796.ポカポカとツネツネを、誘発しまくるキャラ。

 この『海の魔域』の残るエリアを縄張りとしている『オリジン』である『スキュラ』を味方にすれば、ここは制圧したも同然となる。


『スキュラ』は自分の縄張りエリアの奥にいて、ほとんど引きこもり状態で出てこないようなので、どうやって引きずり出すか……何か策を考えないといけない。


 だがそう思っていた矢先だ……何かが海面に現れた。


『視力強化』スキルで強化した視力がとらえたのは……上半身が女性で下半身が魚のようになっている生き物だった。

 おそらく彼女が、『スキュラ』だろう。


 大きなホタテ貝のようなものの上に乗っている。


 下半身は魚で、まさに人魚のような感じだ。

 青い鱗に覆われている。

 腰のあたりにはタコ足のようなものが、何本もぶら下がり、ミニスカートみたいな感じになっている。これも青色だ。

 そして、その少し上の下腹あたりには犬の首が六つ付いている。

 シェパードみたいな……オオカミみたいな感じの顔だ。

 六つの犬頭は、みんな色が違う。

 赤、青、黄、ピンク、緑、黒と、まるで戦隊ヒーローのように色とりどりだ。

 上半身は人間の女性なのだが、肌色は……色白な感じだ。

 青い髪色のロングヘアをなびかせている。

 不思議なことに、海中から出てきたばかりなのに、濡れた感じになっていない。

 表情は……濃艶な感じの美人顔だ。

 裸というわけではなく、青いチューブトップの服のようなものを身に付けている。

 お腹は露出しているけどね。


 俺は『浮遊』スキルを使って浮いているのだが、海面近くまで下降した。


 改めて『波動鑑定』すると……『種族』が『スキュラ』となっていた。

 レベルが55だ。


「強き王よ、あなたに従いましょう」


 『スキュラ』は突然そう言って、貝の上で手をつき頭を下げるような体勢になった。


「仲間になってくれるってことかい?」


「それがお望みでしたら……従います」


『スキュラ』は、そう言って少し含みのある笑みを浮かべた。


「なぜ仲間になってくれる気になったんだい?」


「先程の『シーサーペント』との戦いを、密かに拝見させていただきました。私が抗っても到底勝てないお方であると確認いたしました。そして恐れながら……興味を持ちました……フフ」


 『スキュラ』はそう言うと、色っぽい感じで俺を見つめた……。

 なにこれ……?

 まさか誘惑してたりしないよね……?

 ちょっとドキッとしちゃったわ……。

 てか……普通の男なら……一発で誘惑されちゃうと思うんだけど……。

 破壊力抜群だな……。

 屈強な海の男でも、抗えないだろう……。

 いや……女っ気のない船の上の男ならイチコロだな……。


「わかった。じゃぁ、これからは仲間ということで、よろしく頼むよ」


「フフ……かしこまりました。それで私は何をすればよろしいのでしょうか? どんなご奉仕でもさせていただきます……フフ」


 そう言って、『スキュラ』は更に色っぽく俺を見つめた……。


 ——ポカポカッ


 ——ギュッ

 ——ギュッ


 ……意味深な発言をするのは、やめてもらいたい。


 久しぶりに、ニアさんの『頭ポカポカ攻撃』と『アメイジングシルキー』のサーヤと『兎亜人』のミルキーの『お尻ツネツネ攻撃』が発動しちゃったじゃないか!


 ハナシルリちゃんがいないから、『頭突きアッパー』は襲って来なかったけど……。

『頭突きアッパー』は、まだ交代要員がいないようで、なによりだ。

 いや……そんなことに安心している場合ではなかった……。


「あ、いや……特に何をやるっていうことはないんだけど……今まで通り、この『海の魔域』に住んでもらえばいいよ。ただ、悪魔などがやってきて、ここの魔物を戦力として取り込むのは阻止したい。だからもし、悪魔がやってくることがあれば、すぐに念話で教えて欲しいんだ。駆けつけるから」


「かしこまりました。悪魔を迎撃しつつ、連絡を入れればいいのですね。それ以外のご奉仕はないのでしょうか……?」


 『スキュラ』は、そう言うと更に色っぽい視線を送ってきた……。

 てか……この子……俺を誘惑して遊んでないか?

