824.勇者団の、秘密基地。
『正義の爪痕』の首領が最近発見していたという遺跡を見つけた俺たちは、中の調査を終え、引き上げようと思っていた。
だがそんな時、俺に念話が入った。
(あの……フミナです。遺跡らしき場所って見つかりました?)
『魔盾 千手盾』の付喪神フミナさんからだった。
(ええ、何とか見つけることができました。今調査を終えて、帰ろうと思っていたところです)
(そうですか。それは、よかったです。実は……少し思い出したことがありまして……)
(それは……?)
(はい。今のセイバーン公爵領の『ウバーン市』の周辺のエリアというのは、たぶん……三千年前に私たち『勇者団』使っていた秘密基地があった場所に近いと思うんです。そんなことを思い出したので、連絡してみたのですが……)
(本当ですか!? 私が発見したのは、『ウバーン市』から海岸線沿いを東に進んだ断崖絶壁のエリアなんですが……)
(あ、多分そこかもしれません! 海に面したところで、基地から海に向かって飛行艇を発進させていましたから……)
おお……フミナさんの話が本当なら、この場所は、三千年前に活躍した九人の勇者『勇者団』の秘密基地だったらしい。
(サーヤに迎えに行ってもらいますので、今から来てください。実際に確認してもらったほうがいいと思います)
俺はそう言って、『アメイジングシルキー』のサーヤに頼んで、フミナさんを連れてきてもらった。
サーヤの転移先として登録してあるログハウスを、いつも『波動収納』に入れているので、それを出してセットすれば、サーヤがすぐに転移で来れるのだ。
少しして、サーヤがフミナさんと『ホムンクルス』のニコちゃんを連れて来てくれた。
「ここは……間違いありません! 『勇者団』が秘密基地として使っていた場所です。もっとも、私たちはいつもあちこち出ていたので、それほどここにいたわけではありませんけど」
フミナさんはそう言って、懐かしそうに周囲を見回した。
「本当ですか? それはよかった。一通り調べたのですが、特にめぼしいものは残っていませんでした。念のため、確認してもらえますか?」
「はい、わかりました。三千年前私たちが使っていた頃は、地上にも建物があったのですが、それはさすがにもうないみたいですね。地上には城に偽装した建物が立っていて、地下にこの施設があったのです。奥は見ましたか?」
フミナさんはそう言って、海とは反対側……俺たちが入ってきた方とは反対側の奥の壁を指差した。
ただの壁だと思っていたのだが……
「この奥に施設があるんですか?」
「はい。奥にもう一つ、大きな空間がありますよ」
フミナさんはキョトンとした顔で、そう言った。
まさか俺がその空間を発見していないとは、思ってもいなかったようだ。
言われてみると、確かにフミナさんが指差した場所は、不自然かもしれない。
円形に広がる壁の中で、突き当たりである奥の壁以外の両サイドは、全て小部屋の入り口があるのだ。
あの奥の壁の部分に小部屋がないのは、さらに奥にある施設へ続く通路だからということだったようだ。
壁の部分が開閉する扉のようになっているのだとしたら、かなり広い扉ということになる。
「奥にまだ施設があるとは知りませんでした。ただの壁のようにしか見えなかったので……」
「ああ、そうですね。今思い出しましたけど……あの奥の壁は、万が一侵入者があった場合に、奥のエリアを秘匿するための意味もあるんでした」
「入り方を、知っていますか?」
「はい、魔法の扉になっているので、
そう言って、フミナさんは壁の前に進み出て、壁に手のひらを当てた。
「刮目せよ! そして門戸を開け!」
どうやら
……壁が微妙に振動している。
ラッキーなことに、システムが生きていたらしい!
——ゴゴゥゥゥゥ
——シュウィーンッ、ススーー
前面に広がる巨大な壁が音を立てて後ろに下がり、その後自動ドアのように左右に開いた。
そして奥に、巨大な空間が現れた!
俺たちが中に入ると、魔法道具の照明が作動し、明るくなった。
今までいた空間……最初に見つけた空間は、着いたときにはすでに明るかったが、もしかしたら断崖絶壁の入口に入った時点で、同じような魔法装置が作動していたのかもしれない。
ここの空間も、今までいた空間と同じような大きな円形の空間になっていて、周囲に小部屋の入り口がたくさん付いている。
奥の部分は壁ではなく、大きな扉がいくつかある状態になっているので、これ以上通路は無いようだ。
おそらく、この地下空間を上から見たとしたら、最初の空間と今新たに発見した空間でちょうどメガネの形というか無限大記号のような形の作りになっているだろう。
そして……この奥の空間は、『正義の爪痕』の首領は、発見していなかったようだ。
なぜなら……中央の円形のスペースに、金属質の素材でできているかっこいい船が手付かずで置いてあるからだ!
「あれは……飛行艇アルシャドウ……」
フミナさんは少し驚いたように、声を漏らした。
「知っているのですか?」
「はい、『勇者団』が使っていた高速飛空艇です。まさか……残っていたとは……」
そう言うと、フミナさんは懐かしそうに近づいた。
眼前にあるフミナさんが飛行艇アルシャドウと呼んだ船は、船首にドリルのようなパーツの付いた黒っぽい色合いの船だ。
船首についているドリルパーツの根元の下の部分には、女神像のような女性の像が付いている。
よく帆船の先端についている棒状のバウスプリットというパーツがドリル状になっている感じなので、バウスプリット同様斜め上を向いている。
その根元に沿う形で、斜め上に向けて女神像が付いているのだ。
女神像が飛んでいるようにも見える。
黄金に輝く鎧を纏い、背には天使の羽のようなものがついている。
『勇者団』が使っていた船だけに、戦女神のような感じだ。
船のサイズ的には、この世界でよくある大型船くらいのサイズだ。
この世界の大型船は、大型船といっても俺の元いた世界にあったような巨大な豪華客船のようなものではなく、サイズ的には一般的な遊覧船くらいのサイズだと思う。
船体はよくある船の形をしているが、船上の部分に屋敷の建物のようなパーツが載っている。
最上階がガラス張りのようになっているので、艦橋なのだろう。
屋敷パーツが乗っているのは船上の後半分の部分で、前半分の部分は何もない。
ただの甲板だが……もしかしたら、武器のようなものが搭載されていたのかもしれない。
船体の両サイドには、翼のようなものがせり出している。
飛行艇という名前だけあって、空飛ぶ船なのだろう。
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