794.海の、魔域。

 移動型ダンジョン『シェルター迷宮』を後にした俺は、『コロシアム村』の屋敷に戻ってきた。


 六日後に行われる『領都セイバーン』での式典が終わったら、悪魔の情報を得るために『アルテミナ公国』に向かおうと思っている。

 それまでの間に、やり残している案件をできるだけ処理してしまおうと考えている。


 細かいことも含めればいろいろあるが、一番大掛かりなものは、天災級の魔物……巨大クラゲ『イビル・アーマークラゲ』の生息域である『海の魔域』に行くことだ。

 巨大クラゲのほとんどは浄魔『マナ・アーマークラゲ』となって、俺の仲間になっている。


 今は大森林にいるが、本来の生息地だった『海の魔域』にいれるようにするために、『海の魔域』を制圧する予定だったのだ。

 これから、それを実行に移そうと思っている。


 この前は、巨大ザメ魔物が住んでいた海の魔物の領域を制圧に行ったが、実際すべての海の魔物を仲間にするのは、面倒くさかったので、強い奴だけを『操魚の矢』を使って仲間にした。

 それで一旦の制圧完了というかたちにしたのだ。


 今回は海の魔物の領域どころか、より大きな魔域なので、この前とは比べ物にならない数の魔物がいるだろう。

 そこで今回も、主要な強い魔物だけを仲間にして、弱い魔物は野放しというかたちにせざるを得ない。

 完全制圧ではなく、事実上の制圧というかたちにするほかないと思っている。


 正直、ある程度強い魔物を仲間にするだけでも、数が多そうなので、大変かもしれない。

 ほんとに強い『イビル・アーマークラゲ』やオリジンだけを仲間にするということで切り上げるしかない可能性もある。

 まぁその時はその時で、しょうがないだろう。

 強い魔物だけでも、仲間にすればかなりの戦力補強になるしね。

 今後の悪魔との戦いを考えれば、確実にやっておきたいことなのだ。


 それに、まずは浄魔となった『マナ・アーマークラゲ』たちが自然に暮らせる場所を確保できる意味が大きい。

 後は気長に少しずつ仲間にしていけば、数の面でも戦力補強になるだろう。


 今回は、俺のパーティーメンバー全員とサブメンバーのジョージたちを加えて行ってこようと思っている。

 もともと住んでいた『マナ・アーマークラゲ』たちも一緒だ。


 今回も巨大ザメ『マナ・メガロドン』の飛行船『メガロドンシップ』に乗っていくつもりだ。

 『メガロドンシップ』は、『マナ・メガロドン』に乗船スペースとなるボックスユニットをつけたものだ。





 ◇





 『海の魔域』にやってきた。

 陸地からは、だいぶ離れている。


『マナ・アーマークラゲ』たちの話によれば、この『海の魔域』の広さは、大森林の二倍以上あるようだ。


 そして、魔域の中には大きめの島が七つほどあるらしい。

 小さい島も十以上あるとのことだ。


 『海の魔域』の地上部分ともいうべき島は、当然のごとく魔物の領域と化しているようで、陸上の魔物が生息しているそうだ。


 広いので全体を見渡す事は難しいが、七つの島を地図に落とすと、まるで意図的に配置されているかのような独特の形になっているようだ。


 魔域の中心点近くに一番大きな島が一つあって、残り六つの島は魔域の外周に近い場所に、等間隔のようなかたちで存在しているらしい。


 島と島を線で結ぶとすれば、外周の六つの島で、六角形になりそうだ。

 その中心点に、一番大きな島があるという感じだろう。


 小さな島は、十以上おそらく十五くらいあるようだが、特に配置的に感じるものはない。


 仲間になった『マナ・アーマークラゲ』は六体だが、この魔域にはまだ五体ほどいるはずだとのことだ。


 仲間になった六体を全て連れて来ているので、まずはこの魔域にいる『イビル・アーマークラゲ』に的を絞って、仲間にしていこうと思う。


 俺は『マナ・アーマークラゲ』たちに、『イビル・アーマークラゲ』を拘束して連れてくるか、海上に放り投げるように指示を出した。



 すぐに、一体の『イビル・アーマークラゲ』が『マナ・アーマークラゲ』二体に拘束されて、海中から浮上してきた。


 巨体三体が同時に飛び出てくると、周囲の島に巨大津波が押し寄せそうだが、魔物しか住んでいないようなので、問題ないだろう。

 それに、それぞれの島は断崖のようになっていて、かなり高い位置に森があるので、多少の津波が来ても被害は無いはずだ。


 俺は、切れ味抜群の『魔剣 ネイリング』を抜いた。

 そして発動真言コマンドワードを唱える。


「伸びろ! ネイリング」


 ——ズンッ、ズンッ、ズンッ、ズゥゥゥーーーー


 ——グウォンッ、バスッ、ジュルルルルッ


 長く伸びながら大きくなった『魔剣 ネイリング』で、『イビル・アーマークラゲ』の体表を切り裂いた。

 相変わらず、かなりの抵抗を感じた。

『物理耐性』を持っているし、そもそもが強固な体表なので、斬り裂くことは大変なのだ。


 俺はすぐに、斬り裂いた体の中に『操魚の矢』十本を放り込んだ。


 そして『操魚の笛』を吹いて、仲間になれと強く念じてみたが、やはり今回も抵抗が激しかった。

 そこで、前回同様、『テイム』スキルを併用して仲間にした。


 この作業を繰り返して、『イビル・アーマークラゲ』五体を仲間にした。


 これで、天災級の魔物で伝説の魔物とも言われる巨大クラゲを、合計で十一体仲間にすることができた。


 この十一体が、もし悪魔によって投入されていたら、大陸は数日のうちに破壊し尽くされただろう。

 普通の人族の強者程度では、太刀打ちできないからね。

 自分がチートでつくづく良かったと、このときばかりは思った。



 次に現れたのは、『シーサーペント』だった。

『マナ・アーマークラゲ』六体が総がかりで拘束して来た。


『シーサーペント』はレベルが55で、レベル80の『マナ・アーマークラゲ』よりもかなり格下になるのだが、レベル以上に強いようだ。

 激しく暴れている。


 俺は近づいて、『状態異常付与』スキルで『麻痺』を付与しておとなしくさせた。


『シーサーペント』は、巨大な海蛇のかたちの『オリジン』だ。

 普通の生物が大量の魔素を浴びて魔物化する一般の魔物と違い、『オリジン』は初めから魔物として誕生している特別な魔物である。

 それゆえに、普通の魔物とは違い冷静な判断力を有していて、理論的にはテイムも可能ということになっている。

 また話ができる場合もあるようだ。


 この『シーサーペント』は、体長がおそらく二百メートルくらいあるだろう。

 メタリックな感じの青色で、鱗はドラゴンの鱗みたいな強固な感じだ。

 顔つきも……角が生えていてドラゴンに似ている。


『オリジン』だから、『操魚の矢』や『操蛇の矢』を使わなくても、『テイム』が通用するはずだ。

 場合によっては、話して仲間にすることもできるかもしれない。


 まずは話してみるか……


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