821.勝手に、チームリーダー。
ツクゴロウ博士たちへのクワの付喪神クワちゃんの紹介が終わり、博士も少しだけ落ち着きを取り戻した。
次に『闇の石杖』の付喪神闇さんに来てもらった。
「な、なんと……つい最近……付喪神化したばかりじゃと……。なぜワシが来るまで待てなかったのじゃ……。付喪神化するその瞬間に立ち会いたかった! 世紀の瞬間だったのに……。な、なんてことだ……う、うぎゃぁぁぁ」
ツクゴロウ博士は、今度は号泣してしまった。
付喪神研究の第一人者としては、付喪神化の瞬間に立ち会えなかったのは、さぞ悔しいのだろう。
その気持ちは、分からなくはない。
だが、だからといって……そんなに号泣しなくても……。
なにこの感情の起伏の激しさ……情緒不安定か!
「なんじゃい、このじじいは! もうびちょびちょではないか」
闇さんが、引き気味に言っている。
「そうじゃなぁ……。泣いてる場合じゃない。まずは、スリスリせねば!」
ツクゴロウ博士は、気を取り直して、闇さんに手を伸ばした。
「や、やめろ、近づくでない!」
闇さんは、ツクゴロウ博士の手を躱し、博士の頭を杖の先で殴打した。
「おお、すばらしい動きじゃ! 生まれたばかりじゃと言うのに、お主は強いのう!」
ツクゴロウ博士は、殴られたにもかかわらず嬉しそうに言って、全くめげずに再度触ろうと手を伸ばした。
だが今回もリューさんとツボンちゃんが間に入って、止めてくれた。
次に、『魔盾 千手盾』の付喪神フミナさんを紹介した。
「おお……なんと、盾の付喪神がこんなにべっぴんさんのかわい子ちゃんとは……。これはレアだ。長生きしてよかったのじゃ! いやー本当に可愛いのう! 人型に顕現しているとき、盾はどうなっておるのじゃろ?」
ツクゴロウ博士はそう言って感動しながら、これまで同様に触る体勢でフミナさんに近づいた。
だがこれには、リューさんとツボンちゃんだけでなく、クワちゃんと闇さんまで加わった鉄壁の防御で、ツクゴロウ博士を一切近づけなかった。
フミナさんは、一瞬ゾッとしたような顔をしていたが、ツクゴロウ博士と付喪神たちの押し問答を見て、少し笑みをこぼしていた。
ツクゴロウ博士は散々わめき散らしていたが、四人の付喪神たちのガードは鉄壁で、フミナさんに近づくことができなかった。
そして付喪神たちからガードされながら、話しかけることだけは、かろうじてできた状態だった。
「焦らなくても、いなくなるわけじゃないから大丈夫」とニアに諭され、しぶしぶ引き下がっていた。
もう一人の付喪神……家の付喪神であるナーナについては、付喪神であることを俺の仲間たち以外には公開していない。
それゆえに、今回は紹介するのはやめたのだ。
付喪神との騒がしいご対面となったツクゴロウ博士であるが、しばらく『コロシアム村』に滞在することになった。
というか……国王陛下の要請もあり、しばらく俺たちと行動を共にすることになってしまったのだ。
そしてリュートの付喪神リューさんと壺の付喪神ツボンちゃんも、『集いし力』として力を貸してくれることになった。
二人とも戦闘でも活躍してくれそうだが、俺は本来の得意分野で貢献してもらおうと思っている。
リューさんは、音楽で人々を幸せな気持ちにすることができるし、ツボンちゃんは発酵や熟成を利用して美味しい食べ物を提供し、人々を笑顔にすることができるからね。
ツクゴロウ博士は、付喪神探しにも協力してくれることになった。
昔話や過去の文献に出てくる付喪神は他にも数多くいるので、一体でも多く探し出そうということになったのだ。
そしてなぜか……突然ツクゴロウ博士が、付喪神でチームを作ると言い出し、勝手にリーダーになってしまった。
すでに俺の仲間たちで『チーム付喪神』が作られているということは……言い出せなかった。
なんとなく……張り切っているツクゴロウ博士が可哀想になってしまったからだ……。
まぁ実質的には、すでにある『チーム付喪神』と同じというか……そこへ新メンバーが加入するというかたちなので、嬉しそうなツクゴロウ博士の為にも受け入れてあげた。
