823.遺跡、発見。

 『正義の爪痕』の首領が最近発見していたという新たな遺跡の場所を探している俺たちは、有力な場所を見つけた。


 海沿いの都市『ウバーン市』から、海岸線を東に進んだ断崖絶壁が続くエリアが、怪しい場所である。


 ニアは、『亜空間検知』スキルを使って、捜索を手伝ってくれていたが、亜空間の気配ではないが、何か空間の揺らぎのようなものを感じると言って、怪しい場所を教えてくれた。

 ニアは、入り口が偽装してあるのではないかと予想している。


 そこで俺は、偽装されている場所がないか調べることにした。


「リリイ、悪いけど、ここからここのエリアに、一定間隔で『火魔法——火弾ファイアショット』を最小威力で打ち込んでみてくれる?」


 魔力調整の天才児リリイに、火魔法を最小限の威力で発射するように頼んだ。


 見かけ通りの岩ならば、最小威力の火魔法は弾け飛ぶだろう。

 もし何か違うものがあれば、別の反応があると思うんだよね。


「わかったのだ。早速、やっちゃうのだ!」


 リリイはそう言って、続けざまに一定間隔で、火魔法を打ち込んだ。


 ——ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ

 ——ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ

 ——スッ、スッ、スッ、ボンッ

 ——ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ


 今……一部壁で弾けないで吸い込まれるように消えた場所があった!


 どうやら……奥が空洞になっているようだ。

 何かの装置で、周囲の断崖と同じように偽装してあるのだろう。


 新たな遺跡の入り口である可能性が高い。


 海面から見て五十メートルくらいの高さがある断崖の、ちょうど真ん中辺りが入り口らしき場所だ。

 この高さなら、潮の満ち引きで水位が上下したとしても、影響ないだろう。

 当然、船では入れない場所だ。


 俺は、飛竜船を近づけ、『飛行』スキルを使って飛び立ち、入り口に近づいた。

 何があるか分からないので、まずは俺が調査し安全を確認してからニアたちを呼ぶことにしたのだ。


 俺は、慎重に怪しい壁に手を当ててみた。

 ……やはり、何もない空間だ。

 入り口を隠すために、映像のようなもので壁を表示しているから、近づかなければ絶対にわからない。


 俺は、その空間に飛び込んだ。


 ……中は、思っていたよりもかなり広い。

 横幅も高さもあり、大きな通路みたいになっている。

 自然の洞窟のような雰囲気の作りになっているが、まっすぐ一直線に伸びているので通路といった印象が強い。

 人工的な壁のようなものは、今のところ見えない。

 ただなんとなく……自然の洞窟のように偽装している感じがする。


 ニアとリリイとチャッピーを呼び寄せ、奥の探索を始めることにした。


 しばらく行くと、行き止まりになっている。

 だがそんなはずはない……絶対この奥に何かあるはずだ。

 俺の直感が、そう告げている。

 どこかに入り口が隠されているはずだ。


 俺たちは手分けして、入り口を探すことにした。


 少しして、チャッピーが俺のところに寄ってきた。


「あそこの岩が怪しいなの〜」


 チャッピーは、勘がいいから何かを感じたようだ。


 チャッピーが指差した所には、子供ぐらいの大きさの岩が地面から突き出ている。

 映画なんかだと、こういう石を触ると隠し扉が開くとか、そういうギミックがあるはずだが……


 俺は、岩に手を当てて押したり引いたりしてみた。


 だがなんの反応もない。


「もしかしたら……」


 リリイが声を弾ませて、岩に触れた。

 何か閃いたのだろう。


 おお! 岩が少し光った。


 どうやら、リリイは魔力を流したようだ。


 なるほど……魔力で起動できるのか……。


 リリイ、ナイス!

