765.取り巻き美女集団から、農業美女集団へ。

 クワの付喪神クワちゃんによる人生相談というか……進路相談のような状況になっている。

『マスカッツ』の子たちが、今後どうしたいかということを、クワちゃんが先生のように聞いてくれているのだ。

 少し思ったが……クワちゃんって、先生が向いているかもしれない。

 俺の『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビーが運営している矯正施設『残念B組! ナビ八先生』の先生になってもらうのも、いいかもしれない。


「私ら六人仲良しなんすよ。本当は商売か何かをやりたいって話したりするんす。畑仕事とかも嫌いじゃないし、単に取り巻いているよりは、汗かいて仕事してるほうがいいんすけどね……」


 サンディーさんが、最後にみんなの気持ちをまとめるように、そんな話をした。


 クワちゃんの聞き取りにより、『マスカッツ』のみんながどんな思いでいるかは大体わかった。

 やはり……シャインの取り巻きをやりたいと思っている人は、一人もいなかった……残念!

 まぁそりゃそうだよね……職業が『取り巻き』って絶対ヤダよね……。

 そして、このみんなの気持ちをシャインは、全く気づいていないんだろうな……。

 てか……むしろ、自分を取り巻けることを幸せだと思ってる……という勘違いをしているに違いない。


 ホームレスだったところを保護されたサンディーさんと、オーガニーさんという緑髪の美人さんは、人見知りしない性格なので、商売をしてみたいと言っていた。

 ただ土いじりも好きなので、農業もしてみたいという気持ちもあるようだ。

 サンディーさんは、綺麗な花を育ててみたいと言っていたし、オーガニーさんは色んな野菜を育ててみたいと言っていた。


 シャインの奴隷というかたちで保護されている四人の女性は、人前に立つのはあまり好きではないようで、畑仕事をするとか、何かを作る職人になりたいと言っていた。

 茶髪美人のクレイディーさん、黒髪美人のピートニーさん、青髪美人のロックニーさん、銀髪美人のストンリーさんという四人は、みんな控えめな大人しい感じだった。

 セイバーン公爵領の西隣のコバルト侯爵領の出身で、貧しさの為に奴隷として売られてしまったとのことだった。


 この子たちについては、シャインに話をして奴隷契約を解除してあげようと思っている。

 シャインも、保護する為に奴隷にしただけだと言っていたから、了承してくれるだろう。


「ねぇ、やっぱりさぁ……この子たちを自由にしてあげた方がいいんじゃない?」


 ニアが思案顔で俺を見た。


「ありがたいお話なんすけど、シャイン様に恩返ししたいし、誰かが見てないとヤバイってのもありますし、私らこのままで大丈夫っす」


 サンディーさんが、少し申し訳なさそうな顔をしながら言った。

 律儀な子たちのようだ。


 この子たちが気持ち的に、後ろめたさを感じずに取り巻きを止める方法があればいいんだけどなぁ……。

 ただそれがあったとしても、シャインを誰かが見てないとヤバイっていうのも確かにその通りなんだよね……。


「俺は、取り巻きをするだけが恩を返す方法じゃないと思うから、シャインとも話をしてみて、今のかたちを変えた方がいいと思っている。でも……サンディーさんが言う通り、誰かが見てないとヤバイっていうのも、確かにあるんだよね……」


 俺は、ニアに向けてそう答えた。


「確かにそうかもしれないけど……。まったく、あいつがもっとしっかりしてればいいのに!」


 ニアもすぐには解決策が思い浮かばないようで、軽くイラッとしている。


 シャインの取り扱い方がだいぶわかってきたので、取り巻きをやめさせることはできそうな気がするが、あいつを一人にしてしまうヤバイ状態を解決する方法が思い浮かばない……。


 難しい問題だ……。

 というか……なんで俺たちが、こんなことで頭を悩ませているんだろう……?

 冷静に考えると、やるせない気持ちでいっぱいだ! シャインのバカ!


