819.マナゾン大河の、海獣軍団。
『マナゾン大河』の川賊は、すべて壊滅させたと思う。
念の為、『川イルカ』のキューちゃんたちに、今後も襲われる船がないか巡回するように頼んだ。
するとキューちゃんたちは、この近くで仲間を増やすと言って、一斉に泳いでいってしまった。
そしてしばらくして、俺たちの船が『セイセイの街』の港に近づいた頃、キューちゃんが仲間を連れてきた。
このエリアに住んでいる『川イルカ』たちを、仲間にしてきてくれたようだ。
そして新しい種類の仲間も連れて来た。
それは『マナティー』だった。
最初は『ジュゴン』かと思ったが、尻尾の形が平べったく丸くなっていたので『マナティー』だとわかった。
『マナティー』は大きく、五メートルくらいあった。
十三頭の群れだった。
分類には諸説あるようだが、イルカたちも海獣という分類に入れる場合もあるようなので、『川イルカ』と『マナティー』で『海獣軍団』という呼び方にすることにした。
『スライム軍団』『野鳥軍団』『野良軍団』『爬虫類軍団』『猿軍団』に続いて、『海獣軍団』が出てきてしまったのだ。
『海獣軍団』には『マナゾン大河』を運行する船が、川賊や川ザメのような巨大生物や魔物に襲われないように、定期的に見回ってもらうことにした。
これで一安心である。
今後の『海獣軍団』の活躍に期待しよう。
それからもう一つ、キューちゃんは、俺が頼んだウナギを見つけて、捕まえてきてくれた。
俺が希望した通り六十センチくらいのサイズで、見た目的にも元の世界でよく見ていたウナギと同じだ。
これで完璧な鰻丼が食べられそうだ。
かなりの数を生け捕りにしてきてくれていたので、『コロシアム村』にウナギの養殖池を作ることにした。
ただ俺の中の常識では、ウナギの養殖は、シラスウナギを捕まえてきて育てることで、繁殖させての養殖は技術的に難しいということになっている。
それ故、養殖池といっても飼育するだけで、食べたい時にいつでも漁れるというだけのものになりそうだ。
ただ……ダメ元で飼育していれば、もしかしたら繁殖して増えることもあるかもしれない。
なぜなら、この世界の魚たちには海水と淡水の区別があまり関係ない感じがあるからだ。
そういう状況なら、普段生活している川に似たような環境を再現した池で飼育していれば、自然と繁殖することもあるかもしれないと思ったのだ。
『セイセイの街』の港に戻った頃には、もう日が暮れかけていた。
捕まえた川賊たちを、衛兵に全に引き渡し、俺たちは『コロシアム村』の屋敷に戻った。
ちょうどナビーとサーヤも、戻って来たところだった。
早速、『郵船商会』との交渉の報告をしてくれた。
あの大型船の船長していた人の良さそうなおじさんが、一応会頭となっていたようだ。
友達数人とやっている個人事業のようなものだと言っていたが、彼が会頭だったらしい。
事業を広げたいという希望はあるようだが、拡大するには船だけでなく当面の事業資金も必要で、蓄えがないので難しいということだったらしい。
そこで、サーヤは三千万ゴルの出資を決めたとのことだ。
その辺の経営判断はサーヤに任せてあるし、金額的にも三千万ゴル程度なら全く問題は無い。
『マナゾン大河』を挟んで、『セイセイの街』とちょうど反対側にある『ヒコバの街』が活動拠点らしい。
『ヒコバの街』は、ピグシード辺境伯領に仕官してくれることになった女侍ことサナさんの父親であるチーバ男爵が守護をしている街だ。
コバルト侯爵領の中では、多分一番まともな市町だと思うので、少しホッとした。
人の雇用については、地元で顔が広いらしくあてがあると言っていたそうだ。
また移住を希望する人の中で、船の扱いができる人がいれば採用したいという話もしていたらしい。
『セイセイの街』に支店を作って、その要員にしてもいいと考えていたようだ。
ただ会頭である船長さんは、自分には商売の才能があるとは思えないので、うまくできるか不安だとも言っていたらしい。
そして、むしろ自分たちを丸ごと『フェアリー商会』で雇ってもらった方が良いのではないかと提案してきたようだ。
『フェアリー商会』の事業にすることを、提案されてしまったらしい。
そこでサーヤは、船の現物出資と運営資金の提供をするかたちで、『郵船商会』を『フェアリー商会』の子会社にすることにしたようだ。
船長たちは、『フェアリー商会』の子会社になったことを、めっちゃ喜んでいたとのことだ。
嫌がるどころか、安心して仕事に専念ができると安堵の表情を浮かべていたらしい。
いつ潰れてもおかしくない不安定な状態で経営を続けるよりは、大きな商会の子会社になった方が安心できるのだろうとサーヤは言っていた。
ということで……関連会社がまた増えてしまった。
国王陛下たちが待っている会議室に、ツクゴロウ博士たちを案内した。
「陛下、お目にかかるのは、久しぶりですのう。お元気そうで、なによりですじゃ」
ツクゴロウ博士が、臣下の礼を取りながら国王陛下に挨拶をした。
礼儀は、わきまえているらしい。
「博士も、お元気そうで安心しました。お顔が見れて、嬉しいですよ」
国王陛下も優しく微笑んだ。
王立研究所の上級研究員のドロシーちゃん以外は、ツクゴロウ博士に会うのは初めてということで、みんな代わる代わる挨拶をしていた。
そしてリュートの付喪神リューさんと壺の付喪神ツボンちゃんとも挨拶を交わしていた。
普通なら驚くところだが、ここにいる人たちは、もう付喪神慣れしているので、普通な感じで挨拶していた。
「ツクゴロウ博士、ビャクライン公爵家のハナシルリです。博士のご本を読みまちた。付喪神が大好きです!」
ビャクライン公爵家長女で見た目は四歳児中身は三十五歳のハナシルリちゃんが、四歳児らしく可愛く挨拶をした。
彼女はニアと一緒で、大の付喪神好きなので、感動が抑えられないようだ。
ツクゴロウ博士に走り寄り、抱きついていた。
ちなみに、溺愛オヤジのビャクライン公爵とシスコン三兄弟たちは、一瞬だが殺気を放っていた。
てか……九十五歳のおじいさんにまで、殺気を放つのかい!
「ほほほ、可愛いのう、ハナシルリちゃんは。こんなにちっちゃいのに、もう読んでくれたのかい?」
「ほんとに可愛いわい! リューさんが何でも演奏してやるぞい!」
「賢そうで、可愛いわねぇ。私も何か美味しいものを、出しちゃおうかしら」
ツクゴロウ博士、リューさん、ツボンちゃんは、ハナシルリちゃんの可愛さにやられてしまったようだ。
ちなみにツボンちゃんは、本当に美味しいものを壷の中から出してくれた。
壺の中から、大きめの鍋を取り出してくれたのだ。
壷の中が、『アイテムボックス』みたいな亜空間収納になっているから、いろんなものが出せるんだよね。
その鍋の中には、フルーツを混ぜたヨーグルトが入っていたのだ!
ぶどう、干しぶどう、オレンジ、りんご、桃などが入った甘いヨーグルトだった。
これには、みんな大喜びだった。
そして……すぐに発売できるレベルだと思う。
ツボンちゃん、後でレシピを教えてくれないかなぁ……。
まぁツボンちゃんの熟成や発酵を促進する能力で微妙な調整がされているんだとしたら、レシピだけ教わっても再現できない可能性はあるけどね。
いずれにしても、めっちゃ美味しいヨーグルトなのだ!
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