814.杖を持って暴れまわる、じいさん。

 打ち合わせが終わって午後になった。

 俺たちは、早速、川賊退治に乗り出すことにした。


 メンバーは、俺、『クイーンピクシー』のニア、俺の分身『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビー、リリイ、チャッピー、『魚使い』ジョージとその『使い魔ファミリア』陸ダコの霊獣『スピリット・グラウンドオクトパス』のオクティ、虫馬『サソリバギー』のスコピンだ。


 それから『川イルカ』のキューちゃんたちが、普段の生活領域である『マナゾン大河』の上流から下って来てくれているはずだ。


 川賊のアジト探しを、してくれているのだ。


 アジトはすべて『マナゾン大河』のコバルト侯爵領側にあるということだったので、川岸や支流を入ったところを中心に捜索してくれたようだ。


 そして、すでに五つほどそれらしき場所を発見したと報告があった。


 午前中の打ち合わせの時に、念話を送ってからわずか数時間だが、移動を含めて捜索まで終えるとは、驚きの早業だ。


 俺たちは、『コロシアム村』からすぐの『セイセイの街』の港から船を出して、川を移動してアジトに向かうことにした。


 飛竜船を川に浮かべないで、飛竜に牽引してもらって、空から急襲するという手もあるのだが、最初は川を運行しながら、川の状態や行き交う船の状況などを確認することにしたのだ。


 川は非常に良い状態で、魚が豊富にいる感じがよくわかる。

 前にピグシード辺境伯領付近の『マナゾン大河』に現れていた『川ザメ』は、この辺にはいないようだ。

 のんびりと魚釣りがしたい気分だ。


 と思っていたら……ジョージとオクティが勝手に釣りを始めた。

『川ニシン』や『紅マス』が、どんどん釣り上がっている。


 おお、なんかすごいやつを釣り上げた!

 てか……あれは……巨大なウナギじゃないか!

 二メートルくらいのものや三メートルくらいのものが、釣り上がっている。

 鰻丼が食えるってことじゃないか! ジョージ、グッジョブ!


 ただ……サイズ的に……俺の元いた世界で言うところの『大うなぎ』かもしれない。

『大うなぎ』は、食べたことがないが、鶏肉に近い味だと聞いたことがある。

 できれば、ちゃんとしたうなぎの味を味わいたいが……。

 普通の六十センチくらいのうなぎはいないのかなあ……。


 俺は、『川イルカ』のキューちゃんに、念話を入れた。

 この近くに、体長六十センチくらいの普通のうなぎがいないか、尋ねてみたのだ。


 必死で川賊のアジトを探してくれているキューちゃんに、食欲を満たすための質問をするのは気が引けたが……抑えられなかったのだ……。


「探してみます。見つけたら、捕まえます」


 キューちゃんが、快く引き受けてくれた。


 そんな時だ……前方から船がやってきた。

 だが……なんとなく……異常な雰囲気が……

 襲われているのか?


 …………襲われているようだ!

 三隻の船が近づいて、川賊らしき奴らが乗り移っている。


 俺は『視力強化』スキルと『聴力強化』スキルを使って、状況を把握することにした。

 もちろん襲われている船に、俺たちの船を近づけながらだ。


「おぬしら、川賊か!? まったく、悪さをしおって、この老いぼれが、成敗してくれるわ!」


 ——バチンッ

 ——ゴオンッ

 ——バンッ


 おお! 白髪のちりぢりロン毛のおじいさんが、ふらつくような動きで杖をバシバシ川賊に当てている。

 ただのヨレヨレの動きにしか見えないのだが、的確に川賊たちを打ちつけている!


 あの無茶苦茶な動き方と杖の振り回し方……まるでお笑いの喜劇に出てくる杖を振り回す老人キャラみたいだ。


 あれ……そして何故か船の上で音楽が流れている。

 爽快でアップテンポなノリのいい曲だ……。

 リュートか?

 んっ、リュートが……宙に浮いている!

 そして、自動で演奏している!

 あれって……リュートの付喪神じゃないのか!?

 前に話で聞いたことがある。


 その近くには、大きな壺がある。

 ずんぐりしていて口幅も広いので、かめに近い感じだ。


 ツボが自分で動いて、口を川賊のほうに向けた。

 おお! 中から液体を発射し、川賊の顔にかけている。


 直撃を食った川賊は、悶絶している……。

 なんだろう……臭いものか……辛いものか……もしくはその両方かな……。


 どうやら、壺の付喪神のようだ。

 ツクゴロウ博士がスリスリして泣かせたのが、壺の付喪神だったような気がする。

 待てよ……ということは、あのヨレヨレの暴れん坊じいさんが、ツクゴロウ博士じゃないのか!?


 いずれにしろ、早く助けなきゃ!

 ただ、暴れん坊じいさんが、めっちゃ強いから、助けは必要ない気もするが……。


 俺たちは急いで船を接近させ、川賊船に飛び移った。


 そして、もちろん瞬殺で制圧した。

 瞬殺といっても、殺したわけではないけどね。

 川賊たちは、無力化されて縄でぐるぐる巻きにされた状態になっているのだ。


 襲われていたのは大型船で、多くの人が乗っている。

 移住希望者らしき人たちが、多く乗っている感じだ。


 そして襲ってきた川賊は、中型船三隻で襲ってきていた。

 合計三十人もいたのだ。


「いやー、助かりました。ありがとうございました。突然、川賊が現れたので、肝を冷やしました」


 船長らしき人がそう言って、俺たちに礼を言ってくれた。


「たまたま通りかかったのですが、間に合ってよかったです。この船は、どちらにいかれるのですか?」


「はい。セイバーン公爵領の『セイセイの街』に降りるお客様がいるので、そこで一旦停泊して、その後はピグシード辺境伯領の『イシード市』に向かいます。移住をするお客さんがいっぱい乗船しているんです」


 船長さんは、そう答えた。

 優しい感じの性格の良さそうな人だ。


「この船は定期的に運行しているのですか? それとも個別に頼まれて出しているのですか?」


「最近は移住の希望者が増えていますので、ある程度の人数がまとまったら出発するというかたちになっています。いい加減な定期運行という感じですわ、ワハハハハ」


 船長さんらしき人は、豪快に笑った。


「あの……もしかして……個人で輸送を生業なりわいにされてらっしゃるのですか?」


「個人事業みたいなもんですなぁ、ワハハハハ。仲間数人とやってまして、一応、『郵船商会』という商会は作っているのですが、もっぱらこの船を使った輸送の仕事をしているので、商会とは呼べないかもしれません」


「護衛は、いないのですか?」


「今回は、三名しか集まらなかったのです。多勢に無勢で危ないところでした。本当にありがとうございました。あなた様とあのご老人がいなければ、本当にどうなっていたかわかりません……」


 船長さんがそう言って、再度俺に頭を下げ、暴れん坊じいさんを見た。


 護衛も一応、三人はいたようだ。

 だが三人対三十人じゃ無理があるよね。

 どうも戦闘が始まってすぐに、やられたらしく三人とも怪我をしているようだ。

 俺は、回復薬を渡して飲ませてあげた。


 あの暴れん坊じいさんがいなかったら、本当にやばかっただろう。


 さて……あのおじいさんに、話しかけてみますか……。



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