764.男としては、無し。
「ニアちゃんや、こいつはかなり重症じゃのう。確かに、気持ち悪いのじゃ……」
クワの付喪神、クワちゃんがニアにそんな感想を漏らした。
もちろんシャインのことを言っているのだ。
全く会話が噛み合わないからね。
「だから言ったでしょう。シャインの事は気にしないで。それより、シャインの世話をしている周りの綺麗な子たちを紹介するから!」
ニアはそう言って、クワちゃんに『マスカッツ』のみんなを紹介した。
「お化けじゃなくて、よかったっす。付喪神様に会えるなんて、光栄っす」
『マスカッツ』のリーダー格のサンディーさんは、人見知りしないようで、気軽にクワちゃんに話しかけている。
「そなたは、美人さんじゃのう。サンディーちゃんならワシを掴んでもいいぞい!」
クワちゃんは、上機嫌なトーンだ。
こいつも女好きなのか……今のところ付喪神の男キャラ風な奴は、みんな女好きだな……。
といっても、闇さんとクワちゃんの二人しかいないけどね。
「まじっすか! じゃあ失礼するっす」
サンディーさんは、物怖じすることなく、クワちゃんを掴んだ。
そして、クワちゃんを振り上げ、畑を耕すようなかたちで地面に振り下ろした。
——ザクッ
——ザクッ、ザクッ、ザクッ
「なんかすごいっす! 体がひとりでに動く感じっす! これなら疲れないで、ずっと耕せそうっす! クワの振り方にも、達人の極意みたいなもんがあるんすね! 楽しいっす! クワちゃん最高っす!」
サンディーさんが、すごい笑顔だ。
初めて見る晴れやかな笑顔だ。
「そうじゃろう、そうじゃろう! ワシも気持ちいいぞえ。サンディーちゃんが持つと、調子がいいぞい!」
クワちゃんも、声のトーンが楽しそうだ。
「クワちゃん、『マスカッツ』の子たちが強くなりたいって言うから、明日から特訓するんだけど、クワちゃんも手伝ってくれない?」
ニアは閃いたという顔をして、クワちゃんに話を振った。
「そうなのかい。この美人さんたちは、強くなりたいのかい。よかろう、手伝ってやろう。農作業の体の使い方を覚えれば、基礎体力もつくし武芸にも通じるのじゃよ!」
「ほんと!? ありがとう! この子たちは、明日の午後から訓練を始めるけど、しばらくこの子たちといる? それとも私たちと来る?」
「そうじゃなぁ……じゃぁ明日からしばらくは、この子たちを見てやるとするかのう」
「わかった。じゃぁサンディーちゃん、それからシャイン、クワちゃんのことよろしくね!」
「了解っす!」
「もちろんですよ、ニア様。クワちゃんのことは、私にお任せください」
「それから、ニアちゃんや、ワシの力をフルに引き出すには、ワシの気に入るパートナーが必要じゃ! ワシの基本の性質は道具じゃからのう。付喪神化して単独で活動できるといっても、道具としての性質も持っておるから、パートナーとシンクロした時の方が、力が発揮できるのじゃ! 候補者を探しといておくれ。言っとくが、可愛い子ちゃん以外は受け付けんからの!」
クワちゃんが、改めてニアに言った。
デジャブ感が半端ない……『闇の石杖』の付喪神の闇さんも、そんなことを言ってたんだよね。
“美人のパートナーをつけろ”みたいな話をしていたっけ。
ただ一つ納得できたのは、元々道具だったのだから、それを使う使用者というかパートナーがいて、お互いに力を合わせた方が能力を発揮できるという点だ。
確かに、そうなのかもしれない。
さて……クワちゃんのパートナーって……誰がいいかなぁ……?
農業が好きで、クワで戦えるような人……今のところ、思い浮かぶ人はいないけど……。
なんとなく……サンディーさんと相性が良い気がするけど……。
サンディーさんは、シャインの取り巻きをしていないといけないから、自由に行動できないんだよね……。
俺たちは、クワのお化けがクワの付喪神だったことを村長に説明し、お化け騒動を解決した。
そして、村を後にした。
シャインは、愛馬ビューティフォーに乗って先導しているので、馬車には俺とニアとクワちゃんと『マスカッツ』の女性たちが乗っている。
「思うんだけどさ、サンディーちゃんとクワちゃんって、相性がいいと思うんだよね」
ニアが、突然そんな話をしだした。
ニアも、俺と同じことを感じていたらしい。
「ほんとっすか!? 嬉しいっす!」
「ほほほほ、ワシも嬉しいのう」
「サンディーちゃんは、やっぱりシャインのところにいないと、まずいわけ?」
ニアが訊いた。
「そうっすね。私も含め『マスカッツ』のみんなは、シャイン様に恩義がありますから……」
サンディーさんは、苦笑いを浮かべながら答えた。
「そうか、やっぱ……みんなシャインのことが好きなの? ……男性として好きだったりするわけ?」
ニアが、微妙な顔をしながら尋ねた。
「いや、それはないっす! 恩義があるから、取り巻きやってるっすけど、はっきり言ってナルシストすぎて気持ち悪いっすから。男としては、見れないっすね。みんなでいつも言ってるっすよ。男としては、“無い”って……」
サンディーさんが、さばけた感じで言い切った。
そして、同意するように『マスカッツ』の他のメンバーが、ものすごい勢いで首肯している。
この感じからして……取り巻き美女集団『マスカッツ』の中には、シャインを男性として見ている人はいないようだ。
恩義のある主人ということなのだろう。
六人の女性のうち四人は、奴隷だったところを購入するかたちで保護されたということだった。
サンディーさんともう一人の女性は、親を失い住むところがなくて困っていたところを、シャインが助けてくれたのだそうだ。
二人ともホームレスだったらしい。
「じゃぁさぁ、みんなはこれからもずっとシャインの取り巻きをしているわけ?」
ニアが首を傾げながら問いかけた。
「そうっすね。この四人はシャイン様の奴隷になってますし、私ら二人もシャイン様に拾ってもらえなかったら、ホームレスのままっすからね。取り巻いてるしかないっす」
サンディーちゃんが、淡々と答えた。
「なんじゃい、取り巻きがしたくてやってるんじゃないなら、やめた方がいいぞい! いくら恩義があるからって、やりたくないことを続ける必要はないのじゃ!」
クワちゃんが、話に入ってきた。
「でも実際、お世話になった恩義があるんで、裏切れないっす。シャイン様は、気持ち悪いっすけど、いい人だし。なんか私らが取り巻いていることで美しさが増して、世の中を照らしてるって、本気で思ってるぽいっす……」
サンディーさんが、複雑な表情だ。
「困ったもんじゃ……今代のマスカットは……。取り巻きなど作らなくても、美しさを出せるということを、ワシが教え込んでやろう。こんな美人さんたちを、あのバカタレのために取り巻かせるなんて、もったいないのじゃ! 人材の無駄遣いじゃな」
クワちゃんが、少し憤っている。
「ほんとそうよね。クワちゃんからも、ガツンと言っちゃって!」
ニアが、嬉しそうだ。
「おお、任せておくのじゃ! ところで『マスカッツ』のみんなは、何かやりたい事はないのかえ?」
クワちゃんは、『マスカッツ』の女性たちの話を聞きだした。
なにか……人生相談的な感じになってきた……。
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