766.クワちゃんの、能力。

 取り巻き美女集団から農業美女集団へと変貌することになった『マスカッツ』とクワの付喪神クワちゃんによる農業チームは、早くも成功の予感を感じさせてくれた。


 それは、クワちゃんがマスカット家の屋敷の隅の方にあった色とりどりのバラを発見したからだ。


 もちろん、マスカット家の人間は皆知っていたわけだが、誰も重要視しておらず、とりあえず管理をしているだけという状態だったらしい。

 先祖代々伝わるバラ園らしいが、見た感じ……バラ園と言えるほど綺麗に整備されているわけではない。

 雑多な品種が植わっているバラ畑という印象だ。

 立ち性の品種もあれば、蔓性の品種もある。

 夜なので松明や魔法道具の灯りだが、結構明るいのでしっかりと見えるのだ。


 特筆すべきは、色のバリエーションで、俺が見ても可能性を感じたんだけど……。

 ここの家の人たちは、なんで何も感じていなかったのだろう……?

 本当に、宝の持ち腐れが多すぎるわ!


 白、黄色、オレンジ、赤、ピンク、紫を基本に、それらの明るめ、暗め、中間色などバリエーションが豊かなのだ。

 そして驚くことに、青いバラがあった。


 俺がいた世界の常識では、自然界で青いバラができることはほぼ無いと言われていたはずだ。

 だが、ここにはある。

 嬉しい異世界補正という感じだ。

 ただ実際の色目はライトブルーなので、青いバラと言われてイメージする濃い青色ではない。

 元いた世界でも、薄い青色に見えるような花色はあった気がするから、それが濃くなった程度と言ってしまえば、それまでだ。

 だが、それでも凄いと思う。

 そしてもう一つ、黄色のバラの中に、明るいというか艶が乗っている金色っぽく見える花色があるのだ。


 この二色は、この世界でも珍しいらしく、クワちゃんの食いつきがすごかった。


 クワちゃんが土を耕して手入れをすれば、バラ園が『癒し露地イヤシロチ』化して、バラの木それぞれの生命力が活性化されるとのことだ。

 そして、この青いバラをもっと濃くしたり、金色っぽいバラを黄金色のバラにしたりということができるかもしれないと、クワちゃんが言っていた。


 なんとなくだが……クワちゃんの中の農家魂みたいなものに火がついた感じで、気合が入っているように思えた。


 もしほんとに濃い青バラと、金色のバラができたら、すごいことだと思う。

 これも、貴族や豪商相手に、高値で売れるかもしれない。


 ニアやサンディーちゃんを始めとした『マスカッツ』の女性たちに聞いてみたが、この世界には、男性が女性に花を送るという習慣はあまりないらしい。

 全くないわけではないようなのだが、一般庶民にはほとんどないし、貴族でも極一部ということのようだ。


 花売りの女の子が売っているような原っぱの花で作った小さな花束を買って、家に飾るという習慣は多少なりともあるそうだ。

 ただやはり、ある程度余裕がないと出来ないようだ。


 この話を聞いて思ったが、女性に花を贈るという習慣をもっと根付かせた方がいいかもしれない。

 まぁ女性に限定する必要はないから、大切な人に花を送るという習慣にした方がいいと思うが。


 そういう習慣が根付けば、生活に困って花を摘んで売っている花売りの少女たちから、花束を買ってくれる人も増えるだろうしね。


 花の鉢植えや、切り花の販売も、しっかりとした商売になると思うんだよね。


 バラなんかだったら、花束にしなくても一輪でも小洒落たプレゼントになると思う。


 お花を愛でる文化、贈る文化を根付かせることができたら、より素敵な社会になると思うんだよね。

 その分、みんなの精神波動も上がると思うし。



 俺は、農業美女集団『マスカッツ』とクワちゃんの為に、領都郊外の草原に作る『フェアリー商会』とマスカット家の共同農園に、バラの栽培エリアと野菜の栽培エリアも作ってあげることにした。


 今後、新しい体制が軌道に乗れば、『マスカッツ』の子たちは大忙しになるだろう。

 午前中は『ふさなり商会』のお店に立って野菜やフルーツを販売し、午後は武術の訓練や農作業をやるというかたちになるのだ。

 もう取り巻きをやらなくてもよくなったわけだが、強くなりたいという気持ちに変わりはないらしく、武術の訓練は予定通り行うことになっている。



 解散して俺とニアは引き上げることにしたが、新しく仲間になったクワちゃんは、しばらくマスカット家にとどまって、サンディーさんたち『マスカッツ』の特訓や農作業の指導に当たってくれることになった。


 別れる前に、クワちゃんに許可を得て『波動鑑定』させてもらった。


 本人が言っていたように、レベルは52だった。


『種族名』は……『付喪神 スピリット・ホー』となっていて、『名称』はクワとなっていた。


『通常スキル』で『破壊耐性』『劣化耐性』『水耐性』『アイテムボックス』『教育』『水魔法適性』『水魔法——放水』『水魔法——水刃ウォーターブレード』を持っている。


『破壊耐性』『劣化耐性』『水魔法適性』『水魔法——放水』『水魔法——水刃ウォーターブレード』の五つは、俺の持っていないスキルだ。

 クワちゃんのお陰で、手に入ることができた。


『破壊耐性』『劣化耐性』は、付喪神の道具としての性質が強いから身に付いたのだろう。

『通常スキル』といっても、普通の生物には身に付きづらいスキルではないだろうか。

 人に当てはめたときには……『破壊耐性』は、怪我しにくくなるということなのだろうか……?

『劣化耐性』は、老化しにくくなるということなのかなぁ……?

 アンチエイジング的な効果があるとしたら、すごいと思うんだけど!


『水魔法——放水』は、初級の水魔法で、畑の水やりだったり、消火活動に便利な魔法のようだ。

『水魔法——水刃ウォーターブレード』は、上級の水魔法で高水圧で斬りつける攻撃ができるらしい。

 スキルレベルが上がると、本当に水で刃というか剣が作れるようだ。


『種族固有スキル』には、『耕耘機カルチベーター』というスキルがある。

 畑を耕して、柔らかいふかふかの土にするとともに、土の団粒構造を促進する力があるらしい。

 団粒構造の土というのは、簡単に言うと土が小さなお団子状になった土のことだ。

 排水性が高いのに水持ちが良くて、通気性も良いという最高の状態の土である。

 農家だった俺には、よくわかるのだ。

 いわゆる土作をするというのは、この団粒構造の土を作るということなのである。


 敵に対して使う『カルチベートダイナミック』という技コマンドがある。

 連続の振り降ろし攻撃で、粉砕するらしい。

 攻撃用の必殺技のようだ。


『固有スキル』も持っていて、『万能変形鍬』というスキルだ。

 クワちゃんは、よくある鍬の形……一般に平鍬と言われている形をしているのだが、この『万能変形鍬』というスキルを使うと、クワの刃先を変形させて三又に分かれた三本鍬とか四本鍬とかに変形できるらしい。

 また先を尖らせて三角形にして、いわゆる三角ホーという農作業で使う道具の形状になることもできるようだ。

 状況に応じて、形が変えられるという便利機能らしい。


 そして『ハードブレイカー』という技コマンドがあって、岩盤を破壊したりすることができるらしい。

 物理的な壁もそうだし、魔法障壁にもダメージを与えることができるようだ。


 クワちゃんは、本人が言うように、戦闘においても凄いらしい。

 レベル52は、伊達じゃない!


 面倒くさいシャインの面倒をみたお陰で、愉快で頼もしい仲間を増やすことができた。


『情けは人のためならず』とはよく言ったものだ。


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