782.まさかの、自爆。

 俺はうまく無力化する方法が思いつかないまま、再生する四肢を何度も切り落とすという作業を繰り返していた。

 お陰で、『赤の上級悪魔』がだいぶ弱ってきた。


 そこで、無力化して拘束してからゆっくり話を聞き出すという作戦を止め、今の状態のまま話を聞き出すことにした。


 『プリズンキューブ』に閉じ込めることも考えたが、ニアもスキルの力で脱出できたから、上級悪魔なら脱出してしまう可能性もあると考え、やめることにした。

 そんな危険な賭けは、できないからね。


 それにこのぐらい弱ってきたら、俺の持っている『虚偽看破』スキルでもある程度情報が引き出せるかもしれない。

 一番いいのは、第一王女のクリスティアさんが持っている『強制尋問』スキルで尋問してもらうことだが、さすがに完全に拘束できていない状態の上級悪魔に、近づかせるわけにはいかない。


「ハッハハハハ、上級悪魔にこんなことができる人間がいるとはなぁ。だが甘く見てもらっては困る」


『赤の上級悪魔』は、確実に弱ってきているのだが、突然負け惜しみのようなことを言い出した。

 なんとなく声が震えているし……余裕ぶってるが、全然説得力がない。


「甘く見てるわけじゃないさぁ。こうやって丁重に対応してるじゃないか。それより早く教えてくれないかなぁ、お前たちのアジト『悪魔の領域』には、どうやったらいけるんだ?」


「ふん、なぜお前に教えると思うんだ、愚か者め! やっとこの世界に受肉したが、今回はついてなかったようだ。だがまた何百年か待てば良い。それに今回の計画は壮大だからな、すぐに他の悪魔たちが計画を成し遂げて、我もすぐに受肉できるだろう。そのためにも、お前にはここで死んでもらうぞ!」


 また負け惜しみのようなことを言っている。


 いや……なんだ……?

『赤の上級悪魔』が歯を食いしばり、体に力を入れているようだ。

 まだ悪あがきをするつもりなのか……


 手足の再生が途中で止まっている……。

 そしてなんだ?

 体全体にヒビのようなものが入っている……まさか!?


 ——バァゴォォォォォォンッ


 ……ふう……危なかった。

 アノヤロウ……クソ!

 ……奴は自爆してしまった。


 俺は、ニアのお陰で取得した『跳躍移動テレポーテーション』で、このフロアの端に移動したので、ノーダメージだった。

跳躍移動テレポーテーション』は、目に見える範囲の任意の場所に瞬間移動できるスキルだから、端まで跳躍したのだ。


 まさか悪魔が自爆するなんて……読みが甘かった。

 せっかくの情報源がなくなってしまった……。

 ろくな情報を引き出せずに、自爆されてしまったのだ……痛恨のミスだ。


 上級悪魔の能力が、ほとんどわかっていなかった……。

 状態異常系の攻撃がほとんど通用しなくて、無力化して拘束するということが難しいということが分かっていなかったのだ。


 試すことができなかったが、『状態異常付与』スキルをレジストしたなら、『虚偽看破』スキルも効果がなかったかもしれない。

 また第一王女のクリスティアさんの『強制尋問』スキルも、レジストされてしまうかもしれない。


 上級悪魔から情報を引き出すのは、かなり難しいと考えざるを得ない。


 上級悪魔を捕らえる方法と情報を引き出す方法を考えることが、今後の課題だ。


 まぁ今回は、『アルテミナ公国』が目に見えないかたちで悪魔に支配されていて、そのどこかに『悪魔の領域』と呼ばれている奴らの根城というかアジトがあるということは、わかった。

 そして、何か大きな計画をしているということも……。


 これだけでも、充分大きな情報と言えるだろう。


『アルテミナ公国』の政情不安については、何度も話を聞いていたが、実は悪魔により介入されていたということだったようだ。


 そして、どうやら俺たちの次の目的地は……『アルテミナ公国』になりそうだ。


 だが奴らの話の感じからすれば、妖精女神とその使徒の情報は奴らも持っているので、『アルテミナ公国』に入るとしても、何か工夫が必要だろう。



 それにしても……すごい大爆発だった。

『赤の上級悪魔』の自爆によって、フロアの三分の一以上は瓦礫になっている。

 最下層の地下十階にいたが、天井に穴が空いて、九階も被害を受けている。



 俺は、瓦礫を『波動収納』に回収しながら、状況を確認している。

『波動検知』をかけたが、悪魔の気配は無い。

 やはり完全に消滅しているようだ。


 おおっと、爆発で空いた天井の穴から、地下九階にいた魔物が入り込んで来た!


 面倒な……。

 魔物の相手をしている余裕はないので、俺は『魔法鞭』を取り出して、迫ってくる魔物を瞬殺で片付けた。


 ……あった!

 見つけた!

 俺は、探していたものを見つけた。

 あの爆発の中でも、破壊されなかったようだ。

 やはり特別なアイテムらしい。

 俺が探していたのは……『怨念珠』だ。


 『爪の上級悪魔』が『赤の上級悪魔』に渡していた拳大より一回り小さい三つの玉だ。

 中級悪魔が三体受肉……実体化できると言っていた。

 三つ同時に使えば、上級悪魔も受肉できるかもしれないとも言っていた危険なものだ。


 そしてこれは、ピグシード辺境伯領の多くの命が奪われた時に収集したものだ。


 こんな危険で、おぞましい物を野放しにすることなどできない。

 これをどう処理するかは、後で考えるとしてとりあえず『波動収納』に回収した。


 それから『爪の上級悪魔』が、持ち去ろうとしていたアイテムも探した。

 だがどうやら、それらのアイテムは爆発で破壊されたようだ。

 『操蛇の矢』や前に『アメイジングシルキー』のサーヤたちが捕まっていた時にされていた『支配の首輪』らしき残骸を見つけた。

 念のため瓦礫と一緒に、『波動収納』に回収しておいた。


 そして、あの白衣の男の研究資料なども、ほとんど破壊されてしまったようだ。

 何かしらの残骸はあったので、それも一応『波動収納』に回収した。



 ……瓦礫や倒した魔物を、全て回収し終わった。


 そして俺は、その綺麗になった爆心地で、驚くべきもの発見した。


 爆発で天井に穴が開いたように、地面にも穴が開いていたのだが、当初はただ単に地面に穴が開いただけと思っていた。

 だが……よく見ると、なんと、下に更に階層があった。

 どうもこの地下十階層が、最下層というわけではなかったらしい……。



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