822.カレー専門店、はじめました。

 翌日、俺は『コロシアム村』の中央の『コロシアムブロック』に作ったカレー専門店『イセイチ』に来ている。


 すでに、行列ができている。


 昨日の打ち合わせで、急遽オープンすることになり、昨日の午後から告知を始めただけなのだが、オープンを待ちかねた人たちで長蛇の列になっている。


 これからちょうど、オープンするところだ。


 多分何も手を打たなかったら、この行列の先頭にビャクライン公爵が並んでいた気がする。

 そして下手したら、国王陛下まで並んでいたかもしれない。


 さすがにそんな姿を一般の人たちに見せるのはまずいので、俺が先手を打って、お店の中に特別個室を用意してあるからと伝えて、並ぶのを防止したのだ。


 オープンイベントは特にやるつもりはなかったのだが、人が大勢集まっていて、ビャクライン公爵が何か言いたそうなので、振ってあげた。


「私は、ビャクライン公爵領領主タイガ=ビャクラインである。この『カレーライス』は、我が愛しき娘ハナシルリが考案した素晴らしき料理である。本来は戦士の料理であるが、食べた者は皆、心も体も熱く元気になる奇跡の料理である。ぜひ堪能してもらいたい!」


 ビャクライン公爵は、アナレオナ夫人にきつく言われていたらしく、短い挨拶で済ませてくれた。


 ただ、戦士の料理という間違った知識を、一般の人に植え付けるのは本当にやめてもらいたい。

 ここにいるほとんどの人は、炊き出しで一度『カレーライス』を食べているし、その時のアナウンスも聞いているから、ハナシルリちゃん考案というのは知っていると思うが、再度そこを強調したかったようだ。

 それはいいのだが……戦士の料理というのは、下手したら尾ひれがついて都市伝説的に広まってしまう可能性もある……トホホ。



 開店すると、並んでいた人たちがどんどん吸い込まれていき、客席が埋まっていく。

 並んでいるときにシステムを十分に説明したので、大きな混乱は起きていない。

 みんな食券を買って、提供カウンターに並んでくれているのだ。

 そして、カレーを受け取ると、好きな席について食べ出していた。

 客席のあちこちから、「うまい!」とか「うおぉ」とかいう感動の声と笑い声が聞こえてきて、店内が幸せな空気に包まれていった。


 800席も作ったのに、オープン早々埋まってしまう勢いなのだ。


 この800席とは別に、個室スペースもいくつか作った。

 貴族などが訪れた場合の特別仕様である。

 貴族であろうと誰だろうと、普通の客席で食べてもらう予定なのだが、特別の集まりなんかで利用したいという要望があったときには、部屋代をとって貸し出そうと思っているのだ。

 まぁ……それは建前で……実際のところは……ほぼ俺たち用の空間だ。


 仲間たちやビャクライン公爵や陛下たちを、一番大きな個室に案内した。

 五十人くらい収容できる大部屋だ。


 俺の屋敷で一緒に食事をするいつものメンバーたちが、ほぼ全員来ているのだが、早くカレーを食べたくてうずうずしている。

 今まで、さんざん食べてきたのに……。


 移動型の給仕カウンターをセッティングして、この部屋の中でカレーが提供できるようにした。

 屋台みたいな感じの移動カウンターである。

 カレー鍋が『甘口』『中辛』『辛口』と三種類セットしてある。

『ご飯』『福神漬け』『らっきょう』『温玉』『チーズ』なども装備してあるのだ。

『トンカツ』と『唐揚げ』だけは、キッチンで調理したものを運んでもらうかたちにした。


 今日は、俺とジョージで給仕して、みんなの分をよそってあげた。

 早速みんな食べだして、大喜びしている。

 そして……この中には一人だけ『カレーライス』を初めて食べる人がいた。

 そう……昨日やってきたツクゴロウ博士だ。


 博士は、最初は食べ物にはあまり興味がないと言って、テンションが低かったのだが……今は、一心不乱に食べている。


 そして何故か……チリヂリの白髪が静電気を帯びたように、逆立っている……。

 ある意味怖いけど……ある意味面白すぎる……。

『カレーライス』にそんな力はないと思うんだが……。

 なんで静電気を帯びてしまっているわけ……?

 博士……美味しすぎて……発電しちゃったのかな?

 そんな事は、あるはずがないのだが……。

 また『カレーライス』の不可思議な……都市伝説的な変な知識が広まってしまいそうで怖い。


 まだ気づいてないけど、ビャクライン家のシスコン三兄弟がこれを見たら……『カレーライス』を食べれば『雷魔法』が習得できるとか、わけのわからないことを言いだしそうだ……。






 ◇






 午後になって俺は、遺跡探しをすることにした。

 昨日報告があった『正義の爪痕』の首領が見つけていたという新たな遺跡を探すことにしたのだ。

 襲撃の際に使われた厄介で高性能な魔法道具は、ほとんどその遺跡から発掘したという記録が残っていたとのことだった。

 普通に考えれば、首領が見つていないお宝が残っている可能性は非常に少ないだろう。

 それでも、一応、確認だけはしておきたかったのだ。


 首領の残した記録には、その遺跡の場所の正確な情報は記載されておらず、『領都セイバーン』を南に下った海沿いの都市『ウバーン市』の周辺エリアらしいというおおざっぱな情報しか分かっていない。


 かなり広いエリアになるが、それでも全くあてがないよりは良いので、そのエリアを探してみることにしたのだ。


 今回連れて行くのは、『クイーンピクシー』のニアとリリイとチャッピーだ。


 飛竜船で上から何か気配を感じないか、試してみることにした。

 いつものように『波動検知』をかけつつ、『財宝発掘』スキルや『第六感』スキルなどが作用してくれることを願って探す。


 いつもそうだが、すぐに何か感じるわけではないので、気長にやるしかない。


 今まで発見されずに残っていた遺跡ということからすれば、普通に探して見つかるような場所にはないだろう。


 なんとなく……海沿いが気になるので、海の方から陸地の方を眺めるようなかたちで、海沿いを探してみることにした。


 海沿いの都市『ウバーン市』を中心に見て、東西に延びる海岸線を西から東に向けてじっくり移動してみる。

 砂浜のようなになっているところもあれば、岩場になっているところもある。

 もちろん『ウバーン市』のところは港になっている。

 断崖絶壁のような感じになっているところもある。


 西から海岸線を見て行き、『ウバーン市』を通り過ぎて、東に移動している途中に、断崖絶壁がしばらく続くエリアがある。

 こういうところは、普通には調査しにくいところだ。

 上から降りて調査するのも大変だし、海からも岩が多く大きな船では近づけない。

 岩が多くて波打ち際が危ないし、目隠しのような役割も果たす感じだ。


 俺だったら、こういう場所に秘密の施設を作ると思う。


 そんなことも含めて……なんとなく怪しい感じなんだよね。


 ただ入り口らしきものは、見当たらない。


「やっぱ……ここが怪しいわよね。『亜空間検知』をかけてみたんだけど、亜空間とは違うけど、何か空間の揺らぎみたいなものを感じるのよね。入り口とかが、偽装してあるんじゃないかしら」


 ニアが、突然そんなことを言った。

『亜空間検知』スキルを使って、亜空間とは違うが、何かの違和感を感じたらしい。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る