780.生きていた、爪の中級悪魔。

 白衣の男は、自身の中に宿していた『爪の中級悪魔』に体を食い破られて、絶命した。

 奴が研究し、崇拝し、契約した悪魔によって命を落としたことは、皮肉としか言いようがない。

 だが奴が奪った命を考えれば、軽過ぎる天罰と言えるだろう。


 実体化した『爪の中級悪魔』は、白衣の男が来ていた白衣のポケットから、黒い拳大の玉を取り出すと、すぐに飲み込んだ。


「グオオォォ、力が漲る……ウオォォ」


『爪の中級悪魔』は、一旦前傾姿勢で身をかがめると、その後大きく伸びをした。

 すると、頭に生えていた二本の角が三本になった。

 肌色はグレーのままだが、顔つきが『赤の上級悪魔』同様、多少人間に近い感じになっている。

 下級悪魔が角一本、中級は二本、上級が三本になるので、やつは中級から上級にクラスアップしたようだ。


『波動鑑定』でも、奴は、『爪の悪魔(上級)』となっていた。


 レベルは70になっている。

 どうも『怨念珠』を取り込むと強制的にクラスアップし、かつレベルも強制的に上がるようだ。


『爪の上級悪魔』は、白衣のポケットからあと三つ黒い玉を取り出した。

 先程のよりも一回り小さい玉が三つだ。


 これがさっき言っていた『中級悪魔』を三体を受肉させる……実体化させる『怨念珠』だろう。


「この通り、中級サイズの『怨念珠』が三つある。三つ同時に使えば、『上級悪魔』一体分ぐらい何とかなるだろうよ」


『爪の上級悪魔』は、そう言って『赤の上級悪魔』に渡した。


「ハッハハハハ、助かったぞ。そして上級悪魔の戦力補強もできた。これであの方も認めてくださるだろう」


「あの方……もしや……上級より上で実体化している者がいるのか……? まさか『名前持ちネームド』がいるのか?」


 『爪の上級悪魔』は、驚いているようだ。

 上級より上の悪魔……?

名前持ちネームド』……?

 ……『赤の上級悪魔』の背後には、もっと上位の存在がいるのか……?

 厄介な……。


「ハッハハハハ、自分の目で確かめるんだなぁ」


「そうだな、では『アルテミナ公国』に行くとするか」


「連れて行こう。だが、我らはじっくりことを運んでいる。まだ標的になる時では無いからな。目立たないように、愚かな人間どもを使ってことを運んでいる。だからお前も自重してくれよ」


「ふん、今まで潜んでいたことを思えば、自重ぐらいいくらでもするわ。だが、かなりの悪魔の戦力を保持しているのだろう? 一気に事を進めても良いのではないのか?」


『爪の上級悪魔』が、訝しげに言った。


「ハッハハハハ、今は言えぬが、我らの計画は壮大だ。『怨念珠』も、本拠地とした『アルテミナ公国』では、慎重に少しずつ貯めているのだ。そして、本拠地とは別の『コウリュウド王国』で大量虐殺を行い、大量の怨念を集め『怨念珠』を作る計画だったが、それは失敗に終わった。うまくいけば、この大陸全土を壊滅させられたんだがなぁ。そうなれば、『アルテミナ公国』も必要ではなくなったのだが、そう簡単ではなかったということだ。まぁそのぐらいでないと面白くないがな」


『赤の上級悪魔』は、嗜虐の笑みを浮かべた。

 こいつら……楽しんでいるのか……殴りたくてしょうがない。


「だが神獣供が人間に力を貸したのだろう? いずれ『アルテミナ公国』も気づかれるのではないか?」


「お前は、一度敗れているらしいな。そのせいで臆病になっているのか? 『アルテミナ公国』が怪しいと分かっても、人間どもには決して我らの『悪魔の領域』は見つけることができない。仮に妖精女神や使徒たちが来たとしても、見つけることなど不可能だ。ハッハハハハ」


『赤の上級悪魔』が、不敵に笑っている。

 この余裕……よほど自信があるのだろう。

 普通に探索したのでは、悪魔たちの根城である『悪魔の領域』を見つけることは難しそうだ……。


「ふん、俺が敗れたのはなぁ……妖精女神の使徒に、ドラゴンに変わる奴がいたからだ。あんなものが現れたら、お前とてやられるぞ。『アルテミナ公国』ごと破壊されてしまう可能性もあるのだぞ!」


『爪の上級悪魔』は、キレ気味にそう言った。


 てか……こいつ……前に大森林を襲撃してきた、あの時の『爪の中級悪魔』だったのか。

『ライジングカープ』のキンちゃんが、『種族固有スキル』の『登竜門』を使って、ドラゴンに変化して倒した奴だ。

 しかし一体どうやって……?

 確実に倒したはずなのに……どうやって生き延びたんだ……?


「ハッハハハハ、逆にそんなことをするなら、そいつらを我らの側に取り組むさ。無関係な人間を殺せないから、神の側なのであろう?」


『赤の上級悪魔』は、再び嗜虐の笑みを浮かべた。


「そうか、わかった。では今すぐ行こう。だが少し待ってくれ、あの“白衣の”が手に入れた道具がいくつか残っている。今後いろいろ使えそうだからなぁ、持っていった方がいいだろう」


「そうか、ならばとってくるがいい。ただ、お前も上級になったのだ、転移でいつでも戻って来れるぞ」


「おお、そうだなぁ。だが、もはやここに用などないわ。必要の物だけ持って、引き上げる。そういえば……『悪魔の領域』には、どうやって向かうのだ? 飛んでいくのか?」


「今回は、我の転移で連れて帰ろう……」


『赤の上級悪魔』は、そう言った。


 転移で帰る気なのか……クソ!

 来た時のように飛行して帰るなら、後をつけることができるのに……。

 転移では無理だ……後が追えない……。

 奴が転移するときに、一瞬でその転移に入り込むという手もあるが……万が一失敗したら完全に手掛かりを失う。

 こいつは、ここで捕まえるしかないようだ……。


「そうか、わかった。では必要な物を取ってくるから、しばし待て」


『爪の上級悪魔』は、そう言っていくつかある個室の一つに入ろうとした。


「そうはいかないよ! お前たちは、もうここから逃げられない!」


 俺はそう言いながら、奴らの前に姿を現した。

 ここからは、俺のターンだ!


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