778.迷宮遺跡に、潜入。

 不可侵領域にある『ピア温泉郷 妖精旅館』から、ほぼ真西に移動し、俺は白衣の男が潜伏してる迷宮遺跡にやってきた。


 以前アンナ辺境伯から聞いたところによれば、ここに潜伏している白衣の男は、元々ピグシード辺境伯領の貴族の息子だったとのことだった。


 二十年前、父親は『マグネの街』の守護だったようだ。

 白衣の男は、ジギルド男爵家の嫡男でバイン=ジギルドという名前だ。


 その当時、悪魔崇拝や悪魔召喚や悪魔契約を研究し、秘密結社まで作っていたらしい。


 それを、前々ピグシード辺境伯と嫡男だった前ピグシード辺境伯が暴き、捕らえたという話だった。


 悪魔崇拝や研究は、国法で禁じられており、それをする者は国家反逆罪として厳しく処断され、一族郎党皆死罪となるらしい。


 白衣の男の一族はすべて処刑されたようだが、奴自身はどうやったのか逃げ出し消息不明となっていたとのことだった。


 アンナ辺境伯は、その当時まだ十五歳で、南に隣接するセイバーン公爵領の公爵令嬢だったそうだ。


 後の夫となる若き日の前ピグシード辺境伯を、兄のように慕って何度もピグシード辺境伯領を訪れていたようだ。


 そして、前辺境伯の友人の一人にバイン=ジギルドがいたらしい。

 若き日のアンナ辺境伯に思いを寄せていたらしいのだが、アンナ辺境伯は全く相手にしていなかったとのことだ。


 そんな中、ある人物からジギルド家が嫡男を中心に悪魔の研究をしているという通報があり、捕縛したという経緯だったとのことである。


 そして、そのある人物というのが、当時まだ老婦人として生きていたナーナと『シルキー』のサーヤだったという衝撃の話だった。


 白衣の男は逃げ延び、二十年かけて復讐の準備をし、悪魔と共に襲ってきたのだった。


 ピグシード辺境伯領は、貴族を根絶やしにするという奴の逆恨みで、壊滅の危機に追い込まれたのだ。

 魔物の領域を刺激して、各市町に向かわせるとともに、自身は悪魔たちとともに各市町を回り、貴族たちのいる場所を攻撃したのだった。

 魔物の襲撃のせいで、多くの領民が犠牲となった。


 あの時の悲惨な光景を思い出すと、今でも虫唾が走る。

 今回は、絶対に逃さない。

 罪を償わせてやるのだ。



 ニアと俺の『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビーに、ピグシード家の伝家の宝刀『守護妖精の剣ガーディアンソード』を使ったバリア防御障壁を展開する準備をしてもらい、俺は単独でこの迷宮遺跡の中に潜入することにした。


 安全で確実なのは、最初にバリア防御障壁を張ってしまうことだが、奴らに気づかれる可能性が高い。

 できれば密かに潜入し、会話を聞きたいのだ。

 そこから悪魔たちの動きの情報が、得られる可能性があるからだ。


 そこで、念話でバリア防御障壁を展開するタイミングを指示するということにして、スタンバイ状態で待っていてもらうことにしたのだ。



 この迷宮遺跡の構造は、前に『エンペラースライム』のリンが潜入してくれたときに、把握できている。


 地上部分には、そびえ立つ崖のような大きな岩がある。

 その下方に入り口があるのだ。


 迷宮遺跡の中は、階層構造になっている。

『テスター迷宮』と非常によく似た作りで、一つのフロアが、ドーム球場一つ分ぐらいの大きさがあり、垂直の階層構造になっているのだ。


 このことから、この迷宮遺跡は『マシマグナ第四帝国』のテスト用迷宮の一つの遺跡である可能性が高いと判断している。


 地上部分になっているこの大岩の中にも、空間が広がっていて、やはり階層構造になっている。

 そして、地下には十階層ある。


 奴の居場所は、地下十階だ。


 前にリンから受けた報告では、各フロアは、様々な魔物がいるが、主体となっている魔物は決まっているとのことだった。


 地下一階層二階層———『小悪魔インプ』が多い。

 地下三階層四階層———『小悪魔ジャキ』が多い。

 地下五階層六階層七階層———動物型の魔物が多い。

 地下ハ階層九階層———虫型の魔物が多い。

 地下十階層———魔物はいない。白衣の男のみ。


 リンは、前に潜入したときに、地下十階層の中の、白衣の男の在所から一番離れた所に、『アメイジングシルキー』のサーヤの転移用の小さなログハウスを設置してくれている。


 目立たないところに、本当に小さい物置みたいなものを置いてあるから、まだ気づかれていないようだが、今回は転移での移動は自重した。


 ただ倒すだけなら、転移で乗り込んでしまうのが早いが、別の場所から悪魔が訪れているので、ただ倒すのではなく情報を引き出したいのだ。

 捕まえても情報を引き出せるか分からないので、確実なのは、会話を盗み聞きすることだと思う。


 転移による移動で気づかれるリスクを避け、地下一階から潜入していくという作戦にしたのだ。


 今まで使っていた『隠れ蓑のローブ』の上位互換である『隠密のローブ』をまとって、姿と気配を消して潜入するので、普通の魔物に気づかれることはないだろう。



 俺は、迷宮内に潜入し、魔物たちに気づかれることなく、無事に地下十階にたどり着いた。


 ある程度距離をとり、慎重に様子を窺う。


『視力強化』スキルと『聴力強化』スキルを使い、離れた場所から白衣の男を確認した。


 奴のそばには、黒いマントを羽織った 二メートルぐらいの人間……いや……悪魔がいた!


 大きな長鼻、下から突き出した大きな牙、魚の鰭のような耳、スキンヘッドに突き出す二本角、赤い肌……中級悪魔だ。


『波動鑑定』によれば…… 『種族』が『赤の悪魔(中級)』となっていて、レベルが55になっている。


 もう一体いて、フード付きのマントをつけているので顔の様子がわからない。

 身長は同様に二メートルくらいある。


 同様に『波動鑑定』したところ……『種族』が『赤の悪魔(上級)』となっていた。

 レベルは78だ。


 やはり上級悪魔までが来ていたようだ。



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