816.手足が出せる、付喪神。

 俺が思った通りに、暴れん坊じいさんは付喪神研究の第一人者ツクゴロウ博士で、一緒にいたのはリュートの付喪神と壺の付喪神だった。


 国王陛下からの手紙で、俺たちのことを聞いていたらしく、俺の仲間の付喪神に早く会いたいとだだをこねたのだが、川賊退治に行く途中なのですぐには戻らないと話をしたところ、一緒に川賊退治に行くことになってしまった。


 今は、船を襲ってきた川賊のアジトに向かっているところだ。

 着くまでの間に、今までニアや国王陛下に聞いたツクゴロウ博士の情報を、頭の中で整理した。


 ツクゴロウ博士は王立研究所の名誉研究員で、現在九十五歳であると王立研究所の上級研究員であるドロシーちゃんが、以前教えてくれていた。

 ドロシーちゃんは、面識があると言っていた。


 放浪するように国内を自由に旅をしているということだったが、国王陛下の話では非公式の地方調査官のようなことをしてくれているとのことだった。

 訪れた場所の状況などを、手紙で報告してくれるのだと言っていた。

 国王陛下が貴重な郵便の魔法道具の一つを渡しているということからすれば、実質的には国王直属の隠密なのではないかと俺は思っている。


『ツクゴロウと愉快な付喪神たち〜付喪神の記録と研究〜』という著書があるらしく、ニアとビャクライン公爵家長女で見た目は四歳児中身は三十五歳のハナシルリちゃんは、付喪神が大好きでこの本を愛読していると言っていた。


 本の中にリュートの付喪神の話があって、ツクゴロウ博士に無理矢理スリスリされて、怒ったということだった。

 ちなみにリュートというのは、弦楽器の一種だ。

 この世界では、一般的な楽器なのだ。

 吟遊詩人も使っている。

 リュートの付喪神は、一度聞いたメロディーは演奏ができてしまうらしい。


 壺の付喪神は、撫で回されすぎて泣いたということだった。

 壺の付喪神は、壺の中に入れたものを腐りにくくしたり、逆に熟成や発酵を早めたりという能力を持っているらしい。


 俺は、そんな能力がほんとにあるのか付喪神たちに聞いてみた。

 それによると、確かにあるらしい。


 それからニアに聞いていた話では、会話ができるだけではなくて、この二体の付喪神は手足が生えて動き回れるとのことだった。

 さっき戦闘していたのを見た限りでは、手足は出ていなかった。

 二体とも宙に浮いていたのだ。

 この点についても、確認してみた。 


「よく知っておるのう。まぁ本に書いてあるからの。確かに手足は出せるぞい、ほれ、この通り!」


 リューさんがそう言った途端、リュートから手と足が飛び出した。


 可愛い感じというか……微妙にシュールな感じだ。

 顔がないからそう感じてしまうのだろうか……。


「私も出せます……」


 今度はツボンちゃんが、そう言って壺から手足を出した。

 おお、今度は顔もある。

 全体に白い壺で上下に青で模様が入っているのだが、壺の一番広い真ん中の部分にニコニコマークのような……書き入れたような顔が浮かんでいる。


「顔もあるんですか?」


 俺は思わず訊いてしまった。


「本当はないのですが、ツクゴロウ博士が、顔があったほうが可愛いと言うので、表示するようにしているのです。人族のような機能があるわけではないんです。模様のようなものです」


 ツボンちゃんが、そう説明してくれた。


 実際の顔ではないが、そういう模様が表示されているということのようだ。


 ふと思ったが、そもそも付喪神たちは……どういう原理で見たり聞いたりしているのだろう……?

 目や耳は無いのに……まったくの謎だ。

 まぁ付喪神としての特別な能力なのかもしれないけどね。

 付喪神自体が精霊の集合体みたいなものだろうから……何でもありなのかな……。


 それにしても、模様のような感じで顔を表示できるというのは、壺の付喪神だけができる能力なのかな……?

 リューさんも、上のほうに黒くて大きな目玉を書けば、もうちょっと可愛くなると思うんだけどなぁ。

 模様は表示できないのかなあ……?


「リューさんは、顔の模様は表示しないのですか?」


 気になったので訊いてみた。


「やろうと思えばできるが、必要ないじゃろ」


「ええー、リューさんもやったほうがいいわよ! その方が可愛いし! ……この辺りがいいと思うの」


 ニアがそう言って、リューさんの体の目を付けたい場所を手で擦った。


「うひょひょひょ、くすぐったいのう。ニアちゃんがそう言うなら、やってみるかのう!」


 リューさんは、そういうとニアが指示した位置に大きな丸い黒目を表示した。


 結構いい感じじゃないだろうか。

 何もない時よりは、可愛さが増していると思う。


「いいわねぇ! リューさん、今度からこれをやったほうがいいわよ、絶対!」


 ニアがそう言って、嬉しいそうに、リュートを摩った。


「うひょひょひょ、わかった。じゃあ、そうしよう!」


 リューさんは、上機嫌な感じだ。

 ニアは摩っても、怒られないらしい。


「なんじゃい! リューさん、ワシの言う事は全く効かないくせに! 相変わらず女子に弱いのう!」


 ツクゴロウ博士が、ほっぺたを膨らませた。


「ふん、お主にだけは言われたくないわ!」


 リューさんは、そう言ってツクゴロウ博士を小突くような感じで肩の辺りにぶつかった。


「もう二人とも、喧嘩はやめてって、いつも言ってるでしょ!」


 今度は気の弱い感じだったツボンちゃんが、怒ったお母さんのような口調で注意をしている。


 なんかこの三人って、いつもこんな感じなんだろうか……。


 三人の小競り合いが落ち着いたところで、もう少しだけ話を訊いた。

 リューさんとツボンちゃんの話によると、さっきの戦いで手足を出さなかったのは、人目があったかららしい。

 人目のある所では、手足は出さないようにしているらしいのだ。

 ツクゴロウ博士を援護するため、止むを得ず手足を出さないまま戦ったとのことだった。


 宙に浮いて自動演奏したり、壺から液体を発射したりした時点で、めっちゃ目立ってるから手足だけを気にしてもしょうがないと思うのだが……ここは、突っ込まないであげた……やさしさスルー発動だ。


 ツボンちゃんは、直接攻撃をしていたのでわかりやすいが、リューさんは音楽を奏でていただけかと思ったら、あの音楽には支援効果があったようだ。


 『基本ステータス』の『気力』と『サブステータス』の『速度』を高める効果があったらしい。

 どうも奏でる音楽によって、様々な支援効果が出せるらしい。


 なかなかに凄い能力だ。


 リューさんは、一度聴いた音楽は演奏できるらしいから、有名なゲームのバトルシーンの曲や、心が熱く燃え上がるアニソンなどを教えて、戦いの時に演奏してもらったら、ノリノリで戦えるかもしれないなぁ……ムフフ。


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