「しょうがないのう。この際、暫定的な処置として、六人で取り巻かないで、交代で一人付くというのはどうじゃ? サンディーちゃんがやっておる仕入れ担当とかいうやつを、頑張って六人全員ができるようにしてはどうじゃ?」


 クワちゃんが、そんな提案をしてくれた。


 現実的な良い案かもしれない。

 ただ仕入れ担当は交渉力がいるから、みんなができるようにするのは大変な気がする……。


 そもそも、本筋は仕入れ担当が必要なわけではなくて、シャインが変なことに巻き込まれないようにするためのお守り役が必要ってことなんだよね。

 専属のマネージャーみたいな人間を、一人養成すればいいのかな……。


「あの……私らみんなが交渉ができるようにするって言うなら、屋敷の子たちも入れた方がいいかもしれないっす。しっかりした賢い子がいるんすよ」


 サンディーさんが、そんな提案をしてくれた。


「それはいいけど、子供たちは嫌がらないかなぁ?」


 俺はそんな質問を投げかけた。

 今の『マスカッツ』の立場が、子供たちに置き換わるだけだと可哀想だからね。


「そうっすね……たぶん大丈夫っす。みんなシャイン様のこと好きだし、外に出たがってるんで。屋敷の中の仕事だけなのは、退屈みたいっす」


「だったらいいんじゃない。子供たちも喜ぶなら、それがいいわよ!」


 ニアが賛同した。


「子供たちのまとめ役をやってるマッドリーちゃんは、十二歳なんすけど、しっかりしてて頭もいいっすから。交渉も、多分できるっすよ。将来、有望っす! あの子が大きくなって、将来『ふさなり商会』を仕切ったら、多分うまくいくっす」


 サンディーさんが、改めて詳しい人材情報をくれた。

 そう……これはまさに人材情報だ!

 すでに適材がいたらしい。

 多分だけど……人を見る目がある『アメイジングシルキー』のサーヤが見たら、すぐに登用するような人材なんだろう。


 そのマッドリーちゃんという子を登用するかたちで、考えることにしよう。



 そんな感じで話がまとまって、俺たちはマスカット家の屋敷に着いた後、シャインと話をした。


 まず『マスカッツ』の四人の奴隷契約を解除してるあげる件については、予想通り、シャインが二つ返事でオーケーしてくれた。

 そして、すぐに解除してあげた。


 彼女たちはあっさり奴隷契約を解除され、皆驚くとともに泣いていた。

 奴隷契約が解除されたというだけで、なんだか少し明るくなったような感じだった。


 そして、クワちゃんがシャインに説教してくれた。

 取り巻きを連れて、世の中を照らすという発想が間違っているという話を、こんこんとしていた。

 だが、シャインには、全く響いていなかった……。


 そこで俺が助っ人として参戦し、取り巻きの子たちが更に美しく輝く方法について話した。

 農園で提案したように武術などで己を磨き、レベルを上げて自信をつけさせることが大切であること。

 それに加えて、やりたい仕事をさせてあげることも、内なる輝きを増すことになると説明した。

 だから『マスカッツ』のみんなを自由にして、輝かせることこそが保護したシャインの美しき務めであり、皆の喜びであるという話をした。


 美しさと喜びを使ったから、シャインは結構納得している感じだった。


 マスカット家の当主としての美しき姿は、取り巻きを必要としていない。

 シャイン一人の輝きで、充分世の中を照らしていると持ち上げておいた。


 ただ当主であり商会の会頭であるシャインが、直接仕入れをするのは美しくないので、専属の担当者をつけて、その者に、仕入れと全体の管理をさせる役割分担が美しいと力説し、納得させた。

 そして、マッドリーちゃんを登用し、若い才能を美しく咲かせてほしいという話をした。


 この“若い才能を美しく咲かせる”という言葉が、シャインの心の琴線に触れたらしく……「おお、友よ、素晴らしい!」と言って、俺に抱きついてきていた。

 ちょっと気持ち悪かったけど、我慢した……。


 予定していた通りの展開にでき、万事うまくいった。

 この話は、当然シャインの弟のシャイニングさんと妹のシャイニーさんも聞いていて、喜んでくれた。


 この話を、マッドリーちゃんを始めとする屋敷の子供たちにもしてあげて、みんな喜んでいた。

 それは、今後シャインが外出するときに、時々子供たちも一緒に連れて行ってもらえるという話をしたからだ。

 屋敷の外に出たいという気持ちもあるだろうし、基本的には子供たちはシャインのことが好きみたいなんだよね。


 こうして、取り巻き美女集団『マスカッツ』のメンバーも、自由になったのだ。

 だが、当面はシャインへの恩義があるので、マスカット家の為に、農業を頑張ることにしたようだ。


 ブドウ園もそうだが、今後『ふさなり商会』で販売するための野菜作りや花作りにも力を入れたいということだった。


 これは、クワの付喪神クワちゃんが、農業指導もしてくれると申し出てくれたことにもよる。

 ある意味、農業の神様的な存在に指導してもらえるんだからね。

 そしてクワちゃんが耕した土は、すごいパワーを秘めた土になるらしいし。


 取り巻き美女集団だった『マスカッツ』は、農業女子の集団……農業美女集団『マスカッツ』へと生まれ変わることになったのだ!


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