767.偏屈じいさんと、こだわりじいさん。
翌日の朝、俺は『コロシアム村』の屋敷の中庭にいる。
これから出かけるメンバーと待ち合わせをしているのだ。
今日は、『真祖吸血鬼 ヴァンパイアオリジン』のカーミラさんと共に、彼女の家である迷宮に行くことになっているのだ。
真祖であり始祖であるドラキューレさんが目覚めているかはわからないが、そろそろ目覚めている可能性もあるので、カーミラさんは一度戻りたいということだった。
俺にも一緒に来ないかと誘ってくれたので、今日行く約束をしていたのだ。
彼女たち真祖吸血鬼が家としているのは、『マシマグナ第四帝国』の人造迷宮の本格稼働迷宮の一つだ。
本格稼働迷宮の第一号迷宮の『希望迷宮』である。
一緒に行くのは、俺の仲間のレギュラーメンバーの中ではニアだけだ。
リリイとチャッピーも行きたいと言っていたのだが、午前中に秘密基地『竜羽基地』で行っている訓練に参加したり、『ドワーフ』のミネちゃんとゲンバイン公爵家長女のドロシーちゃんたちに頼んである基地の整備の手伝いをしてくれるように頼んだのだ。
最初は微妙な顔をしていたが、ミネちゃんたちが操縦型人工ゴーレム……通称『べつじん28号』の飛行テストをするから、一緒に乗ったら楽しいんじゃないかという提案をして、その気になってくれた。
ちなみに、午前中に行っている訓練というのは、毎日行うことになった『神獣の巫女』『セイリュウ七本槍』『セイリュウ騎士団』を中心に行う合同訓練のことだ。
俺が、連れて行くメンバーを最小限にしたのは、もしドラキューレさんが目覚めていた場合に、大人数で押し掛けたら迷惑になると思ったからだ。
待ち合わせには、俺とニアが一番乗りで、まだ他の同行メンバーは来ていない。
ただ実は、ここにはもう一人特別に参加することになった仲間がいるのだ。
それは……昨日仲間になったばかりのクワの付喪神クワちゃんだ。
クワちゃんは、昨夜マスカット家に置いてきたのだが、今朝になって念話をしてきたのだ。
クワちゃんには、『マスカッツ』の女性たちの訓練を見てもらうことと農業を教えてもらうことをお願いしてあったのだが、そのために必要なものがいくつかあるという連絡をくれたのだった。
その話の中で俺たちの今日の予定を訊かれ、吸血鬼の始祖に会いに行くという話をしたら、猛烈に食いついてきたのだ。
猛烈に食いついた理由は、すぐにわかった。
なんと、クワちゃんは、ドラキューレさんと知り合いだったのだ。
約六百年前に、遭っていたらしい。
ドラキューレさんは、約五百年ごとに休眠を繰り返しているらしいから、ちょうど六百年前は活動期だったのだろう。
そういう事情だったので、さっき『領都セイバーン』のマスカット家に迎えに行って、連れてきたのだ。
もちろん転移でだ。
本当は、今日の午後からの『マスカッツ』の訓練に参加するはずだったから、シャインと『マスカッツ』の子たちには、急用ができたと告げて連れてきた。
用件が長引いて間に合わない場合は、クワちゃん抜きで武術の訓練をしてくれるように頼んでおいた。
もともとはシャインが『コウリュウド式伝承武術』の基礎を教えることになっているから、大きな支障は無いだろう。
突然の展開になったが、クワちゃんをチーム付喪神に紹介できるから、そういう意味ではちょうどよかったけどね。
カーミラさんの家に同行するメンバーは、他にもいる。
もともと一緒に行く予定だった『魔盾 千手盾』の付喪神フミナさんだ。
彼女は、約三千年前に活躍した『九人の勇者』の一人『守りの勇者』のフミナ=センジュの残留思念が主人格となって付喪神化した存在である。
同じく『九人の勇者』の一人『癒しの勇者』のヒナ=ヒナタだったドラキューレさんとは、仲良しだったとのことだった。
ヒナさんは、最終決戦の時に命を落とし、魔王にかけられた呪い『
そして『ホムンクルス』のニコちゃんも、一緒に行くことになっている。
当時『ホムンクルス』の子たちは、『守りの勇者』フミナさんが保護していて、『癒しの勇者』のヒナさんとも会ったことがあるらしい。
そんなこともあり、ニコちゃんが一緒に行きたいと希望したので、連れて行くことにしたのだ。
