784.テスト用、第六号迷宮。

 魔力を通してエネルギーが補充されたからか、なんとか迷宮管理システムが稼働した。

 俺の前に、立体映像が現れたのだ。


 ただ映像は、かなりザラついている。

 エネルギーが十分でないからか、システムの損傷が大きいからなのか、かなり不安定だ。


 迷宮管理システムも、最初に声を発した後は、そのまま立っているだけだ。


 やはり、十分に稼働するだけのエネルギーがないのかもしれない。

 俺は、そのままシステムに魔力を流し続けた。


 少しずつだが、俺の膨大な魔力は、ほとんどシステムに吸収されてしまった。

 『魔力回復薬』を飲めば、すぐに回復するから特に問題は無いけどね。


 立体映像が……かなり安定してきた。

 今まで俺が見つけた『マシマグナ第四帝国』の人造迷宮のテスト用迷宮シリーズの迷宮管理システムと同じ、日本人顔だ。

 白いマントのようなもので、体全体を包んでいる。

 髪色は、赤だ。


 ちなみに、テスト用第一号迷宮『テスター迷宮』のダリーは黒髪、第二号迷宮『イビラー迷宮』のダリツーは紫髪、第三号迷宮『アイテマー迷宮』のダリスリーは茶髪、第四号迷宮『トラッパー迷宮』のダリフォー通称ダホちゃんは青髪、第五号迷宮『プランター迷宮』のダリファイブ通称ファイちゃんは緑髪だ。


『イビラー迷宮』以外は、『再起動復旧モード』中で、もうしばらく連絡が取れない状態が続くだろう。

『イビラー迷宮』だけは、休眠期間が約千年と、他の迷宮の半分ぐらいしかなかったのでシステムの損傷が少なく、すぐに復旧が完了したのだった。

 だが、すぐには迷宮を活かせそうになかったので、『一時休眠モード』にしてもらったのだ。

 悪魔などに気づかれることを防ぐためにも、本格稼働しない方がいいという判断もあった。


 『一時休眠モード』といっても、迷宮管理システムのダリツーとは念話で連絡を取ることができるので、稼働しようと思えばいつでも稼働させることができる。

 だが当面は、現状のままでいいと思っている。


 つい最近ダンジョンマスターになった移動型ダンジョン『シェルター迷宮』の迷宮管理システムは、西洋人顔の金髪美人だった。

 服装は、近未来的な軍隊の制服っぽいイメージのものだったのだ。


 元々の存在場所であった竜羽山脈の東端に戻ってもらい、そこで『箱船復旧モード』で修理をしている最中だ。

『箱船復旧モード』は、迷宮の移動及び居住空間の維持システムだけに限定した簡易な復旧モードなのだ。

 移動型ダンジョン……第三世代型ダンジョンのもう一つの開発目的である、避難用の箱船としての機能に限定した復旧モードということだった。


『箱船復旧モード』中は、迷宮管理システムと念話が通じなくなるが、三日から五日程度で復旧が終わる予定なので、その後に迷宮管理システムから俺に連絡が来るということになっていた。

 あれから四日目だから……そろそろ連絡が来てもいい頃なのだが……。

 予想以上に、時間がかかっているのかもしれない……。



 立体映像が更に安定し、落ち着いてきたので、話しかけてみることにした。


「まだシステムが生きていたようだね?」


 俺が声をかけると、立体映像は頷いた。

 だが切なそうな表情をしている。


「私は『ゴーレマー迷宮』迷宮管理システムです。『ゴーレマー迷宮』は、『マシマグナ第四帝国』の人造迷宮『錬金迷宮アルケミイダンジョン』のテスト用第六号迷宮です。姉妹迷宮のダンジョンマスター様を、歓迎いたします。そして私を起動していただき、感謝いたします。ほぼ死活した状態になっていました。死の淵より救っていただき、ありがとうございます……うう……」


 迷宮管理システムは、名乗りを上げた後、俺に礼を言って泣き出してしまった。


 相変わらずこの立体映像……凄い技術だ。

 ほんとに泣いているように思えてしまう。


「だいぶ損傷しているようだけど、修理可能なら協力したい。どの程度の損傷具合かわかるかい?」


「残念ながら……システムのほとんどが、機能できていない為に、損傷具合を算出することもままならない状態です。予測値ですが……システム全体の3%程度しか稼働できていない状態と思われます……」


「ということは……損傷を修理するための復旧モードや、その前提となる再起動ができない状態ってこと?」


 俺は、そう尋ねた。

 もう五つのテスト用迷宮のダンジョンマスターになっているから、ここら辺の事はわかっているのだ。


「ご推察の通りです。この状態では、再起動をかけることはできません。現時点で可能な事は……今のまま……できるだけシステムを稼働させ、稼働率を上げることです。その過程で、修復システムが機能すれば、ある程度は機能回復することが可能になります。その後に、再起動復旧モードに入れば、元の状態に戻せる可能性もあります」


 悲しそうな顔をしながら、迷宮管理システムが言った。


「……とりあえず、今のままどのぐらいシステムが動くか、様子を見るってことだね? その後に、修理機能が動けば可能な限り修理して、ある程度の水準まで行ったら、本格的な『再起動復旧モード』に入るということだね?」


 俺は、自分の頭を整理する意味も込めて、改めて確認した。


「さすが姉妹迷宮のダンジョンマスター様です。その通りです。つきましては、この迷宮のダンジョンマスターにも就任していただけないでしょうか?」


 迷宮管理システムはそう言うと、祈るようなポーズをとった。


 そして、訴えかけるような潤んだ目をしている。

 ほんとにリアルなんだよね。


「わかった。ダンジョンマスターになることは構わないが、今のシステムの稼働率でマスター登録ができるのかい?」


「ご指摘の通り、現時点ですぐに登録を行うことはできません。エネルギーがまだ行き渡っていないので、登録システムも稼働できていない状態です……」


 迷宮管理システムは、悲しげにうつむいた。


「じゃあどうするの?」


「はい、まず魔素を吸い上げる装置の修復が必要です。修理システムが稼働すれば、修理可能になりますが、修理が終わるまでのエネルギーを他の手段で補う必要があります。補助動力として『魔力炉』があります。『魔芯核』を投入し、補助的なエネルギーとすることができます。その『魔力炉』の始動をお願いできないでしょうか? 『魔力炉』を始動させるには、最初に魔力を流す必要があるのです。マスターの魔力の注入をお願いしたいのです。稼働してしまえば、その後は『魔芯核』を投入すれば。補助動力として安定的にエネルギー供給できます」


 迷宮管理システムは、申し訳なさそうにそう言った。


「わかった。じゃあ協力するから、手順を教えて……」


 俺はそう言って、迷宮管理システムの指示に従って、補助動力源である『魔力炉』を稼働させた。


 『魔力炉』を常時稼働させるためには、大量の『魔芯核』が必要となるが、『魔力炉』がある部屋に『魔芯核』のストックが大量にあった。

 とりあえず、それを使えば、しばらくは持つだろう。

 もし足りなかったとしても、俺の『波動収納』に大量にあるから、それを使えばいいだろう。


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