですよ」
フミナさんとエメラルディアさんが、そう教えてくれた。
「どういう適性があれば、使いこなせるのでしょうか?」
「それがよくわからないんです。シュワローン将軍は、『ホムンクルス』だけあっていろんな能力値が高かったですし、おそらく念の力も強かったとは思うんですが……」
エメラルディアさんが、少し申し訳なさそうに答えてくれた。
当時の帝国でも、条件についてはよくわかっていなかったようだ。
「そうだ! ニコが使ってみたらどうかしら? ニコも『ホムンクルス』だし、潜在能力も含め凄い能力を持っていると思うの!」
フミナさんが、閃いたという顔をしている。
ニコちゃんは、少し不安そうにフミナさんの顔を見た。
「ニコ、ちょっと使ってみたら? 別にうまくできなくてもいいし、うまく使えるようならニコが使ったらいいと思う。親指将軍も喜ぶよ。覚えてるでしょう? あの大きな無口なおじさん……」
フミナさんが、改めてニコちゃんに優しく語りかけた。
「うん、覚えてる。じゃぁ……やってみる」
ニコちゃんがそう言って、指人形を左手の指にはめだした。
子供のサイズのニコちゃんにはぶかぶかだが、その分すっぽり指を覆うかたちではまっている。
「ニコ、ゆっくり魔力を流してみて。もしできそうなら、頭の中でイメージして、一体ずつ動かしてみて」
フミナさんがアドバイスをすると、ニコちゃんはコクリと頷いた。
ニコちゃんが魔力を流し出すと……指人形たちの下から頭の先に向かって光の輪のようなものが通過した。
「あ、何か流れ込んでくる……。ん……
どうやらニコちゃんの中に、
それにしても……
まぁいいけどさぁ。
そんな感じの動作をしているのだ。
臨戦態勢に入った感じだ。
そしてニコちゃんは、目をつぶり左手を前に突き出した。
さらに集中している。
おお……親指の指人形が指から発射された!
そして、少し離れた上空に停止している。
「サラリーマンなめんなよ!」
なんと! 指人形が言葉を発した!
おお! 立て続けに他の指人形も発射され、空中に浮いた!
「おかんなめんなよ!」
「学生なめんなよ!」
「か・い・か・ん」
「オラに任せろー!」
人差し指、中指、薬指、小指に装着されていた指人形が、そんな言葉を発した。
話せるのか?
だがその後は、無言のまま宙に浮いている……。
なんとなくだが……それぞれの指人形に設定された決めゼリフのようなものなのかもしれない。
雰囲気的に会話をする感じはない……。
そして、なんとなくだが……薬指のセーラー服人形のセリフは、セーラー服の女の子が機関銃をぶっ放す映画のパロディーのように見える。
そして幼稚園児人形も、面白い幼稚園児が活躍する有名アニメをオマージュしているような気がする……。
「やっぱり、ニコなら使いこなせそうね!」
「ほんとそうね! 指から発射させて空中で待機状態にできるなんて……ニコちゃんなら、間違いなく使いこなせるわ!」
フミナさんとエメラルディアさんが、そう言いながら目を輝かせた。
「なんか、頭の中に使い方が流れ込んできた!」
ニコちゃんが、少し嬉しそうに笑顔を作った。
「グリムさん、この魔具なんですけど、多分ニコなら使いこなせると思います。よろしければ、ニコに使わせてもらえませんか?」
フミナさんが、改めて俺に許可を求めてきた。
「もちろんです。ニコちゃんに使ってもらいましょう」
俺は、当然了承した。
せっかく見つけた特別な魔具を使いこなせる人がいて良かったし、それがニコちゃんならなおさらだ。
ニコちゃんが使う強力な武器が手に入って、本当によかった。
ニコちゃんはだいぶ使い方を把握してきたようで、五体の指人形が空中を自在に動きまわっている。
この操作能力……確かにすごい。
五体同時に動かすのって、結構大変だと思うんだよね。
リリイとチャッピーが、楽しそうに見ている。
今度はニアが、人形たちと追いかけっこを始めて、遊んでいる。
指人形サイズなので、ニアよりも小さいのだが、捕まえようとするにニアを五体が激しく動いて躱している。
もちろんニアが本気を出したら、すぐに捕まえられると思うが、普通の状態の追いかけっこ程度なら、ニコちゃんの操作能力で問題なく逃げられるようだ。
「ニコちゃんすごいわ! こんなに自在に操るなんて! これからが楽しみね」
ニアが、ニコちゃんの前で止まり、笑顔を作った。
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