817.ツクゴロウ博士、大暴れ。
大型輸送船を襲ってきた川賊たちのアジトに、たどり着いた。
『マナゾン大河』に注ぐ支流を、少し入ったところにあった。
支流はいくつかあり、もっと大きな支流もあるようだが、小さめの支流の奥にアジトを作っていたのだ。
すでに、中型船三隻に乗っていた三十人の川賊は確保済みなのだが、アジトにはまだ二十人程度残っているらしい。
かなり大規模な川賊団と言える。
俺たちは、特に作戦もなくアジトがある入り江に船をつけ、正面突破で乗り込むことにした。
正直、俺たちのレベルからすれば、川賊に対して作戦は必要ない。
正面から攻めて、いつものように『状態異常付与』スキルで『麻痺』か『眠り』を付与して制圧する予定である。
ところが……船着場に船を寄せるなり、ツクゴロウ博士が飛び出してしまった。
「ウハハハハ、悪者を成敗するのは、胸が高鳴るのう! もう少し暴れたいと思っていたところじゃ。ここはワシに任しとけ!」
ヨレヨレな感じで走りながら、そんなことを叫んでいた。
侵入者に気づいた川賊たちが、剣などを持って一斉に襲ってきたが、ツクゴロウ博士は楽しそうに暴れだした。
さっきの暴れん坊じいさん状態だ!
すぐに俺たちも行こうと思ったのだが……行くまでもなさそうだ。
さっきと同じように、ヨレヨレな動きながら、滅茶苦茶な感じで杖を振り回している。
川賊たちは、杖に打ち付けられて次々に地面に転がっていく。
昔カンフー映画で、酔拳という酔えば酔うほど強くなるという酔っ払いの動きで戦う拳法を見たが、それに近いものがある。
ヨレヨレで、フラフラで、倒れそうなのだが、その動きを利用して攻撃している感じだ。
敢えて言うなら……“酔拳”ならぬ“老衰拳”といったところか……。
ヨレれば、ヨレるほど強くなる……ムフフ。
我ながら……言い得て妙だ。
自分でちょっと吹いてしまった。
戦いの最中なのに、緊張感がなかった……反省しよう。
でもそんな呑気な考えにふけられるくらい、ツクゴロウ博士は強いのだ。
念のため……失礼と思いつつも、密かに『波動鑑定』をさせてもらった。
それによると……ツクゴロウ博士は、レベル49だった。
兵士でもなく、ずっと研究者だったはずだが……めっちゃレベルが高い。
はっきりって騎士団に入れるレベルだ。
というか騎士団長もできるレベルだ。
『通常スキル』をかなり持っている。
俺が持っていないスキルでは、『杖術』というのがある。
どうも……あの滅茶苦茶に振り回しているのは、単に振り回しているのではなくスキルの力も発動しているようだ。
的確に急所をとられていると思ったんだよね。
リュートの付喪神リューさんは、『種族』が『付喪神 スピリット・リュート』となっている。
そしてレベルが、なんと40だ。
クワの付喪神のクワちゃんほどではないが、かなり高い。
『種族固有スキル』に『支援伴奏』というのがある。
奏でる音楽によって様々な支援効果を出せるのは、どうもこの『種族固有スキル』によるところらしい。
『通常スキル』には、『物理耐性』と『体当たり』がある。
壺の付喪神ツボンちゃんは、『種族』が『付喪神 スピリット・ポット』となっている。
そしてレベルは45だ。
これまた高い。
『種族固有スキル』に『秘密の壺』というのがある。
どうも『アイテムボックス』みたいな収納スキルらしい。
様々なものを分類しつつ、収納できるようだ。
そして収納スペースを、いくつも区切って作れるようだ。
そう考えると、ただ入れるだけの『アイテムボックス』よりも便利なスキルだろう。
もう一つ『思う壺』という『種族固有スキル』があって、様々なものを壺から放出して思い通りに攻撃できるらしい。
どうも『秘密の壺』と連動しているようで、毒液やイシツブテなど収納してあるものを武器として発射することができるようだ。
事前に収納しているものなら、何でも出せる発射台のような感じだ。
『笑いの壺』という『種族固有スキル』もある。
対象を強制的に笑わせるスキルらしい。
『笑いキノコ』を食べたような状態になるのだろうか……?
