812.カタチだけの、不動産王。
コバルト侯爵領に対する今後の方針は、川賊については、俺と仲間たちで掃討し、領内の移住希望者への妨害行為については、『特命チーム』が対応するということになった。
そして、『マットウ商会』が流通させた爆弾も、それぞれが追跡・回収することになった。
爆弾の流通先が、川賊とコバルト侯爵領内の商会であることは調べがついているからね。
「そうさね……せっかくだから……もう一つやっちまうか。ゼニータたちは、移住希望者を密かに助けるだけじゃなく、噂をどんどん広めて、より多くの人が移住を希望するように動いておくれ。領民を大事にしない領主には、お灸をすえたほうがいいからね。領民がいなくなったらどれだけ困るか、身に染みて感じたほうがいいさね」
ユーフェミア公爵がそう言って、悪い笑みを浮かべた。
コバルト侯爵領に対する対策は終わったと思ったのだが、新たに悪いこと思いついたようだ。
移住を希望する人を助けるだけじゃなく、どんどんそういう人たちを増やそうという積極策に出るらしい。
そんなことしていいのだろうか……?
国王陛下の様子を窺ったが、苦笑いしているだけで、止めることはなかった。
確かにダメ領主にはお灸をすえたほうがいいと思うから、こういう積極策は嫌いじゃないけどね。
というか……根本的な病巣を取り除いたほうがいいと思うんだけど……ダメ領主と更にダメな次期領主をどうにかできないのだろうか……?
俺ならもっと積極策で、悪事の証拠を探すんだけど……。
今のところ、小悪党ということで、小さな悪事が多く重大な悪事はないということらしいが……ほんとにないのかな?
なんとなくだが…… ルセーヌさんたちなら、ついでにその辺のことも調査してくれそうだ。
期待して待つことにしよう。
場合によっては、俺の仲間たちを潜入させて情報を集めさせよう。
次の目的地は、悪魔対策で『アルテミナ公国』だが、コバルト侯爵領の虐げられている人たちを放っておくこともできないから、同時並行でコバルト侯爵領についても、できることをやろうと思う。
大きな報告は終わったようなので、俺からアンナ辺境伯とエレナ伯爵に一つ提案をした。
前からやろうと思っていたことなのだが、いろいろ忙しくて忘れていたことがあるのだ。
それは、ピグシード辺境伯領とヘルシング伯爵領の各市町の荘園の村の外側に、新たな外壁を作るというものである。
この国の都市の一般的なスタイルは、市町を取り囲む外壁があってその外側に荘園の村があるというかたちになっている。
荘園の村や農地は、外壁で守られていないのだ。
魔物が大挙して押し寄せるということはあまりないので、そういう作りになっているのだろう。
だが人々の生活を支える食料の畑や、それを管理している人たちが守られていない構造は、問題だと思う。
ピグシード辺境伯領が白衣の男と悪魔により襲撃されたとき、最初に荘園の村がやられてしまった。
奴らは、魔物を刺激して暴走させてきたので、魔物たちにズタズタにされてしまったのだ。
セイバーン公爵領では、資金的に裕福であることと過去の領主の方針で、何百年も前に荘園の外側にさらなる外壁が作られたのだそうだ。
市町を守る内壁と荘園を守る外壁があるという二重壁構造になっているのである。
これを見たときに、ピグシード辺境伯領やヘルシング伯爵領でも同様な構造の強固な市町にしたいと思っていたのだ。
普通なら外壁を新たに作るということは、莫大な資金が必要で簡単には決断できない大事業である。
特に荘園の外に作るのは、エリアもかなり広大になる。
だが俺は、魔法の巻物を使って作ることもできるし、大森林の仲間たち……特に『マナ・ホワイトアント』たちの力などで簡単に作ることができる。
また『土使い』のエリンさんに頼んでも、できるだろう。
まぁ一番早いのは、この前『コロシアム村』に外壁を作った時と同じように、俺が土魔法系の巻物『
『土使い』エリンさんの存在は、ここの人たちも知っているし、妖精女神の使徒が手伝ってすぐに作れるということもわかっている。
ついこの前、この『コロシアム村』に巨大な外壁が一夜にして出来上がったのを、目の当たりにしているからね。
そこで俺は、同じように各市町に新たな外壁を作らせてほしいという話をした。
もちろん新たな外壁ができれば、衛兵の駐屯所などの施設も必要になるので、それらも含めて作る予定だ。
領の負担にならないように、無償で作るという提案をした。
アンナ辺境伯もエレナ伯爵も、新たな外壁を作るということ自体は喜んで了承してくれた。
だが、無償というわけにはいかないので、代金を支払うと言われてしまった。
一気に支払うのは大変だが、何年かかけて支払うとのことだった。
まぁ予想通りの展開だ。
この人たちが素直に無償で建てさせてくれるとは、思っていなかったのだ。
そこで俺から一つ提案をした。
外壁を現在の荘園からかなり外側に作るので、その外壁周辺の土地を報酬としてもらいたいという話をしたのだ。
全く使っていないエリアの土地を報酬としてもらえば、領からお金が出ることはないし、基本的に使ってない土地だから痛くも痒くもないはずだ。
でも一応、報酬は払ったという体裁にはできる。
俺としては、土地を必要としているわけではないのだが、領からお金を出させないためには、これが最善だと考えたのだ。
「それは、領からお金を出させないための提案ですね。ありがたいお話ですが、実質グリムさんは無報酬になります……」
「そうですわ。そんな優しいことをされても、好きになったりしませんから! 領政顧問として苦心していただいているのはわかりますが、払うべきものはしっかりと払うべきです。巨額になるでしょうから、すぐには払えませんが、私の一生をかけて払い続けます! 別に身も心もあなたに捧げると言ってるわけではありませんから!」
アンナ辺境伯とエレナ伯爵は、俺の提案を聞いて即座にそう言った。
二人には、俺の意図は、お見通しのようだ。
それにしてもエレナ伯爵の逆ギレが……みんなの前で何を言っているのだろう……?
そしてなぜ誰も突っ込まないのだろう……?
「まぁ確かに見えすいてるねぇ……。それでも……かたちとしては報酬を出すことになるし、グリムにしてはよく考えた方だけどねぇ……」
ユーフェミア公爵がそう言いながら、ダメな子供を見るような目を俺に向けた……トホホ。
「すみません。でも市町の食糧事情を安定させるためにも、そこで働く人や暮らす人を守るためにも、新たな外壁を作りたいんです。だからといって、そのことで領の財政を圧迫することはしたくなかったので……」
俺は素直な気持ちを吐露した。
「そうだねぇ……アンナ、エレナ、今回は負けてやんな。せっかくグリムが頑張って考えたんだ。それに乗っておやりよ」
ユーフェミア公爵がそう言って、二人を説得してくれた。
これによりなんとか、俺が考えていた通りに領の負担を出さずに、新たな外壁を作ることが出来るようになった。
そして俺は、形だけはめっちゃ土地持ちになってしまった。
ピグシード辺境伯領とヘルシング伯爵領の各市町の膨大な土地を、取得することになるだろう。
ピグシード辺境伯領のこれから復興する市町についても、この方式で外壁を作るので、すごい面積になりそうだ。
ちょっとした不動産王と言っていいだろう。
まぁ誰も買おうとしない土地だから、流動性はほとんどないし、もしこの世界に土地の評価額というものがあるとしたら、すごく低いだろうけどね。
見掛け倒しの不動産王的な感じではある。
でも元いた世界の感覚からすると、土地をいっぱい取得しているというのは、ちょっといい気分ではある。
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