そして、フミナさんの妹みたいな存在のニコちゃんも、付喪神ではないが一緒に入れてほしいという話をした。
杖の付喪神の闇さんのパートナー候補にもなっているしね。
それから、クワちゃんにもパートナー候補がいるので、状況によってその子たちも加わるだろうという話もした。
家の付喪神のナーナは、本来的には『チーム付喪神』のメンバーというか……リーダー的ポジションだったのだが、一旦影のメンバーというかたちにせざるを得ないだろう。
まぁもともと俺のパーティーメンバーだから、兼務状態ではあったんだけどね。
フミナさんやクワちゃんたちは、ツクゴロウ博士が勝手にチームを宣言してしまったので、結構ドン引きしていた。
だが……俺が密かに念話を入れて、しばらくチームとして活動してくれるように頼んだので、しぶしぶ了承していた。
ツクゴロウ博士は、クセが強いだけで、慣れれば結構面白くていい人だと思うんだよね。
付喪神でチームを作ることが、ツクゴロウ博士の夢だったらしく、勝手に盛り上がっている。
興奮冷めやらない感じで、新たな動きを見せた。
チームを作っただけでは飽きたらず、ポジションまで設定し始めてしまったのだ。
そしてなぜか……冒険者パーティーの体裁になっている……。
どうやらツクゴロウ博士の中では……戦う前提のチームらしい。
まぁ強いに越したことはないけど……無理に戦う必要はないんだけどね。
どちらかというと……付喪神としての特殊な能力を発揮して、人々の心を豊かにする活動に期待していたんだけど……。
盾の付喪神のフミナさんと杖の付喪神の闇さん以外は、戦う前提の道具じゃないんだけどね……。
そう思いながらも……ポジションを勝手に決めて発表しているツクゴロウ博士の話に耳を傾けていたら……それなりに的確なポジション割で、面白いかもと思ってしまった。
ツクゴロウ博士が決めたポジションは……
○アタッカー……ツクゴロウ博士
自分で先陣を切って暴れ回る気満々らしい。
○アタッカー……クワちゃん
クワだから、物理攻撃に向いているという判断なのだろう。
○タンク……フミナさん
元『守りの勇者』なので、鉄壁の守りになるだろう。
そして『魔盾 千手盾』の性質上、アタッカーでもあると言える。
○ロングアタッカー……ツボンちゃん
いろんなものを射出できる特殊な大砲のような存在だから、ロングアタッカーにぴったりだ。
○魔法使い……闇さん
闇さんの『固有スキル』は、相手の能力を下げるというものだが、『共有スキル』に入っている魔法系のスキルを使うこともできるので、魔法使いポジションを十分こなせるだろう。
○魔法使い(ヒーラー)……ニコちゃん
ニコちゃんは、闇さんのパートナーということで、ツクゴロウ博士は魔法使いポジションにしたようだ。
それとヒーラーポジションも兼務してもらうつもりらしい。
魔法薬を使って回復する担当だと説明していた。
ニコちゃんは『ホムンクルス』で、通常の人族よりも能力的に強化されているので、やろうと思えば多分どんなポジションでもこなせてしまうだろう。
だが、当面は魔法使いポジションでいいだろう。
○サポーター……リューさん
ツクゴロウ博士は、サポーターという支援職を当てがった。
冒険者パーティーに一般的にいるわけではないが、支援をする能力がある者がいた場合、特殊なポジションとして設定する場合があるようだ。
ツクゴロウ博士は、なぜか冒険者パーティーについてめっちゃ詳しいんだよね……。
もしかして、冒険者に憧れているとか……?
まさか……若い頃冒険者だったとか……そんな事はないよね……?
ツクゴロウ博士は、今後一緒に訓練すると鼻息を荒くしていたので、『チーム付喪神』が今までやっていた『希望迷宮』にお邪魔しての特訓は、一旦終了し、他の人たちと同じように秘密基地『竜羽基地』で訓練してもらうかたちにした。
訓練用の魔物を『希望迷宮』から調達させてもらって、秘密基地のバトルステージで戦えば、同じような効率で訓練できるだろう。
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