815.ツクゴロウ博士と、付喪神。

 先程、杖を振り回していた暴れん坊じいさんは、今はおとなしくポツンと船の甲板に座っている。

 隣には、リュートと壺がある。


「あの……もしかして……ツクゴロウ博士ではありませんか?」


 俺は、思い切って話しかけてみた。


「ほほう……突然なんじゃ! 人に尋ねるときは、まず自分が名乗るもんじゃぞ!」


 おじいさんはそう言って、ほっぺたを膨らませた。

 本気で怒っている感じではないが、この人ももしかしたら偏屈じいさんかもしれない。


 最近俺の近くに現れるおじいさんキャラが、みんな偏屈なので、偏屈センサーが敏感になってしまっているのだ。

 でも言っている事は、間違っていないけどね。


「失礼いたしました。私は、ピグシード辺境伯家家臣グリム=シンオベロン名誉騎士爵と申します」


 俺は失礼を詫び、改めて名乗りを上げた。


「グリム=シンオベロン……? うーん、聞いたことがあるような……ないような……。なぜワシを知っている?」


 暴れん坊じいさんは、そう言った。

 どうやらツクゴロウ博士で間違いないようだ!


「実は……国王陛下からいろいろお伺いしていました。国王陛下がお呼びしたという話も聞いていましたので、もしやと思い声をかけさせていただきました」


「そうかい。うむ、思い出したぞい。陛下の手紙に書いてあったのう。それではお主が……『救国の英雄』か? ……なるほど強いわけじゃな。そして『集いし力』の中心か……。付喪神の力も求めているということだな。確か……付喪神も仲間におるということじゃったが……どこにおる!? 早く会わせるのじゃ! ワシが撫で撫でしてやろうぞ!」


 ツクゴロウ博士は途中までは冷静だったのだが、付喪神に会わせろと言い出したあたりから、めっちゃハイテンションになっている。


「すみません、ここには連れて来ていないのです」


「なんじゃと! 全く使えん奴じゃな! このたわけイケメンが! ワシは早く付喪神に会いたいのじゃ! さっさと行くぞ!」


 ツクゴロウ博士は、半ギレで俺に文句を言ってきた。

 そして、駄々をこねる感じになっている……。

 何この人……?

 やっぱり偏屈じいさんじゃないか! ……面倒くさ!


「すみません、我々はこれから、この周辺の川賊を退治に行くので、一緒に『セイセイの街』まで行けそうにありません」


 俺は少しムッとしているが、顔に出さないようにして冷静に答えた。


「なんじゃと! まだ付喪神に会わせない気なのか!? 焦らしおって! そんなプレイは好きじゃないのじゃ! だが、迷惑な川賊どもを退治するのも、大事なことじゃな! しょうがない、ワシも力を貸そうではないか! そうと決まれば、さっさと行くぞい! その後、付喪神に会いに行くからの!」


 ツクゴロウ博士は、そう言って勝手に決めてしまった。

 何この人……めっちゃ自分勝手じゃないか!

 ほんとに面倒くさ!


 しょうがないから、連れて行くしかない……。


 俺は、大型船の船長に、予定通り運行するように頼んだ。

 そして、ツクゴロウ博士はこちらで引き取る旨の話をした。


 生け捕りにした川賊三十人は、乗って来ていた彼らの中型船に、拘束した状態で乗せた。


 そしてまずは、この川賊たちのアジトに向かうことにした。

 アジトの場所を尋ねたら、素直に教えてくれたからね。

 一応……言っておくと……物理的な強制力は、少ししか使っていない。

 ほんのちょっと足を踏んだだけなのだ……信じて欲しい!



 俺たちの船に乗り込んできたツクゴロウ博士は、当然のごとくリュートと壺も持ってきた。


「あの……このリュートと壺は、付喪神ですよね?」


 俺は確認のため、尋ねてみた。


「まぁお主には、隠す必要もなかろう。そうじゃ、付喪神じゃよ。リューさん、ツボンちゃん、挨拶しておくれ」


 ツクゴロウ博士は、そう言って、リュートと壺を交互に見た。


「やれやれ……しょうがないのう。ワシはリュートの付喪神、リューさんじゃ。よろしくな」


 リュートの付喪神も……おじいさんキャラのようだ。

 ニアの知識では、リュートの付喪神は気難しいおじいさんのようなキャラクターだと言っていたが、その通りなようだ。


 もう付喪神の偏屈じいさんキャラが、三人目なんですけど……。

 偏屈じいさんキャラ率が、高すぎるわ!

 ツクゴロウ博士自体も、結構な偏屈じいさんだし……。


 なんか俺の周りに、偏屈じいさんブームが起きている気分だ……。

 面倒くさいったらありゃしない!


「あの……私は壺の付喪神、ツボンです。よろしくお願いします」


 今度は壺の付喪神ツボンちゃんが、挨拶してくれた。

 ニアに聞いていた知識では、気の弱い女の子キャラということだったが、ほんとにそんな感じだ。


 そして肝心の付喪神大好きなニアさんは……ニヤニヤが止まらない感じで見ている。

 満を持してこれから絡んでくるようだ……。


「私はニアよ、よろしくね。『ツクゴロウと愉快な付喪神たち〜付喪神の記録と研究〜』を読んでから、ずっと大ファンなの! 付喪神も大好きよ! 無理矢理スリスリしてリュートの付喪神から怒られた話や、壺の付喪神を撫で回しすぎて泣かせちゃった話とか読んでるから、リューさんとツボンちゃんにも会えて、すごく嬉しいわ!」


 ニアはそう言って、三人のところに行ってハイテンションで挨拶していた。


「ほほほ、これはこれは……羽妖精じゃのう。あなた様が、妖精女神のニア様じゃの。陛下から聞いておるよ。ワシも付喪神が大好きだから、話が合いそうで嬉しいわ。ニア様よろしくのう」


 ツクゴロウ博士は、優しくニアに語りかけた。

 偏屈じいさん的な感じは、全く出していない。

 俺に対するのと、態度が違いすぎるんですけど……。


「ニアちゃんは、かわいいのぉ。これからよろしくなのじゃ」

「ニアちゃん、こちらこそよろしくお願いします」


 リュートの付喪神リューさんと壺の付喪神ツボンちゃんも、嬉しそうなトーンでニアに言葉をかけた。


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