813.零号店は、大型店舗になっちゃいました。

 次になぜか議題に上がったのが、『フェアリー商会』で展開するカレー専門店の話だった。


 ビャクライン公爵が、進捗状況を報告してほしいと言ってきたのだ。


 一商会の飲食事業の話をするのは、普通ならおかしいことなのだが、今はそうでもない。

 国王陛下からの提案で、人々の心を豊かにする様々な取り組みをすることになっている。

 美味しい食べ物を広めて、人々に喜んでもらう飲食事業は、その肝いり事業なのである。

 そういう観点からすると、ビャクライン公爵が説明を求めてきたのは、変なことではないのだ。

 ただ、ビャクライン公爵は……単に興味があって尋ねただけだと思うので、いつもの結果オーライ状態になっただけだと思う。


 美味しいものを広めて、人々に笑顔になって波動を高めてもらう。

 これは、『魔の時代』を『多彩な彩りの時代』にするための重要な施策でもあるのだ。


 カレー専門店『イセイチ』は、ビャクライン公爵との約束で、ビャクライン公爵領から出店することになっているので、一号店はビャクライン公爵領に出すことになっている。


 だが……急遽、この『コロシアム村』にお店を出すことになったのだ。


 これには、密かにハナシルリちゃんの活躍があった。


 『コロシアム村』には、まだかなりの人たちが残って滞在を続けている。

『正義の爪痕』の襲撃を退けた後から三日間行った『大勝利祭』の後は、炊き出しもしていないし、イベントもしていないのだが、『コロシアム村』を気に入ってくれた人が多いようで、かなりの人が残っているのだ。


 どうも銭湯があるだけでも、滞在する意味があると語っている人が多いようなのだ。

 俺としては嬉しい限りだ。

 入浴文化が、確実に広まってくれているからね。


 それから、ここで食べられる食事が、他にはないもので美味しいという理由で残っている人も、多いようなのだ。


 そして、一度炊き出しで出した『カレーライス』が忘れられず、どうにか食べる方法がないかと商会のスタッフに訊いてくる人が、後を絶たないとの報告も受けていた。


 そんな話を聞いたハナシルリちゃんが、せっかくだから『コロシアム村』でカレー専門店をオープンしようと言い出したのだ。


 そして一号店はあくまでビャクライン公爵領に出すが、それを成功させるためには検証が必要で、その為に『コロシアム村』に実験店舗を作った方がいいとビャクライン公爵を説得してくれたのだ。

 まぁ説得といっても、ハナシルリちゃんの言いなりだから、即OKだったようだが。

 むしろお店が楽しみだから、早く作ってほしいと逆にノリノリになったらしい。


 この実験店舗は、マーケティングショップとも言えるしアンテナショップと言ってもいいかもしれない。

 大人数を少ないスタッフで捌くために、考えている方式があって、実際にそれが上手くいくかテストするつもりでもあるのだ。

 スタッフの研修店舗としても使えるだろう。


 一応『カレーライス専門店 イセイチ コロシアム零号店』という名称になる予定だ。

 一号店は、あくまでもビャクライン公爵領という体裁をとるのだ。


 そんな感じの話がまとまってからまだ数日しか経っていないのに、ビャクライン公爵は待ち切れないらしい。

 進捗状況が知りたくて、うずうずしているようだ……子供か!


 店舗を作ること自体は、家魔法を使えばすぐできるので、実はもう完成しているのだ。

 『コロシアム村』の『東ブロック』中央の避難エリアである公園に隣接する場所に、大型店舗を作ったのだ。

 この場所は、襲撃の時に『亜竜 ヒュドラ』に押し潰されて大きく破壊されていた場所だ。

 そこを利用したのだ。


 大型店舗にしたのは、お客さんの入り具合を予想してのことだ。

 正直……超大型店舗すぎて、実験店舗としては微妙な感じになってしまった。

 でもオペレーションとか、そういうものについては検証できるだろう。


 それにもしかしたら、今考えているより大型の店舗を標準にしないと、お客さんが押し寄せて対応できなくなる可能性がある。

 度を越した行列ができたり、待ち時間が長いとそれだけ揉め事も増えるから、初めから大型店にして出店したほうがいいと思うんだよね。

『カレーライス』には、それぐらい人々を魅了するものがあると思うのだ。


 零号店がどの程度の大型店舗かというと……客席数が800席もある規模なのだ。


 スタッフを最小限で運営するために、食券を買って、提供カウンターに並んで『カレーライス』を受け取り、好きな席で食べてもらうという方式にする予定だ。


 食券を買うといっても券売機のようなものは作れないので、スタッフが何人か立ってお金をもらって券を渡すという方式である。


 そして提供するカウンターに並んでもらって、自分で受け取って好きな席に座って食べてもらうのである。


 提供するカウンターが混まないように、五レーン作る予定だ。


 『カレーライス』は、炊いてあるご飯に、作ってあるルーをかけるだけなので、こういう運用がしやすいんだよね。


 そしてトッピングも予定通りに、『とんかつ』と『唐揚げ』にするが、追加が二つ発生した。

 現在立ち上げの中心になってくれているスタッフから、チーズも入れたほうがいいという提案があったのだ。

 確かにチーズはカレーに合うし、俺の元いた世界のチェーン店でも人気メニューだったはずだ。手間もかからないしね。

 と言うことで、即採用になったのだ。


 そんな話の中で、ハナシルリちゃんからチーズを入れるなら、温玉も入れたいという要望が出され、温泉卵もトッピングに加えることになったのだ。


 ということで、正式なトッピングメニューは、『とんかつ』『唐揚げ』『チーズ』『温玉』となった。


『カレーライス』は、当初の予定通り、当面はイノシシ肉を使った『カレーライス』の『甘口』『中辛』『辛口』の三種類を提供することになっている。


 そんな報告をして、やろうと思えば明日からでもオープンできることも伝えた。


 スタッフの教育は充分ではないし、採用状況も十分ではないが、今いるメンバーで何とかできるだろう。

 やりながら新たに雇用して、教育しながらでも何とかできると思う。

 オペレーションが複雑じゃないからね。


 ビャクライン公爵は大喜びで、「明日オープンしよう!」と勝手に決めていた。

 どうしてあなたが決めるのよ! ……まぁいいけどさ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る