 それとも、何が何でもご奉仕がしたいのか……尽くしたいってこと?

 ……ご奉仕キャラ?

 よくわからんが……。

 ああ!


 ——ポカポカッ


 ——ギュッ

 ——ギュッ


 また『頭ポカポカ攻撃』と『お尻ツネツネ攻撃』が発動しちゃったじゃないか!


「ええッと……ご奉仕は別にいいんだけど……この『海の魔域』にいる魔物がここから出て、人族の船を襲うことがないように監視してほしい」


「かしこまりました。監視ですね。監視は得意です……フフ。私は陸上に上がることもできます。ご奉仕が必要な時は、いつでもお越し下さい……フフ」


 『スキュラ』は、再度色っぽい視線を送ってきた。

 陸上に上がってご奉仕って……この人どんな奉仕がしたいんだろう……?

 もてなしてくれるってことなのかなぁ……?

 そういうことだよね、きっと……。


 俺は自分にそう言い聞かせ、変な想像をしないように努力していたのに……


 ——ポカポカッ


 ——ギュッ

 ——ギュッ


 なぜか三度目の『頭ポカポカ攻撃』『お尻ツネツネ攻撃』のコンボが発動されてしまった……解せぬ……。


「名前がないと不便だから、名前をつけたいんだけど、いいかな?」


「私に名前を下さるというのですか……? 全てをかけて、生涯ご奉仕せよということですね……? かしこまりました……フフ……ふふふ」


 『スキュラ』はそう言って、俺をウットリと見つめ、舌なめずりをした。

「全てをかけて、生涯ご奉仕」って……何この人……どんなキャラ?

 ドMキャラ? 誘惑キャラ? メイド的なご奉仕キャラ?

 どれも微妙に違うんだよなぁ……もうわけわからんわ!

 考えたら負けだな……無視!


 そして……


 ——ポカポカッ


 ——ギュッ

 ——ギュッ


 四度目の『頭ポカポカ攻撃』と『お尻ツネツネ攻撃』が発動したじゃないか!

 もう来ると思って……俺の体が待ち構えてしまっていたよ……何この慣らされている状況……?


 てか……何か言う度に、俺が悪いみたいになってるけど……違うと思うんですけど……。

 俺の発言が呼び水になってるわけじゃないと思うんですけど……『スキュラ』のキャラがおかしいんでしょうよ!

 強く抗議したい!


「何か希望の名前はあるかい?」


 俺は色んなやるせない思いを一旦棚上げして、名前をつけてしまうことにした。


「お任せいたします。もはや私の全てを委ねるしかありません……フフ。すべてのテクを使ってご奉仕いたします……ふふふ」


 『スキュラ』はまたもや俺をうっとりと見つめ、口を半開きにして、こぼれそうになったヨダレを舌なめずりした。

 そして指を妖しく動かした。


 だから何なのこの人!?

「すべてのテク」ってなによ?

 俺はどうすればいいのよ!?

 とりあえず……コンボ攻撃を受けとくしかないよね……


 そして俺は、五度目となる『頭ポカポカ攻撃』と『お尻ツネツネ攻撃』を甘んじて受けた……トホホ。


「キュラリとか……どうかな?」


「キュラリ……何か可愛くもあり、悩ましい感じでもあり……気に入りました。このご恩は、私の全力のテクニックでお返しいたします。最高のご奉仕をいたします!」


 『スキュラ』は、そう言って普通に頭を下げた。

 ほんとに嬉しかったからか……今回は色っぽい眼差しはなかった。

 発言内容は相変わらず変だけどね……。


 そして何とか『頭ポカポカ攻撃』と『お尻ツネツネ攻撃』の発動は回避された。


 そのかわり……俺のネーミングに対してだと思うが、ニアさんからのジト目攻撃を受けている。

 そうなるとは思ったけどさ……。


「キュラリって……そこは普通にキラリとかで、いいんじゃないの? 鱗とかも輝いていて綺麗だし……」


 ニアが珍しくジト目だけじゃなく、具体的なクレームを言ってきた。


 言われてみれば、その方がよかったかもしれないが……。

 でも俺のネーミングセンスには、期待しないでほしいんだよね。

 もういい加減わかってると思うんだけど……。

 そして……クレームも受け付けておりませんので、あしからずご了承ください……。



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