811.怪盗イルジメ、来るってよ!

 元怪盗ラパンのルセーヌさんと敏腕デカで『セイセイの街』の新任衛兵長のゼニータさんの特捜コンビに、『セイセイの街』の衛兵として採用が内定している犬耳の少年バロンくんとゼニータさんの弟のトッツァンくんを加えた四人が、ユーフェミア公爵直属の秘密の『特命チーム』として改めて任命された。


 セイバーン公爵領内にとどまらず、人々を助ける活動をする秘密の『特命チーム』なのである。

 最初の仕事は、コバルト侯爵領内の移住希望者を助けると仕事になりそうだ。

 怪盗として、移住を希望する人が、安全に移住できるように盗んであげるわけである。


 これに当たって、国王陛下から、『密命書』が渡されることになった。

 万が一正体がばれたときに、セイバーン公爵領が諜報活動をしているとか、領政に干渉しているとか、騒ぎ立てられないようにするためである。

 国王陛下の気遣いでもあるだろうし、本来的には国王の管理下でやるべきこととも言えるので、当然のことをしているとも言える。


「あとは……おそらく……『闇の掃除人』とか……なんて言ったかねぇ……『闇影の義人団』って言ったかねぇ……そんな者たちも、時々手伝うかもしれないね。その時は……お仲間だから手伝わしてあげな……」


 ユーフェミア公爵は、ゼニータさんたちにそう語ったが、最後に俺を見てニヤッとした。


 てか……『闇影の義人団』のことまで知っているわけ? 話したことあったかな……?


 ユーフェミア公爵って……もしかして義賊マニアなのか……?

 そして『闇影の義人団』も、俺の影響下にあることを知っているようだし。

 苦笑いするしかないよね……。


 まぁユーフェミア公爵たちには、言ってもいいんだけどさぁ……。


 ただ俺の気持ちとしては……せっかく人知れずというか……別人として活動しているんだから……全部オープンにしちゃうと、つまんなくなっちゃうんだよね……。


「かしこまりました。もしそう名乗る者が現れた場合には、争わないようにいたします」


 ゼニータさんが、そう返事をした後に俺を見た。


 ……そうなるよね。

 ただでさえ勘のいい人なのに……絶対俺のことだって思ってるよね……まぁいいけどさ。


「ユーフェミア様、実は……この件でお役に立てる者が、他にもおります」


 ルセーヌさんが、そんな話を切り出した。


「ほほう、誰だい?」


「実は……私の師匠と……一緒に育った妹弟とも言える者たちが、もうすぐここに着くのです。突然手紙が来まして……。普通なら王都からここまで手紙を届けるのも、移動するのもかなり時間がかかるのですが、師匠の場合、特別な手段でやっちゃうところがあるんです。手紙によると、先日の襲撃事件の話を聞いた後で出発したようなんですが……師匠だったらあまり時間をかけずに着いちゃうと思うんです……」


 ルセーヌさんは、苦笑いしながら言った。


「なんと! 怪盗イルジメが来るってのかい?」


 ユーフェミア公爵が、声を弾ませた。


「それは本当なのかい!?」


 国王陛下が、めっちゃ食い付いた。

 目をキラキラさせている……。

 てか……義賊といっても、一応犯罪者なんだから……国王陛下がその反応じゃまずいでしょうよ!


「はい。それで……事情を説明すれば、手伝ってくれると思うんです。師匠の活動方針にも合っていますし。師匠は引退しているので、やらないかもしれませんが、私の義妹弟たちなら手伝ってくれる可能性が高いです」


「なるほど、それはいいねえ。来たらすぐに合わせておくれ。あんたの師匠や義妹弟たちなら、期待できるね。一緒にやってくれるって言うなら、すぐに許可を出すよ。許可というよりは、こちらからお願いしたいくらいだけどね。そうすれば、『闇の掃除人』に来てもらわなくても、済むかもしれないね。グリムたちもコバルト侯爵領に、時間を取らないで済みそうだ」


 ユーフェミア公爵は、満面の笑顔でルセーヌさんに答えた。

 そして最後に、俺の方を見た。


 てか……ここで俺の名前を出すと……完全に『闇の掃除人』が俺だって言ってるようなものだと思うんだけど……。

 でも何故か、みんなそこには突っ込んでこないんだよね。

 空気を読んで、聞き流してくれているのかな……?


