777.いざ、出陣!
俺は、吸血鬼の真祖であり始祖であるヒナさんと、娘のカーミラさんの家となっている『マシマグナ第四帝国』の人造迷宮『希望迷宮』を後にして、温泉旅館……『ピア温泉郷 妖精旅館』に転移で移動した。
温泉旅館は、本格的にオープンしていて、すでに旅人の人気になっている。
ピグシード辺境伯領の『マグネの街』と『アルテミナ公国』を結ぶ不可侵領域の街道の中間地点に作ってあるのだが、『アルテミナ公国』からピグシード辺境伯領を訪れる人が増えていることもあり、結構、利用者がいるのだ。
俺が来た目的は、この温泉旅館を密かに増設するためだ。
昨日の打ち合わせで、今夜国王陛下たちを招くことになったので、専用の場所を作ろうと思っている。
さすがに一般のお客さんと、国王陛下たちを一緒にするのは微妙だからね。
国王陛下は気にしなさそうな気もするが……俺たちの人数が多いこともあり、一般のお客さんが窮屈な思いをするのも、申し訳ないという気持ちもあっての判断だ。
お客さんの数が少なければ、一緒でもよかったかもしれないが、確認したら結構な数のお客さんがいたのだ。
それに今後、俺たちが訪れる時にも同じ問題が発生してしまうので、俺たち専用の別館を作ってしまうことにしたのだ。
俺たちが使わない時には、団体のお客さんに利用してもらったり、貴族の貸切みたいな運用も可能になるだろうしね。
今ある温泉旅館の裏側の空いているスペースに、そっくりそのまま、もう一つ温泉旅館を作るかたちで別館を増設することにした。
もし上空から見たとしたら、全く同じ造りの建物や庭が二つ連続で並んでいるかたちになるだろう。
通常のお客さんには、今までの温泉旅館の部分しか見えないように、植物などを配置して目隠しを作ろうと思っている。
隠れ家旅館的な感じだ。
俺が新しく取得した『固有スキル』の『絶対収納空間』の『データ収納』コマンドを使えば、今ある温泉旅館を敷地毎データコピーして、同じものを簡単に設置することができるのだ。
このスキルがなかったとしても、今まで使っていたスキルで同じような工程で作ることができるが、このスキルがあるお陰で一発コピーで、何の苦労もなく細部まで再現できるのだ。
個別に調整が必要なのは、温泉の源泉からの汲み上げくらいだ。
それ以外は、建物も庭も細部まで完全にコピーされた状態なのだ。
収納系のスキルと言いつつ……建築系のチート技としても使えてしまう凄いスキルなのだ。
ただ建物や庭は増やせても、スタッフをコピーで増やすことはできないから、スタッフの確保は大きな問題として残っているけどね。
まぁ今回は一晩だけのことなので、既存のスタッフでうまくやり繰りするのと、『コロシアム村』の俺の屋敷を運営している『フェアリー商会』の『おもてなし事業本部』の『おもてなし特別チーム』にも来てもらって、手伝ってもらうことにしようと思っている。
コピーして増設したもう一つの温泉旅館部分は、『隠れ家別館』という名前にした。
今夜の為の準備を終えて帰ろうとしたところで、俺に念話が入った。
この近くにある迷宮遺跡を巡回監視しているスライムたちからだった。
その迷宮遺跡は、ピグシード辺境伯領を壊滅の危機に追い込んだあの白衣の男……バイン=ジギルドが隠れている場所なのだ。
悪魔と契約し、ピグシード辺境伯領を襲撃した奴を許すことができない。
潜伏場所を発見した当初は、すぐにでも倒そうと思ったが、転移で逃げられると二度と発見できない可能性があったので、慎重に様子を見て監視していた状態だったのだ。
だが、ピグシード家に伝わる伝家の宝刀『
だが、今まで敢えて様子を見ていた。
俺の知る限り、奴が悪魔と繋がりがある唯一の人間だからだ。
奴が使い魔のカラスを飛ばして、情報を集めたり不穏な動きをしているのは知っていたが、敢えて泳がせていたのだ。
そして、この前の『コロシアム村』での戦いで、『正義の爪痕』の首領を密かに操っていたのが悪魔で、この時代に更なる災厄を及ぼそうとしているということを知った。
今後、人々の平和を守るために戦うべき相手は悪魔であることは間違いないので、悪魔と繋がりがある白衣の男を泳がせていたのは、結果オーライとして大きな意味を持つことになったのだ。
コウリュウ様から悪魔の話を聞いたときに、真っ先に白衣の男のことを考え、情報を引き出そうとも思ったのだが……何となく予感めいたものもあって、様子を見る状態を続けていたのだ。
それが功を奏したようだ。
どうも……大物がかかったらしい。
念話をしてきたスライムによれば、いつも出入りしている使い魔のカラスではなく、別の存在が迷宮遺跡を訪れたとのことだ。
スライムたちの話では、おそらく悪魔だろうとのことだ。
一瞬で遺跡の中に入ってしまったらしく『鑑定』はできなかったようだが、中級以上の悪魔ではないかとのことだった。
これは、千載一遇のチャンスなのだ。
悪魔たちの情報を得られるかもしれない。
乗り込んで倒す絶好の機会だ。
できれば捕えて、情報を引き出したい。
ただ上級悪魔が現れる可能性を考えると、俺以外は少し危険だ。
上級悪魔なら、おそらくレベル70から80くらいはあるだろう。
そうなると、ニアですらレベル差を考えると危険なのだ。
そこで今回は、俺単独で潜入することにした。
ただし、ニアには他にやってもらうことがある。
それは、ピグシード家の伝家の宝刀『
『
また引き出せたとしても、魔力や生命力を大量に消費する危険な大技なのである。
アンナ辺境伯のご主人の前ピグシード辺境伯も、それにより命を落としているのだ。
領民を守るために戦い、満身創痍の中最後の力を振り絞って技を発動し、亡くなったとのことだった。
そして、初代ピグシード辺境伯も、一度しか使わなかった危険な技なのである。
だが、その危険な技の発動を、敢えてニアにやってもらうのだ。
白衣の男と現れている悪魔に、転移で逃げられないように、封じてもらうためだ。
以前アンナ辺境伯から『
この『
剣は、ニアを適格者と判断したようだ。
短い時間なら、万全な状態のニアなら問題なく発動できることも確認済だ。
ただ、ニアを危険に晒したくないので、追加の検証もしていて、俺の魔力と生命エネルギーをニアに注入することで、ニアの負担を和らげることができることも確認しているのだ。
したがって、ニアと俺が二人で使えば、負担がなく強固なバリア防御障壁を張ることができるのだ。
今回は、俺が迷宮の中に突入するので、俺の代わりに俺の分身『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビーに、ニアのサポートをしてもらうことにした。
この『
俺が『テスター迷宮』で手に入れていた『魔法の巻物』の『不可視の牢獄』を使えば、『正義の爪痕』の幹部が持っていた魔法道具による転移は、防ぐことができていた。
だが後日実験したところ、サーヤの使う魔法による転移は、防げなかったのだ。
やはり『
『
だから、すぐに出動可能だ。
多くの人の命を奪った白衣の男は断じて許すことができないし、人々をもてあそぶ悪魔の存在も許すことができない。
気合を入れて、いざ出陣だ!
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