 さすがリリイだ。


 そしてそこに気づけなかった自分が、少し情けない……。


 通路のようにまっすぐ伸びていた洞窟の突き当たりの壁が、自動ドアのように横にスライドし開いた。


 そして中には……間違いない! 『マシマグナ第四帝国』の遺跡のようだ。


 首領のアジトだった遺跡と、壁や通路の作りが同じ感じなのだ。

 洞窟的な質感の壁と人工的な質感の壁が入り混じっているが、人工的な質感の壁は、少し近未来的な感じの作りになっている。


 直線的な通路をしばらく進むと、大きな広い空間に出た。

 ホールのように広い円形の空間だ。

 周囲の壁にあたる部分には、小部屋の入口と思われるものがいくつもある。


 作り的に……何かの研究施設か製造施設だったのではないだろうか。


 壁を見ると、上のほうに大きな扉というかシャッターのような作りのところがある。


 ここまでやってきた通路のちょうど真上の位置にあるので、方向的には海を向いている。

 もしかしたら、このシャッターのようなものが開くと、もう一つ大きな通路があるのかもしれない。

 何かを発射できるような作りなのかな……?

 なんとなく……アニメなんかの秘密基地によくあるマシーンなどの発射ギミックが思い浮かんでしまう。

 そういうのだったら、かっこいいんだけどなぁ……。


 その辺の調査も含めて、この大きな空間と周囲の壁にある小部屋の入口らしきものを一つ一つ確認していくことにした。



 一通りの確認が終わった。

 中央のスペースには、ほとんど何も残っていない。

 その壁のところにある個室を一つずつ確認したが、会議室のような大きな部屋やいろんな用途で使われたであろう個室、宿舎的な感じの広いスペース、食堂と思われるスペースなど様々な部屋があった。


 だがどれも『正義の爪痕』の首領が探索した後のようで、めぼしいものはほとんど残っていなかった。


 食堂らしきスペースに、カセットコンロのような魔法道具が三つほど残っていた。


 形状は、俺の知っているカセットコンロに非常に近い。

 炎の出る口があって、その上に鍋などが乗せられる台のようなパーツが付いているのだ。

 そして魔力を流すと、火が発生するらしい。

 機能的にも、カセットコンロそのものといった感じである。


 名称が『魔法レンジ』となっている『下級イージー』階級のアイテムだ。


 戦闘には使えないから、首領は持ち去らなかったのだろう。


 他には、いくつかの部屋に備え付けのテーブルや椅子などがあっただけで、本当に何も残っていなかった。


 まぁ予想していたことだけど、少し残念だ。


 だがこの場所自体は、結構使えるかもしれない。

 新たな秘密基地というか……本当に俺の仲間たちだけの秘密の基地として活用できる可能性がある。

 本来の秘密基地である『竜羽基地』は、俺の知り合いに限定しているとは言え、かなりの人たちが知っている。

 もはや秘密と言うよりは、公式な感じになってきているから、公式秘密基地なのだ。


 本当の秘密の基地をどこかに作るとすれば、ここも候補にできるだろう。

 もう一つは、この前制圧した『正義の爪痕』の首領のアジトだった場所も『マシマグナ第四帝国』の遺跡であり、秘密基地にすることも可能だ。 


 ただ今のところは、公式秘密基地である『竜羽基地』以外を整備する必要性は、あまり感じていない。

 それゆえ、ここも当面は放置状態になるだろう。


 現時点では、『竜羽基地』を充実させたほうがいいからね。


 ちなみに、二つ目の秘密基地は、既に存在しているとも言える。

 ヘルシング伯爵領の領都の南西にある翼森の地下にある『正義の爪痕』のアジトだった場所だ。

『翼森基地』という名称にして、『聖血鬼』や『聖血生物』たちの活動拠点にしている。

 キャロラインさん直属の『聖血鬼』たちの、基地といった感じになっているのだ。

 もちろんエレナ伯爵や、ユーフェミア公爵たちもその存在を知っているから、ここも本当の秘密の基地というよりは公式秘密基地である。



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