763.過去の縁が結ぶ、出会い。
昔話に出てくるクワの付喪神クワちゃんの口から、ニアのひいお婆さんのティタさんの名前が出て、ニアはかなり驚いている。
「そうかい、やっぱりティタちゃんの子孫かい。確かに面影があるのう」
クワちゃんが、懐かしむような口調で言った。
「やっぱり、知ってるってこと?」
「知ってるも何も、友達だったのだよ! 六百年くらい前の話だがの」
「ほんとに!? そんな話、全然教えてくれなかった。でも最初に、クワの付喪神の昔話をしてくれたのは、ティタおばあちゃんだったんだけどね。……そういうことだったのか……」
ニアは驚きつつも、何か納得がいったかのように頷いている。
今の話からして、約六百年前、初代ピグシード辺境伯と『コウリュウド王国』で活動していたニアのひいお婆さんのティタさんは、クワちゃんと友達になっていたらしい。
ティタさんは、ニアに昔話としてクワの付喪神の話をしてくれたらしいが、自分と知り合いだったということは内緒にしていたようだ。
「いやいや、これは愉快! 久しぶりに目覚めて、活動を始めた途端、ティタちゃんの子孫に会えるとは。これはやはり運命かの……。激動の時代に入っているのは、ワシにもわかる。よかろう、精霊たちの導きに従おうではないか! ニアちゃんにワシの力を貸そうではないか!」
「ほんと! 嬉しい! 仲間になってくれるのね! クワちゃん、ありがとう!」
「そうじゃよ! ワシにできる事は、力を貸すぞよ。ワシがいればなぁ、どんな野菜や果物でも大豊作になるのじゃ。最高の土作りができるからの! ワシが耕した地は、活性化し、癒しの波動が満ちる『
クワちゃんが、そう言いながら空中で左右に動いた。
なんか、すごい力を持っているらしい。
レベル52っていうのも、すごい。
「ありがとう。クワちゃんて、すごいのね! なんか楽しくなりそう! ところで、久しぶりに目覚めたって言ってたけど、今までは寝てたの?」
「そうじゃよ。我々付喪神はなぁ、時々休眠というか……ただの道具に戻って寝ている場合があるのじゃ。数日のこともあれば、数百年のこともあるのじゃよ。道具自体が壊される危険にさらされた時や、何かの働き……主には精霊たちの働きかけで、目覚めることが多いのじゃ。ワシも何十年か寝ておったのじゃが、精霊たちの働きかけで目覚めたのじゃ」
「じゃぁ、ほんとについ最近目覚めたの?」
「そうなのじゃ、目覚めて何をしようかと思って、まずは懐かしい場所を訪ねることにしたのじゃ。それでここに来たのじゃ」
「じゃぁ、ずっとここにいたんじゃなくて、ここに旅してきたってこと?」
「そうなのじゃ。まぁ旅といっても、ここから南西にある湖の近くの森の洞窟から来ただけだから、たいした距離じゃないけどのう。その洞窟で寝とったのじゃ」
「ここが懐かしい場所ってことは、前にここにいたってこと?」
「そうじゃよ。ワシが元々いたのは、あの城壁の内側にあった村じゃ。今じゃあの中には、もう村は無いけどの。大昔の話だよ。しばらくずっと放浪してたからのう。ここに帰ってくるのは数百年ぶりじゃな」
「へぇ、でもなんで急に戻って来ようと思ったの?」
「そうじゃのう……久しぶりに目覚めて、どうしようかと思った時に、ここで出会った貴族の若者の事を思い出したのじゃ。それで来てみようと思ったのじゃよ。その貴族の若者は、熱心な農家でもあってな、貴族でありながら畑仕事が好きな奴で、面白い奴じゃった。ワシはそいつが気に入って、いろいろ力になってやったのじゃ。ワシのお陰で、手柄を立てて爵位を上げて子爵になっていたのう。其奴の家門は無事に残っておるかのう……? なくなっていなければ良いのじゃがのう……」
「じゃぁさぁ、元々はこの『領都セイバーン』にいたの?」
「まぁ、そうじゃな」
「ねぇ、その世話した子爵家って、もしかしてマスカット家だったりする?」
「おお、そうじゃ! その名前じゃった! まだあるのか?」
クワちゃんは驚いているが、少し嬉しそうなトーンになっている。
「ええ、今結構大変な状態だけど、なんとか残ってるわよ」
「そうか! それは楽しみじゃのう! あやつの子孫に会えるかもしれんのう」
「ちょうど今一緒に来てるから、会いに行きましょ!」
「おお、そうかい! それは楽しみだのう」
「ただ……自分が大好きなナルシストで、気持ち悪いから注意してね」
ニアは、渋い顔で言った。
「ほほほほ、それは面白いの! ワシが世話した奴も、真面目で一生懸命畑仕事をしておったが、水面に映る自分の顔を見てうっとりする気持ち悪い奴でもあったのじゃ。遺伝してしまったのかのう……」
クワちゃんが、感慨深そうに言った。
てか……シャインさんのナルシストって……実は遺伝だったりするのか……?
