781.無力化するのは、難しい……。
俺は、悪魔たちが転移で去ろうとしていることを知り、奴らの前に姿を現した。
奴らを捕らえるためだ。
とは言うものの、一体を拘束すればいいので、挨拶がわりに『赤の中級悪魔』に、『魔法鞭』を叩きつけた。
全力ではないが、手加減もしていないので、瞬殺で頭を吹き飛ばした。
残った体は、黒い液体になり地面に落ちた。
その後、霧状になって消えた。
「お、お前は……!? 中級を一撃で……。 やはりあの時、剣の上級を倒したのは、お前だったのか!?」
『爪の上級悪魔』が驚きつつも、俺を睨みつけた。
「さぁどうかなぁ……。そんなことより、お前たちは、もうここから出れないぞ!」
俺は、余裕の笑みを浮かべながら、茶化し気味に言ってやった。
「こやつが、妖精女神の相棒でグリムという人間だ。並の人間ではない。二人がかりなら倒せるかもしれんが、一旦引き上げた方が良いのではないか?」
『爪の上級悪魔』が『赤の上級悪魔』に対して、目配せしながら言った。
クソ、こいつ、俺の名前を知っているのか……胸くそ悪い!
「いや、奴は一人だ。ここで倒してしまった方がいいだろう。『アルテミナ公国』の話も聞かれたであろうからな。ワレが焼き尽くす! 地獄の業火!」
『赤の上級悪魔』は、そう言うと手のひらから火炎を出した。
もちろん俺は避けたが、すごい火力だ!
危なく服を焦がすところだった。
最初にこの世界で出会った悪魔が、『霊域』を襲ってきた『赤の中級悪魔』だった。
火の玉を出して俺を攻撃してきて、俺は服を焼かれ、全裸マンにされたという苦い思い出がよみがえってきた。
コノヤロウ!
あの時の怒りがこみ上げてきた!
こいつもワンパンで倒したくなってきた……。
上級悪魔までワンパンで倒せるかわからないが、めっちゃ殴りたい気持ちだ。
だが……火炎放射が激しくて、近づけない。
ローブや服を駄目にしたくないからね。
そうだ! 消火してしまえばいい!
俺は、クワの付喪神クワちゃんが持っていたお陰で『波動複写』でコピーした『水魔法——放水』を使って、大量の水を放水した。
『赤の上級悪魔』の『地獄の業火』は、ただの火炎ではない強力な火力の火だが、俺の魔力調整なしの……遠慮なしの魔力と気合を込めた放水で、火を消しつつ悪魔たちを水圧で壁に押し当てた。
『水魔法——放水』は、下級の水魔法だが、スキルレベルが10なことと、俺の桁違いな魔力を込めたことで、圧倒的な水量と水圧になったのだ。
俺はすぐに『魔法鞭』を伸ばし、『赤の上級悪魔』の体に巻き付け、引き寄せた。
そしてすぐさま『状態異常付与』スキルで、『麻痺』を付与した。
だが……おかしい……麻痺していない……。
「馬鹿め! 上級悪魔にそんな技が通じるか!」
『赤の上級悪魔』はそう言って、俺に殴りかかってきた。
俺は、咄嗟にその拳を左手で押さえ、怒りに任せて握りつぶしてやった。
『状態異常付与』スキルで『麻痺』や『眠り』を付与して、拘束しようと思ったのだが、上級悪魔には通用しない。
そして『魔法鞭』を巻き付けたことによっても、通常は麻痺させられるのだが、それも効いていない。
こいつを無力化して拘束するのは……結構大変かもしれない。
そうこうしているうちに、『爪の上級悪魔』が剣爪を伸ばして高速移動で襲いかかって来た。
俺は、咄嗟に使い慣れた『魔剣 ネイリング』を『波動収納』から取り出した。
そして、迫って来た剣爪を振り払うように切断した。
切れ味抜群の『魔剣 ネイリング』は、上級悪魔の剣爪をも簡単に断ち切ってしまった。
俺はそのまま『魔法鞭』を巻きつけている『赤の上級悪魔』の手足を切断し、転がした。
そして、そのままの流れで、『爪の上級悪魔』をやけくそ気味に切り刻んでやった。
こんな奴とは会話もしたくないので、有無を言わせず細切れにしてやったのだ。
『爪の上級悪魔』は、何かを言いかけていたが、言葉を発する間もなく霧散して消えた。
