820.ご対面で、大失態。

 ツクゴロウ博士、リュートの付喪神リューさん、壺の付喪神ツボンちゃんと、俺の仲間たちや貴族の皆さんの挨拶が一通り終わったので、本題に入ることにした。

 俺の仲間の付喪神を、ツクゴロウ博士たちに紹介するのだ。

 これをやらないと、またツクゴロウ博士が面倒くさくなっちゃうからね。


 チーム付喪神は、『真祖吸血鬼 ヴァンパイアオリジン』で始祖でもあるドラキューレさんことヒナさんたちが暮らす『希望迷宮』で、一昨日からレベル上げの特訓をしているが、戻ってきている。

 今日で三日目だが、ずっと『希望迷宮』にいるわけではなく、午前中に特訓して午後は戻ってくるというスケジュールにしているのだ。

 特にクワの付喪神クワちゃんは、あのナルシスト貴族のシャイン=マスカット氏の取り巻き美女集団『マスカッツ』を農業美女集団に変えるとともに、戦う力も身につけさせてあげるための特訓もしてくれることになっている。

 それ故に、午後には領都に転移して、『マスカッツ』の特訓もしてくれているのだ。

 ちなみにクワちゃんは、転移の魔法道具を使うことができないから、いつも『兎亜人』のミルキーの妹のアッキーが、連れて行ってくれているらしい。

 最初はミルキーを見て、昔のパートナーに似ていると言っていたのだが、どうもアッキーのことを気に入って、パートナー候補と考えているようなのだ。


 ミルキー、アッキー、ユッキー、ワッキーたちに自分を握らせて、一番しっくりきたのがアッキーだったらしい。

 『マスカッツ』の実質的なリーダーのサンディーさんも、しっくり来ているらしく、彼女もパートナー候補と考えているようだ。

 というか……今日の昼に会った時に「アッキーちゃんとサンディーちゃんの二人がパートナーなら、ワシもハーレム状態じゃのう……ほほほほ」と呟いているのを、俺は聞いてしまったのだ。

 クワちゃんは、パートナー二人体制を望んでいるようだ。

 単にハーレム状態になりたいというだけの、わがままなような気がしてしょうがない……。



 最初に、クワちゃんに来てもらった。


「おお、あなたが……有名なクワの付喪神ですか!? ずっと探しておったのじゃ! あゝ……なんと素晴らしいクワなのじゃなぁ……ほほほ」


 ツクゴロウ博士はそう言って、飛びつくようにクワちゃんの体を撫でだした。

 何かに取り憑かれているような感じで、ちょっと怖い……。


「なんじゃ! やめろ! 勝手に触るでない! じじい、離せぇぇ!」


 ——ゴツッ


 クワちゃんは、いきなりのことに驚いている。

 そして、気持ち悪がっている。

 まぁそれが普通の反応だよね。

 耐えきれずツクゴロウ博士の顔面にパンチを入れた。

 なんと驚くことに、クワの柄の部分から手が飛び出て、パンチしたのだ。

 クワちゃんも、腕を出せたらしい。


「おお、さすがクワ付喪神、強いのじゃ! すばらしいのう」


 ツクゴロウ博士はそう言って、全くめげずにまた触ろうとした。


「これ、やめんか! 誰彼構わず、そうやって触るのが悪い癖じゃ!」


「そうです。びっくりするんですから、ほんとにやめてください!」


 リュートの付喪神リューさんと壺の付喪神ツボンちゃんが、間に入って身を挺して止めてくれた。


「まったく……なんなのじゃ、このじじいは!?」


 クワちゃんがご立腹だ。


 俺は、クワちゃんにツクゴロウ博士が付喪神研究の第一人者で、素晴らしい人なのだが、付喪神が好き過ぎてこんな感じになってしまうという説明をし、上手く取り持った。


 そして、気分を変える意味でも、クワちゃんに手が出せることについて質問した。


「出そうと思えば、手だけでなく足も出せるぞい! だが普段は必要ないのじゃ! わしは戦う時も、クワ本体が武器そのものじゃからのう。移動も浮遊して動いたほうが早いしのう。手を出すなんて、本当に久しぶりなのじゃ。まったく、このイカレじじいのせいで……」


 せっかく気分を変えるために質問したのに、最後にはまたツクゴロウ博士のさっきの行動への怒りに気持ちが戻ってしまった……。

 クワちゃんは、かなりご立腹だ。


 前に聞いたツクゴロウ博士の本の内容によれば、リュートの付喪神リューさんに会った時にも怒らせ、壺の付喪神ツボンちゃんに会ったときには泣かせているのに……ツクゴロウ博士は学習能力ゼロらしい。

 まぁ、その本でも紹介している昔話で有名な……伝説のクワの付喪神に会ったのだから、興奮が抑え切れないというのもわかるけどね。


 再度気分を変えるために、もう少し手足を出すことについてクワちゃんに尋ねてみた。


 それによると、付喪神がレベルが上がったり、なにかのきっかけで手足が出せるようになるということが起きるらしい。

 ただ大体の付喪神は、それほど手足を必要としないので、出すことはあまりないようだ。


 そんなクワちゃんの説明を、ツクゴロウ博士も目を爛々とさせて一緒に聞いている。

 そのお陰で、少しおとなしくなった感じだ。

 研究者としては、付喪神から直接こういう話を聞くのは、非常に重要なことなのだろう。


 『闇の石杖』の付喪神の闇さんも、『希望迷宮』での特訓でレベルが上がり、手足が出せるようになったらしい。

 クワちゃんが、今教えてくれたのだ。

 ただ闇さん自身も、本体が武器になるから手足を出す必要はあまりないみたいだ。

 まぁそういう意味では、リュートのリューさんも、壺のツボンちゃんも手足は必要ないんだろうけどね。


 ふと思ったが……クワちゃんは手を出せるんだし、指があるわけだから、自分で転移の魔法道具を使うことができたはずだ。

 敢えてそれは言わないで、アッキーに送らせるようにしたに違いない。


 クワちゃん……侮れない。

 でも、アッキーとも訓練しているようだから、まぁ大目に見るけどね。

 アッキーは時間があるときは、『マスカッツ』の特訓にも協力してくれているのだ。

 そしてその合間に、クワちゃんを武器として使う攻撃の練習をしたりしているらしい。


 本格的にパートナーとして、がんばり出しているようなのだ。

 実際は、クワちゃんに言われるままに付き合ってあげているだけかもしれないけどね。


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