ナルシストの遺伝って何よ!
ニアがクワちゃんを連れて、俺たちのところに戻って来た。
「友達になったクワの付喪神、クワちゃんよ」
ニアが俺たちに、クワちゃんを紹介してくれた。
村の広場に出ているのは、俺とシャインと『マスカッツ』の娘たちだけだ。
シャインは動じていないが、『マスカッツ』の娘たちは驚いている。
「はじめまして、私はグリムと申します。よろしくお願いします」
俺は頭を下げた。
「ほほう……そなた……ただものではないのう……。強き者よ、今代の渦の中心は、そなたなのじゃな……。ワシもただの付喪神とはいえ、長年生きておるからそのぐらいのことはわかる。そしてこの出会いが必然であることもな。よかろう、力を貸そうではないか!」
クワちゃんは、笑いながら俺の前に来て止まった。
「ありがとうございます。私の仲間になってくれるということでしょうか?」
「そういうことじゃ。よろしくなグリム。ワシのことは、クワちゃんでいいからのう」
「ありがとうございます。クワちゃん、今後ともよろしくお願いします」
「実に面白い! そしてたぶん……美しい……。私はシャイン=マスカット子爵と申します。美しくしき付喪神様にお会いできて光栄です」
シャインさんが髪をかき上げながら、爽やかに挨拶した。
「ほほほほ、お前がマスカット家の子孫かい? 何となく面影があるのう。ワシはその昔、お前の先祖を世話したことがあるのじゃ。伝え聞いておらぬのか?」
クワちゃんは、シャインの前に移動して、少し空中で揺れている。
「記録があるかもしれませんが、私は存じておりません。でもいいのです。大切なのは、過去よりも未来……なにより、今この時です! 共に、新たな美しき伝説を作りましょう!」
相変わらずシャインは、わけのわからないこと言っている。
しかもそう言いながら、クワちゃんの柄の部分をスリスリした。
「おいコラ! 勝手に触るでない! しかもスリスリしおって、気持ち悪いではないか! まったく今代のマスカットも相当イカれておるわ。言っておくがのう、ワシを触っていいのは、本気で農業に取り組もうという心意気がある者か、可愛い子ちゃんだけなのじゃ! わかったか!?」
クワちゃんが、シャインに軽くキレた。
「なるほど、そういう縛りを自分にかけているのですね。それでも私は美しいですよ?」
シャインは、そんなわけのわからない答えを返した。
完全に噛み合っていない……。
「美しくてもな、可愛い子ちゃんじゃないからダメなのじゃ!」
「仕方ありませんね……それでは、せめて私の美しさで、あなたを照らしましょう!」
「わかったわ、もういいわ! 好きにせい。今代も、相当に面倒くさい奴じゃのう」
クワちゃんが諦め気味に言った。
早くも……まともに絡んでも無駄だと理解したようだ。
シャインは、全くめげることなく満面の笑みだ……。
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