783.生きていた、システム。

『赤の上級悪魔』の自爆によって破壊された部分の瓦礫を全て回収して、俺はその下に更に階層構造が続いていることを発見した。


 地下十階で終わりではなく、十一階があったのだ。

 そしておそらく、もっと下に続いているのだろう。


 今から調査に降りようと思っている。


 ちょうど、地上で防御障壁を張ってくれていたニアと、俺の分身『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビーがやってきた。


 爆発があった時に、ニアが心配して念話を送ってきていたが、俺が無事であることを伝え、しばらく防御障壁を張り続けてもらっていたのだ。


 そして悪魔がいない事を確認した後に、防御障壁を解いて構わないという連絡を入れていたのだ。


 ニアとナビーは、防御障壁を解除して、俺に合流するために降りてきたのだ。


「なに、この迷宮って、地下十階層じゃないんだ。まだ下があったのね……。もしかしたら、迷宮の機能もギリギリ生きてたりしないかしら?」


 ニアが、そんなことを言った。


 実は、俺も少し思っていたところだ。

 ここは死んだ迷宮……迷宮遺跡だと思っていたが、もしかしたら、この地下十一階層以降は迷宮封鎖が生きていて、休眠状態が続いているという可能性もある。

 もし生きているなら、今まで迷宮を発見したときの例からして、俺の波動情報を捉えて迷宮管理システムが姿を現すかもしれない。


 俺たちは、早速爆発で開いた穴から下に降りた。


 だが、この地下十一階層には魔物はいないし、迷宮管理システムも現れない。


 やはり死んだ迷宮なのか……。

 今のところ何の気配も無い。


 そうだ!

 俺は、ダンジョンマスターをしている『マシマグナ第四帝国』の人造迷宮の一つ、テスト用第二号迷宮『イビラー迷宮』の迷宮管理システムのダリツーに、念話を繋いだ。

『イビラー迷宮』だけは損傷の程度が低く、復旧がすぐに済んだので、完全な状態になっているのだ。

 ただ当面、使用するつもりがなかったので、今は『一時休眠モード』に入っている。

『一時休眠モード』は、完全な休眠ではないので、迷宮管理システムであるダリツーとは念話で連絡を取ることができるのだ。


 (実は、君の姉妹迷宮と思われる迷宮遺跡を発見したんだ。もしかしたら、システムが生きているんじゃないかと思って封鎖されていた地下十一階層に入ったんだけど、迷宮管理システムは現れない。やはりシステムが死んでいると判断したほうがいいのかな?)


(はい。システムが死んでいる可能性が高いと思います。ただ完全にシステムが崩壊しているかどうかを、確認する方法はあります。一つは、マスターが何度も迷宮管理システムに現れるように、呼びかけてみてください。ほんの少しでもシステムが稼働していれば、それをきっかけに立ち上がる可能性があります。もう一つは、同じシリーズの姉妹迷宮だとすれば、おそらく……最低でも地下三十階層はあると思います。最下層のダンジョンマスタールームに突入して、マスターの魔力や生命エネルギーを注入してもらえれば、限定的にでも稼働するかもしれません。それでも何も起きなければ、システムが完全に崩壊した死んだ迷宮ということになるでしょう。ダンジョンマスタールームの近くに、迷宮のエネルギーシステムの設備ルームがあるので、そこで魔力を流してみて下さい……)


 ダリツーは、そう教えてくれた。

 これは、かなりいい情報だ!

 ダリツーに尋ねて、正解だったようだ。


 まずは、一つ目の手段を試してみる。

 粘り強く何度か呼びかけてみよう。


「迷宮管理システム、姿を現せ!」


 俺は、全力の気合で叫んだ。


 ……………………


 しばらく待ったが、何も現れない……。



 何度か繰り返したが、やはり何の反応もなかった。


 もう一つの方法を、試すしかない。

 最下層のダンジョンマスタールームの近くにある設備ルームに行くしかないようだ。


 地下十二階に降りようと思って、出入り口を探したが見つからない。


 ダンジョン封鎖がなされた状態で機能停止したようで、普通に見た感じでは通路らしきものがないのだ。


 だが、各階層が同じような作りになっているはずなので、地下十階までにあった通路の場所と同じ場所を念入りに探した。

 そして、それらしき場所を見つけた。


 ここは、力技でこじ開けるしかないので、切れ味抜群の『魔剣 ネイリング』で人が通れる大きさに切断した。


 やはりその先に、通路が広がっていた。



 俺はこの作業を繰り返し、地下三十階までたどり着いた。


 地下三十階は明らかに雰囲気が違っていて、ダンジョンマスタールームなどがあった場所だと一目でわかった。


 いくつも扉があるが、さっき念話でダリツーから聞いて、設備ルームの大体の位置は見当がついているので、それとおぼしき部屋の扉をこじ開けた。


 中はかなり広く、いろいろな装置があるので、設備ルームで間違いないだろう。

 魔力炉のようなものもある。


 その近くに、補助動力として魔力を送り込める装置があった。

 これも念話をしたときに、ダリツーが教えてくれていたものだ。


 人の魔力を送り込むこともできるらしいので、俺は魔力供給装置の一つに触れて、魔力を流し込んでみた。


 魔力と一緒に、生命エネルギーと念も一緒に送り込むイメージで集中した。

 そして願いを込めて……「迷宮管理システム目覚めろ!」と心の中で叫んだ。


 だが反応は無い……

 魔力も無理矢理俺が流し込んでいる感じで、システムが吸い上げるような感覚は全くない。

 やはり……システムは完全に死んでるのか……?


 ……いや、待てよ……。

 ほんの少し……魔力を吸い上げている感じがする。


 ん……これは……システムがギリギリ生きているかもしれない!


 俺は、魔力をできるだけ絞って、ゆっくり流してみた。


 といっても、リリイのように細かな調整はできないが、俺のできる範囲で最善を尽くした。


 すると……やはり少しずつ魔力を吸い上げていくのが分かった。

 少しずつだが、稼働するためのエネルギーが補充されていっているようだ。


 おお! いくつかのシステムのパネルが光を発した。

 これは……システムが稼働し出したようだ。


「わ、わた、 私は……ゴ、ゴレバ、ズッ、ズズ……ゴレマ、ゴーレマー迷宮……め、迷宮管理システム……で、です……」


 やった!

 立体映像が現れた!

 システムが何とか、生きていたようだ!


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