それに伴って、ニコちゃんのパートナーとなった『闇の石杖』の付喪神の闇さんも一緒に行くことになった。
闇さんは、フミナさんとニコちゃんのパートナーというかたちにしていたが、正式にはニコちゃんのパートナーということで落ち着いた。
そのフミナさん、ニコちゃん、闇さんが集合場所である中庭にやってきた。
チーム付喪神として面倒を見てくれている家の付喪神のナーナも一緒だ。
見送りに来てくれたようだ。
ちょうどいいので、クワちゃんを紹介しよう。
「みんな、おはよう! 昨夜話したクワの付喪神クワちゃんです。急遽一緒に行くことになったんだ」
俺はそう言って、クワちゃんを紹介した。
「ナーナです。お話は聞いています。どうぞ、よろしくお願いします」
ナーナが、丁寧にお辞儀をした。
「ナーナちゃん……なんて美人さんなのじゃ。人型になる付喪神なんて、ほんとに珍しいのぉ。こちらこそよろしくなのじゃ」
「フミナです。よろしくお願いします」
「これまた可愛い子ちゃんじゃのう。人型に顕現できる付喪神が二人もおるとはのう。しかも二人とも美人さんときてる……。楽しくなりそうなのじゃ! フミナちゃん、よろしくなのじゃ」
「ニコです。よろしくお願いします」
「クワちゃんじゃ、よろしくのう。ニコちゃんは、ほんとに可愛いのう」
「ワシは、杖の付喪神の闇と申す。最近付喪神化したばかりでのう、そちらが先輩ということになるようじゃ。よろしくなのじゃ」
闇さんが、少しぎこちなく挨拶をした。
おじいさんっぽい口調だし、語尾に「のじゃ」とか「のう」をつけるし……完全に闇さんとクワちゃん、キャラが被ってると思うんだけど……。
人型でない通常の付喪神化をすると、みんなこんな感じになっちゃうのかなあ……?
いや、そんなわけないよね……?
「ほほう。これはこれは……。魔法の杖の付喪神じゃな。お主、レベルが上がったら相当すごいことになるの。同じ付喪神として、協力できることがあればさせてもらおう。伊達に長生きしておらんでのう」
「ほほほ、さすが先輩殿じゃな。ワシの凄さがわかるなんて。これは良き先輩を持ったのう。ほほほほほ」
闇さんは、クワちゃんに強くなると言われて、嬉しかったようで上機嫌になった。
それにしても……笑うときに、闇さんもクワちゃんも「ほほほほほ」って笑うんだよね。
完全に被ってるんですけど……。
付喪神のマストな仕様だったりするのかなあ……単なる偶然であることを祈ろう。
まぁキャラ被りは一旦置いておくとして、この二人の付喪神は、早くも意気投合した感じになった。
じいさん同士が仲良くなったみたいな感じである。
よく考えたら、闇さんもクワちゃんも、だいぶ面倒くさいキャラだから、もめなくてよかったわぁ……。
闇さんは、面倒くさい偏屈じいさんみたいなキャラだし、クワちゃんは職人気質のこだわりじいさんみたいなキャラだからね。
それにしても……うちの付喪神たちって……極端すぎると思うんだよね。
珍しい人型に顕現できる付喪神であるナーナとフミナさんは、美人でかつ性格もいい。
それに対して、通常仕様の付喪神である闇さんとクワちゃんは、クセが強いじいさんキャラだ。
振り幅がすごすぎて……。
……深く考えたら負けだな……。
まぁ俺の仲間たちには、いなかったキャラクターということで……良しとしておこう。
でもなぁ……一気に二人も同じようなキャラが来なくてもいいと思うんだよね……。
これがゲームとかだったら……バランス悪すぎるわ!
でもよく考えたら……ゲームのガチャで……老騎士みたいなキャラクターが連続で来たりすることがあったなぁ……。
元いた世界でやっていたゲームで、美少女キャラといぶし銀の年配キャラが、ガチャで出やすかった変な記憶を思い出した……。
これに引きずられると、やばいことになりそうなので……早く忘れることにしよう!
それはともかくとして、この二人は……もう俺の中では、『じいさんコンビ』という括りになっている……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます