768.昔の、パーティーメンバー。

『真祖吸血鬼 ヴァンパイアオリジン』のカーミラさんの家を訪問する同行メンバーは、全員揃った。


 そして最後に、カーミラさんが集合場所である中庭にやってきた。


「ほほほほほ、そなたがカーミラちゃんかい? 確かに……ドラキューレちゃんと似とるなぁ。ワシが一緒にいたのは、カーミラちゃんが生まれる前のことじゃ。何か聞いとらんかね?」


 クワの付喪神クワちゃんが、カーミラさんに声をかけた。


「そういえば……少しですけど、クワの付喪神の話を聞いた気がします。確か羽妖精さんの話も出てた気が……」


 カーミラさんが、顎に手を当てて首を傾げながら、思い出している。


「ほほう、あんまり詳しく聞いとらんようじゃの。実はあの頃、このニアちゃんの先祖のティタちゃんとワシとドラキューレちゃんは、行動を共にしておったのじゃ。他にもメンバーはいたがのう。ドラキューレちゃんのパートナーは、ケントじゃった。カーミラちゃんの父上じゃろう」


 クワちゃんが、懐かしむようなトーンで言った。


「父もご存知なんですか?」


「そうじゃよ。二人はラブラブでのう、見てるこっちが恥ずかしいくらいじゃったわ」


「ちょっと、クワちゃん! ひいお婆ちゃんとドラキューレさんて、知り合いだったの?」


 ニアが、たまらず話に割り込んだ。

 俺も密かに驚いていたのだが、ニアも驚いているようだ。

 さらっと、びっくり情報が入っていたからね。


「そうじゃよ。ティタちゃんは、人族の男と共に行動していたときのことを、あまり詳しく教えとらんようじゃのう。隠すことでもあるまいに……」


 クワちゃんは、呑気な感じだ。


「私も、その辺のことはあまり詳しく聞いてなくて……。羽妖精の友達がいたという話も、今のクワちゃんの話で思い出したんですよね。母は、かなり古い時代のことはよく話してくれたんですが、私が生まれる直前くらいの事は、そんなに話さなかったんですよね。母の時間感覚では、昔の話に入らなかったから、あまり詳しく伝えなかったのかもしれません」


 カーミラさんも、少し申し訳なさそうにニアに言った。


 確かに言われてみれば、出会っていても不思議ではない。

 ピグシード辺境伯家が興きたのが約六百年前で、その頃にニアのひいお婆さんのティタさんと初代ピグシード辺境伯が活動していたわけだ。

 約五百年の休眠期と百年くらいの活動期を繰り返しているドラキューレさんが、今目覚める時期だということは、約六百年前はちょうど活動期だったことになるよね。

 その時に、クワちゃんやティタさんと知り合っていても、時間軸的にはおかしくない。


「私のひいお婆ちゃんも、知り合いって言うだけじゃなくて、一緒に行動してたの?」


 ニアが気を取り直して、さらに質問した。


「あぁそうじゃよ。ティタちゃんのパートナーは、オベロという若者だった。後のピグシード辺境伯じゃよ」


「あの……パーティーとして、一緒に行動していたのですか?」


 俺は、気になって訊いてみた。


「そうじゃ。その頃ピグシード辺境伯領のあった場所は、『コウリュウド王国』のまさに辺境でな、ほとんど魔物の領域と化していたのじゃ。治める領主はいたが、酷い奴でのう……悪魔崇拝者じゃったのじゃ。悪魔と契約して、最終的には悪魔供が侵攻して来おったのじゃ。その悪魔と、最後には悪魔と化した領主も、ワシらが討ち倒したのじゃよ」


「そんな戦いを五人でやったのですか?」


 俺は少し驚いた。

 『限界突破ステータス』の俺でも、多くの仲間がいてくれるから戦えるけど、仲間が少なかったら戦い自体がかなりハードになるはずだ。


「いや、中核メンバーは他にもいたのじゃ。ドラキューレちゃんの友達の『天然ゴーレム』のシラヌイとか、あとワシの相棒の兎亜人のラッキーちゃんとかがおったのじゃ。『ブラウニー』のブランちゃんもおった、懐かしいのう。後は徐々につき従う人々が増えてのう。いつの間にかちょっとした部隊のようになっていたのう」


 クワちゃんは、やはり懐かしむようなトーンで教えてくれた。


 パーティーメンバーは、他にもいたようだ。

『天然ゴーレム』とか妖精族の『ブラウニー』とか……まだ出会っていない種族だ。

 そしてクワちゃんの相棒は、兎亜人だったのか……ミルキーたち四姉弟を見たら、喜ぶかもしれない。


「なに!? ブランおばあちゃんて、その時から一緒だったの!?」


 ニアが驚いている。


「ニアは知ってるの?」


 俺は、たまらず尋ねた。


「ブランおばあちゃんはね、私が住んでた妖精族の里にいるのよ。いろんな妖精族が一緒に住んでいる里だから、『ブラウニー』も結構いたんだけど……。あの二人、仲がいいとは思っていたけど、まさか同じパーティーだったなんて……。全然知らなかった。もう、びっくりする情報がありすぎて……さすがの私でも消化できないわ……。あの人たち……なんでそういうことを詳しく教えてくれなかったのかしら、まったく!」


 ニアは、腕組みして、ほっぺを膨らませている。


「私も『天然ゴーレム』のシラヌイさんはよく知ってます。私たちの家になっている『希望迷宮』は、『ゴーレムの谷』と言われる『天然ゴーレム』たちの生息域のすぐ近くにあるんです。『天然ゴーレム』たちとは、母は相当古い時代から仲良くしていたというか、最初に迷宮に住みだした約三千年前からの付き合いのようです」


 カーミラさんが、そう教えてくれた。


 『ゴーレムの谷』という名前は、今までも聞いたことがあるが、『天然ゴーレム』が生息しているという話を改めて聞くと、会ってみたくなるよね。


「『天然ゴーレム』というのは、妖精族なんですか?」


 俺は、ふと思った疑問を、投げかけた。


「あぁ、それは私が教えてあげるわ。妖精族に近い存在とも言えるけど、妖精族ではないわね。かといって魔物のオリジンとも違うわ。特別な存在なの。ドラゴンなんかは、もちろん妖精族でもないし、魔物のオリジンでもない……あえていうなら竜族という特別な種族という感じよね。それと同じようなものね。確か『天然ゴーレム』の中にも、いろんな種類があるはずよ。『クレイゴーレム』とか『ストーンゴーレム』とかね」


 俺はカーミラさんに尋ねたのだが、ニアが説明してくれた。


「ええ、そうですね。今では『天然ゴーレム』の生息域は、かなり限られているはずです。『ゴーレムの谷』に住んでいるのは、クレイゴーレムたちです」


 カーミラさんが付け加えてくれた。


「あの……すぐでなくても良いのですが……一度、『ゴーレムの谷』にも行ってみたいというか……『天然ゴーレム』に会ってみたいと思っているんですけど……」


 俺は、思わずそんなことを言ってしまった。


「グリムさんだったら、問題ないと思います。普通の人は近づけないように、彼らはトラップを仕掛けてますが、私たちとは家族みたいなものですから、今度紹介しますよ」


 カーミラさんが、快諾してくれた。


 これは楽しみだ!


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