今度こそ確実に倒したはずだ。
今までの話を聞いていた限り、『爪の上級悪魔』からは新しい情報は得られないと判断したのだ。
他の悪魔たちの根城に、招かれる側だからね。
情報を引き出す必要がないなら、こいつを生かす理由は一切ないのだ。
ピグシード辺境伯領を襲った悪魔たちの仲間だし、大森林に攻め入って来た首謀者だったからね。
問題は、『赤の上級悪魔』だ。
大人しくさせようと、四肢を切断し転がしておいたのだが、今度は口から火炎を放射している。
そして、切断したはずの手足が、みるみるうちに再生していっている。
手足から火炎のようなものを出して、それが手足を形成していっている。
さすが上級悪魔だけあって、抜群の再生能力を持っているようだ。
今までの感じからして、頭を潰してしまえば倒すことはできるのだが……。
こいつからは、情報を引き出したい。
それゆえに、倒さずに無力化する必要がある。
だがそれが非常に難しい。
今まではそういう場合は、『状態異常付与』スキルを使えばよかったが、そのスキルをレジストするみたいで効かないからね。
おお、今度は再生した四肢の指先から火の弾丸を打ち出してくる。
そして相変わらず口からは、火炎を放射している。
……面倒くさい。
俺は倒してしまいたい衝動を抑えつつ、『魔剣 ネイリング』で火の弾丸を弾きながら、高速移動でやつに近づいた。
そして、再度、四肢を切り落とした。
これで、少しだけ考える時間が作れる。
といっても、十数秒ですぐ再生してしまうので、大して考える時間はないんだけどね。
こいつを、おとなしく無力化する方法が中々思いつかない。
俺はいい方法が思い浮かばなかったので、とりあえずもう一度、四肢を切断した。
そして……半分やけくそ気味で、再生した四肢を切断するという行為を繰り返した。
そのうち……『赤の上級悪魔』の表情が少し変わってきた……。
なんだ……?
何か恐怖のようなものを帯びた表情になってきた。
上級悪魔でも恐怖を感じるのか……?
「ギザマ……いったい……何がジタイのダ……?」
やっと口からの火炎放射を止めて、言葉を発したと思ったら、何か口調が変だ……。
「お前を捕まえたいだけだ。悪魔たちが何を計画しているのか、『アルテミナ公国』にあるという『悪魔の領域』はどこなのか、教えてくれればすぐに止めてやるよ」
「ギザマに言うわけがなガろう。ハッハハハハ……我を倒したとて、実体が消え去るだけのこと。また何百年か待てばいいだけの話だ。寿命の短い愚かな人間め!」
『赤の上級悪魔』は、笑った後から元の話し方に戻った。
それにしてもこいつ……イラッとするわ。
なんか開き直ってる感じだが、お構いなしに四肢の切断を繰り返してやるか!
ちょうどいいストレス発散だ!
さらに何回か繰り返した後……奴の再生速度が極端に遅くなった。
もはや口からの火炎も出さなくなった。
「いい加減、観念したらどうだ?」
俺は話しかけた。
「貴様……一体ここに何をした? 」
『赤の上級悪魔』は、顔を歪めながら悔しそうな声を出した。
「お前が、気づかれないように何度か転移を試みたのはわかっている。何度やっても転移ができないから、そのことを訊いたのだろう?」
「やはり貴様の仕業か!? 一体何をした?」
「転移を封じるバリア防御障壁を張ってある。最初に、もう逃げられないと言っただろう?」
俺は、悪魔たちの前に姿を現す直前に、ニアに念話してバリア防御障壁を展開するように頼んでおいたのだ。
「おのれ……人間風情が……」
「見たところ、再生速度がだいぶ遅くなってきているが、もう限界なんじゃないのか……諦めたらどうだ?」
俺はそう言って、上級悪魔を見据えた。
いかに上級悪魔といえども、魔力も気力も尽きるはずだからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます