826.三千年ぶりの、邂逅。
約三千年前、『マシマグナ第四帝国』の末期に『勇者団』が使っていたという高速飛行艇『アルシャドウ号』を起動させようとしていた俺は、精霊たちのささやきを聞き、この船を付喪神化させてしまった。
現れた付喪神は、またもや人型に顕現する能力を持ったレアな付喪神だった。
当時『勇者団』と共に戦っていて、この船の艦長だったという帝国の第四皇女エメラルディアさんの残留思念が、主人格となって付喪神化したようなのだ。
赤字に白いポイントが入った戦闘服のようなものを着て、黒いマントを羽織った女海賊のような立ち姿で現れた彼女は、シャープな顔つきの金髪スレンダー美人だ。
今は、『魔力 千手盾』の付喪神であり『守りの勇者』の残留思念体でもあるフミナさんを見て、抱きついて泣いている。
フミナさんは、当然彼女と共に戦っていた記憶を持っている。
最初は、驚いた様子だったが、今は抱きしめながら共に泣いている。
……少し落ち着いたところで、二人が話し出した。
「まさか、あなたとこんなかたちで会えるとはね。私の今の状態は、わかってるわ。私の残留思念が主人格となって、この船が付喪神化したのよね。そしてあなたは、あなたが使っていた盾の付喪神になっているのよね?」
エメラルディアさんは、自らの思考を整理しながらという感じで、フミナさんに尋ねた。
彼女は、エメラルディアさんの残留思念が主人格となっているので、その意識と記憶が主体だが、その他の様々な残留思念や元々船を構成していた精霊たちが全て合わさり一つになっているので、自然と状況がわかるのだろう。
「そうです。私もつい最近、付喪神化したばかりなんです。エメル皇女と、またこうして話すことができるなんて……」
フミナさんも、感動で言葉が続かない感じだ。
「私たちが生きていた頃から、だいぶ時間が経っているみたいね。私が死んだ後の記憶はないんだけど、なんとなくわかるわ」
「そうなんです。あの後……私たちは、魔王を倒し戦いに勝利することができたんですが、『勇者団』が解散した後に、帝国は自らが作った魔法機械で滅んでしまいました。私は、滅ぶ前に帝国の謀略で殺されてしまったので、詳しくはわからないんですが、密かに悪魔の介入があったようです」
フミナさんは、沈痛な表情で、言いにくそうに、エメラルディアさんの死後の状況を伝えた。
「結局は……千年の呪いに、打ち勝てなかったのね……。そして帝国のために尽くしてくれたあなたは、殺されてしまったのね……。本当にごめんなさい。そんな帝国が滅んだのは、自業自得かもしれないわね。ただ……悪魔が介入していたことは……許せない……」
エメラルディアさん、そう言うと唇をかみしめた。
「約三千年経っているんです。そして今また悪魔たちが、この世界を蹂躙しようとしているんです」
「三千年……そんなに……。一度滅んだといっても、人類は駆逐されず暮らしているのね?」
「はい。また様々な国ができています」
「せめてもの慰めね。どうやら私がこのタイミングで付喪神化したのは、意味があるみたいね。今度こそ人類を守らないと……。その機会をもらえたのかもね。またあなたと一緒に戦えってことよね……?」
「力を貸してもらえますか?」
「もちろんよ。私の中の精霊たちや他の残留思念も戦えと言ってるわ!」
「よかった……」
「また共に頑張りましょう。あら……あなたは……ニコちゃん?」
エメラルディアさんは、ニコちゃんに目が止まったらしく、声をかけた。
面識があったようだ。
「はい、ニコです。また会えて嬉しいです」
ニコちゃんが、可愛く頭を下げた。
フミナさんは、ニコちゃんが生体コアとして取り込まれていたことなどを、簡単に説明した。
「ニコちゃんごめんね。帝国の人間の暴走を誰も止められなかったなんて……。皇帝そして皇族の責任でもあるわ。ほんとにごめんなさい……」
エメラルディアさんは、ニコちゃんに涙を浮かべながら謝った。
次々に知らされる自分の死後の悲惨な状況に、さぞかし胸を痛めていることだろう。
見ていて、少し気の毒になる。
離れたところで見守っていた俺たちを、フミナさんが紹介してくれた。
俺は、改めて挨拶をした。
「あの……先ほどは、突き飛ばしてしまって、ごめんなさい。突き飛ばすつもりはなかったのですが、うまく力の加減ができず強く当たってしまったのです。改めまして、私はこの船の付喪神となったエメラルディアと申します。主人格となっている私の残留思念は、もともと『マシマグナ第四帝国』の第四皇女でした。あなたの眷属となっていることも……わかっています。あなたに力を貸すべきということもわかっています。よろしくお願いします」
エメラルディアさんが、少し頬を赤く染めながら挨拶してくれた。
フミナさんの時もそうだったけど、突然眷属になっている関係って、ちょっと気まずいんだよね。
頬を赤らめる気持ちはよくわかる。
「私はニア、私たちの仲間には、付喪神が六人もいるから、安心してね」
「リリイなのだ。お姉ちゃん、めちゃめちゃかっこいいのだ!」
「チャッピーなの〜。仲良くなりたいなの〜」
ニア、リリイ、チャッピーもそれぞれ挨拶をした。
俺は、改めて今この世界に起きていることや俺が今まで経験してきたことを説明した。
そして今後、悪魔との戦いが待っているという話もした。
それから、この遺跡を発見し、高速飛行艇『アルシャドウ号』を見つけ、起動させようとしていた時に、精霊の導きで付喪神化に協力したということも話した。
そして元々やろうとしていた船の起動ができるかどうか、エメラルディアさんに確認してみた。
彼女はこの船自身だから、彼女の力で起動ができるのではないかと思ったのだ。
「この船は私自身ですから、船の状態はよくわかります。『魔力炉』は、おそらく起動できると思います。船も飛行できる程度には修理されているようです。ただ武装は、ほとんど外されているので、現場では戦闘力はほとんどありません。運行できる程度の修理が終わった後に、放置されたのかもしれません。ただこの基地に、搭載予定の武装があるはずですので、それを搭載すれば戦うこともできると思います」
エメラルディアさんが、的確な自己分析をしてくれた。
「では、起動できるのですね?」
「はい。ただ……『魔芯核』の備蓄槽が空のようですので、『魔芯核』を補充しないといけません。機関室に行ってみましょう」
エメラルディアさんの誘導で、俺たちは機関室に向かうことにした。
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