 もしかして『固有スキル』の『鈍感力』の効果で、俺に都合の良い状態になってくれているのだろうか……?

 常時発動型のスキルだから、いつも発動しているはずだしね。

 まぁその割には……俺に都合の良い状態になっていることは少ないと思うけどね。

 ニアにジト目を向けられたり、『頭ポカポカ攻撃』されたりするのは、俺にとって都合の悪い状態だと思うのだが……。

 そこまではフォローされないのか……?

 ほんとに困ることとか、まずいようなことだけを、解決しているのだろうか?

 まぁ考えてもしょうがないけど……。


 と言いつつも……考えずにいられない。

 微妙すぎるんだよな……このスキル。

 ほんとに俺に都合の良い状態になるなら、のんびり生活ができると思うんだよな……。

 悪魔とかも、勝手に自滅したりして、俺の出番がなくなるはずなのに……どうして……?


 多分だが……いろんな複雑な要素が絡み合っているものほど、スキルの効果が出にくいとか、時間がかかるとか、効果が及ばないとか……そんな感じなのかもしれない。


 もう一つ考えられるのは……俺にとって都合の良い状態というのが、俺が頭で考えている……顕在意識で考えていることとは違う可能性もあるということだ。

 自分が良いと思っていることが、本当に自分にとって良いことではないという場合もあり得るからね。


 時には、都合が悪い、困ったと思う出来事でも、後から考えればそれが良かったという場合はあり得るからね。

 何かのきっかけになったとか、得るものがあったという場合があるんだよね。


 現に最初に大量のアンデッド軍団に襲われなかったら、俺はチート状態にはなっていなかった。

 そうすると、この世界をのんびり旅したいと思っても、そもそもノーチート状態では危険で、旅なんかできないということになっていたはずだ。

 そう考えると、アンデッド軍団に襲われたことは、俺にとって都合の悪いことではなかったとも言えるのだ。


 そもそも出来事には、良い悪いもなくて、感じ方一つだったりするんだよね。

 朝出かける時に、靴が壊れたとして、朝から運が悪いと思う人もいれば、途中で壊れなくて出かける時に壊れてくれてよかったと思う人もいるだろう。

 同じ事柄なのに、感じ方で意味付けは違ってくるのだ。


 そう考えると、『鈍感力』の機能は、よりわからなくなる。

 ただ一つ言える事は……悪いことに目を向けたり、心配事で心を悩ませたりしないで、楽しいことに意識を向けていれば、大体のことは解決される。

 もし解決されずに出てくる問題は、必要なことだから出てきていると考えれば良いのではないだろうか。

そう考えて、淡々と対処すればいいのだと思う。


 まぁどのみちよくわからないスキルだから、何か効果があったらラッキー的に思っておけばいいと、自分を無理矢理納得させた。


 俺のスキルって、そんなの感じのものが多い気がするんですけど……。



 俺の思考が脱線して脇道に逸れている間に……ユーフェミア公爵たちが、コバルト侯爵領に対する今後の方針を、改めてまとめてくれたようだ。


 川賊については、俺と仲間たちで掃討し、コバルト侯爵領内での移住希望者への妨害行為については、『特命チーム』が対応するということになった。

 この『特命チーム』には、可能ならルセーヌさんの師匠や義妹弟たちも入ってもらう予定になっている。


 そして、コバルト侯爵領内での活動の中で、『マットウ商会』が爆弾を売った商会を捜索し、爆弾を回収することも行うことになっている。

 川賊たちにも爆弾が渡っているようなので、それは俺たちの方で当然対処することになっている。


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