まぁ『笑いキノコ』というものも、この世界にあるかどうかわからないけど。
『通常スキル』には、リューさんと同じく『物理耐性』と『体当たり』がある。
ステータスを簡単に確認している間に、ツクゴロウ博士が川賊を制圧してしまった。
リュートのリューさんは、さっきと同じような爽快なテンポの音楽を奏でていた。
壺のツボンちゃんは、『笑いの壺』という『種族固有スキル』を発動したようだ。
何人かの川賊が、笑い転げて攻撃できなくなっていた。
意外と怖い攻撃かもしれない……。
笑すぎるとお腹が痛くなったり、呼吸ができなくなったりするからね。
その状態が長く続いたら、かなりきついと思う。
なんとなくだが……拷問というか……尋問にも使えそうだ。
ツクゴロウ博士は、杖で滅茶苦茶しているようで、加減もしているし、
実は……達人級なのかもしれない。
リリイ、チャッピー、ジョージが倒れた川賊たちをお縄にしてくれた。
俺たちは川賊のアジトを捜索し、押収できるものを全部押収してしまった。
ここの川賊は大規模な川賊団だったが、お金はさほど持っていなかった。
金貨が三百枚程度と銀貨、銅貨、銭貨がそれなりにあった。
全部合わせても三百五十万ゴルぐらいにしかならないだろう。
といっても、日本円にして三百五十万円くらいの価値があるし、この世界の一般的な人の収入を考えればかなりの大金ではある。
だが、俺が思っていたよりも少なかった。
川賊行為で奪った物品も、ほとんど残っていなかった。
どうやら換金した後らしい。
川賊たちに尋問したところ、換金して間もないので、三百五十万ゴルもお金があったとのことだ。
俺は少ないと思ったが、普段はもっと少ないらしい。
人数が多いので、みんなで浪費するとあっという間になくなるのだろう。
酒好きらしく、ワインの樽が十二個もあった。
ある程度保存が効く食料も、それなりにあった。
家畜の飼育は、鶏だけのようだ。
それも三十羽しかいない。
五十人もの川賊がいるアジトなのに、だいぶ少ない気がする。
俺は、これらの状況から考えて、川賊行為で奪った物品はすぐに換金でき、食料についてもすぐに調達ができる状況にあるのだろうと予想した。
それ故に、家畜なども無理に飼育する必要がないのだろう。
取引のある商会があるはずなので、そこも潰す必要がありそうだ。
俺は、川賊たちに取引先を全て白状させた。
それによると……川賊行為で手に入れた物品を売りさばく商会は、二つあった。
その商会は、川賊だと知りつつ換金してくれるらしいので、悪どい商会であることは間違いない。
そしてその商会は、ルセーヌさんとゼニータさんの特捜コンビが情報を掴んだ商会と同じだった。
『マットウ商会』から爆弾を手に入れた二つの商会と同じだったのだ。
その二つの商会については、ルセーヌさんたちが対処することになっているので、情報だけ流して、任せれば大丈夫だろう。
そして、ここの川賊の話によると、特別な武器を仕入れないかと商談を持ち掛けられていたらしい。
値段をふっかけられたこともあり、この川賊団は購入を断ったとのことだ。
人数も多いし戦力的には足りているので、特別な武器は必要ないという判断もあったようだ。
アジトには、中型船がもう一隻と小型船が五隻あったので、それらも全て没収した。
アジトの建物自体は、木造の長屋みたいな造りの建物で、決して大きな屋敷のような感じではない。
人数が多いからか、長屋のような作りの粗末な屋敷が三つほどある。
みんなで集まるような大きな建物も一つある。
それから食料などを入れておく倉庫のような建物も一つある。
当然このアジトの屋敷も、没収することにした。
ただ使い道はないので、そのまま放置状態になると思う。
鶏三十羽については、『コロシアム村』に連れて行って、牧場で飼育しようと思う。
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