795.拳で、一方的に語る。

 俺は、拘束して麻痺させた『シーサーペント』に、まずは話しかけてみた。


「突然で悪いんだけど、俺の仲間にならないかい?」


「フン、ふざけたことを……弱き人族の仲間になれと言うのか!? 笑わせてくれる……」


『シーサーペント』は、吐き捨てるように言った。

 口から音は出ているが、はっきりした言葉ではない。

 言っていることが理解できるのは、どうも念話のような感じで頭の中にも響いているからのようだ。


 俺の仲間になる気はないらしい。

 というか……弱い人族の仲間にはなるつもりがないということのようだ。

『シーサーペント』は、ウミヘビ型だが、竜に近いのかもしれない。

 バトルジャンキーな感じで、戦って勝たないと言うことを聞かないというパターンかもしれない。


 そして『鑑定』スキルとかは持っていないらしく、俺のレベルなどはわからないようだし、俺がチートだということも感じとっていないようだ。


 ただ巨大クラゲを従えている時点で、俺の強さに気づくべきだと思うんだけど……。

 こいつは、脳筋な感じで、状況の把握能力はいまいちなのかもしれない。


「どうしても仲間になるつもりはないかい?」


「当然だ! 人族の仲間になどなれるか!」


「この拘束されている状況が、よくわかってないんじゃないかなぁ?」


 俺は、優しく語りかけた。

 はっきりって現状では、プライドが高いだけのお馬鹿さんだからね。


「戦い……破れるなら、それまでだ。クラゲどもの数にやられたが、一対一なら決して負けはせん!」


 戦う気概のようなものは感じるが……この状況では、負け惜しみにしか聞こえないんだよね。


 さてどうしたものか……。

 こういう奴には、拳でわからせるしかないのかなあ……。

 拳で語り合う的なことをやるか……あまり気は進まないが……しょうがない……。


「じゃぁ……俺と勝負して、俺が勝ったら仲間になるか?」


「ハハハ、一対一で我が負けると言うのか………? そんなことが起きるなら、好きにすればよい」


「よし、じゃあ戦おう!」


 俺はそう言って、『状態異常付与』スキルの『麻痺』を解除し、『マナ・アーマークラゲ』に拘束を解かせた。


 自由になった『シーサーペント』は、今までの鬱憤を晴らすかのように、いきなり俺にブレスを吐いてきた。


 高水圧の水のブレスだ。


 俺は、『跳躍移動テレポーテーション』を使って瞬間移動して、『シーサーペント』の頭の後ろに回り込んだ。


 一瞬のことなので、奴は気付いていない。

 自分のブレスで、俺を倒したと思っているようだ。


 さて……拳で語り合うとしますか。

 うっかり殺してしまわないように注意しないとね。


 ——シュッ

 ——パンッ


 俺は、頭の後ろから正面に割り込んで、敢えて『シーサーペント』に姿を見せた後、片方の角をパンチで吹き飛ばした。

 多少傷つけても回復薬をかければ治るだろうから、お灸をすえることにしたのだ。


 かなり強烈だったようで、『シーサーペント』は、海中でのたうちまわっている。

 すごい津波が起きても困るので、俺は海中に潜りもう一方の角を掴んで上空に放り投げた。

 この時、勢い余って掴んでいた角を折ってしまった。


 そして空中にいる状態で、パンチを口に何発か入れて、牙をほとんど折ってしまった。


 この力加減が結構難しかったんだよね。

 下手したら口ごと吹っ飛ばしちゃうし、顔全体が吹っ飛んでしまったら死んじゃうからね。


 それから、尻尾の攻撃もうざいので、胴体に何発かパンチを入れて骨を砕いた。

 これで、うねったり巻きついたりといった攻撃もできないはずだ。

 これも胴体をちぎらずに、骨だけ砕くという力加減が結構難しかったのだ。


 こうして、海面に落ちるまでの間に俺にボコボコにされた『シーサーペント』は、ほぼ戦意を失った状態でぐったりしている。

 海中に入ってしまわないように、『マナ・アーマークラゲ』たちに受け止めさせた。


「さぁこれでいいかな? 仲間になってもらうよ」


 俺はそう言いながら近づいた。


「……強き王よ……。あなたに従います」


 角も牙も砕かれた『シーサーペント』は、牙を抜かれた獣のようにおとなしくなった。

 ぐったりしながら、俺に従うという意思表示をなんとかした状態だった。


 よし! これで『オリジン』一体ゲットだ。


 ニアが、『種族固有スキル』の『癒しのキス』を使って、『シーサーペント』を回復させてくれた。

『癒しのキス』は、部位欠損をも治せる威力の高い回復スキルなので、折れた角や牙もすぐに治った。


 俺は、この『シーサーペント』にサーペンという名前をつけた。


 体が大きすぎて、活躍する場があるかどうかわからないが、とりあえずはこの海の魔域を守ってもらえばいいだろう。


 ここにいる魔物が、悪魔や悪魔の手先の組織によって人々を襲う手駒にされるという事態は、もう起きてほしくないからね。

 そういう意味もあって、この『海の魔域』を制圧しに来たのだ。


 ちなみに『シーサーペント』は、『種族固有スキル』に『大海蛇ダイカイジャ息吹ブレス』というものを持っている。

 これは、さっき出した水のブレスだろう。


 さっき折ってしまった角や牙は、全て『波動収納』に回収してある。

 鱗も何枚か剥がれてしまっていたので、回収しておいた。

 武具作りの素材として使えそうだ。



 『マナ・アーマークラゲ』たちの話では、この海の魔域はかなり広いので、強い魔物は自然と縄張りエリアが決まっていて、良いバランスで住み分けができていたようだ。


 そこで、今まで通り『マナ・アーマークラゲ』たちには、もともとの自分たちの縄張り領域を守りながら暮らしてもらい、『シーサーペント』にも同じように自分がいた領域を守りながら暮らしてもらうということにした。


 この海の魔域には、もう一体『オリジン』がいて、その『オリジン』の縄張り領域があるらしい。


 面積的には、『マナ・アーマークラゲ』の領域が全体の半分位で、『シーサーペント』ともう一体の『オリジン』が残り半分の面積を、さらに半分に分け合っている感じのようだ。


 本当は、少し前まで『オクトパスクラーケン』と『スクイードクラーケン』という『オリジン』もいて、今の『マナ・アーマークラゲ』たちの領域の半分は、この二種類のクラーケンたちの領域だったらしい。

 だが、忽然と姿を消してしまったとのことだった。


 そして、もう一体の『オリジン』は、『スキュラ』ということだった。

 元いた世界のゲームなんかには、登場していた魔物だ。

 確か……上半身が女性で、下半身が魚で人魚に似た感じだったと思うが……。


『スキュラ』の領域には、多くの魔物がいて、うまく魔物で防衛網を作っていて、自分は奥に引きこもっているのだそうだ。


 『オリジン』ではない通常の魔物は、統制できるような存在ではないので、魔物たちを統制して軍団を作っているということではなく、自分の領域の守りにうまく利用しているということのようだ。

 どうも頭脳派らしい。

 引きこもりらしいので、引きずり出すのが大変かもしれないが、会うのが楽しみだ。


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