756.マスカット家の、立て直し策。

 俺は、『なんでも買取センター』の構想を説明したが、皆大きく頷いて聞いてくれていて、反応はかなりいい。


 ただ実際はあくまで構想段階であって、買取センターを運営できる能力を持った人材を確保できないと、構想は実現できないと付け加えた。


 商品を買い取る為の目利きができて、交渉ができて、荒くれ者が来ても対応ができるという人材じゃないと、実際の運営はできないと思うんだよね。


 そういう人材となると……『アメイジングシルキー』のサーヤとか、他の幹部メンバークラスになっちゃうんだよね。

 でもそういうメンバーはみんな忙しいので、『なんでも買取センター』に常駐するというわけにはいかないと思う。


 そんな感じで、問題点も付け加えて話を終了した。 


「しかしまぁ……驚いたね。あんたは、やっぱりすごいね。あのシャインの惨状から、こんな素晴らしいアイデアを思いついて帰ってくるんだからねぇ……。確かに、シャインが物を売りつけられていたことは、その人の生活を助けてたって見ることもできるわけだね。そしてシャインが言ってる通り、仕入れにしてしまおうと考えたわけか……。それで処分したい物を買い取る場所を作るなんて、あんたにしかできない発想だよ」


 ユーフェミア公爵が褒めてくれた。

 ちょっと嬉しい!


「確かにね……言われてみたら、そういう事業はアリだね。需要はあるだろう。中途半端に売れ残った物を買い取ってくれるところがあったら、助かるよね。たとえ低い買取金額だったとしても、お金になるんだからね。下手したら捨てなきゃならない物をお金にできるんだ、助かる人が大勢いるね」


 マリナ騎士団長も、感心するように頷いてくれた。


「貧しい人々や力のない商人を、助けることになりますわね。ほんとにグリムさんは素晴らしいわね。王都でもおそらく需要がありますよ。ただやはり、人材が一番の問題ね……」


 王妃殿下も評価してくれた。


「何をやるにしても人材だからねぇ……。全てを求めるのは大変だから、人材を分けて考えたらどうだい? 目利きができる者、交渉ができる者、無頼の輩を組み伏せられる者……三人に分ければ、人材が確保しやすくなると思うけどね。少なくとも交渉ができる者とゴロツキを倒せる者は、採用したり育成したりしやすいだろう。一番の問題は目利きできる者だろうね。目利きのできる者を大々的に募集したらどうだい? 理想的なのは……大きな商会で仕入れ担当をしていた者とかだね……。引退した者でもいいだろうし、現役の者でも好条件で募集すれば応募してくるかもしれないよ」


 マリナ騎士団長が、そんな提案をしてくれた。


 言われてみたら……そうかもしれない。

 さすがマリナ騎士団長。

 三人に分けて考えれば、それほど難しくない気がしてきた。


 そして一番の問題が、目利きできる人材だと改めて明確になった。

 どこかの商会から引き抜いてくるようなことは、波風が立つからやりたくない。

 だが、募集を大々的にかけて、転職希望者が面接に来るのは問題ないよね。


 うん、その方法でやってみよう!


 やはり相談してよかった。


 俺が、「その方向で考えてみます」とにこやかに返事をしたら、なぜかマリア騎士団長は俺にウィンクをした。

 もちろん冗談半分で悪戯っぽくやったわけだが……なぜか少しドキッとしてしまった。

 やはり……これもファーストキスを奪われた影響だろうか……。


 てか……前にミリアさん達にウィンクをされて、びっくりしたが、元祖はマリナ騎士団長だったのかな……?

 親子代々ウィンクを受け継いでいるのだろうか……?

 まぁそんなことはどうでもいいが……。



 俺は、シャイン=マスカット氏の話が出たついでに、マスカット家が所有する農園で、代々改良を重ね美味しいブドウができていたという話もした。


『シャインズマスカット』を貰ってきていたので、『美しき食べる宝石』というキャッチフレーズを披露しつつ、実際みんなに食べてもらった。


 もちろん大絶賛だった。


 そして俺が頼む前から、王妃殿下は「貴族たちが絶対買いますわ。私が窓口になって注文を取りますから!」とノリノリで言ってくれたのだ。

 頼もうと思っていたので、願ったり叶ったりだった。


 俺は、マスカット家の状態を簡単に説明して、その立て直し策についても話した。

 ユーフェミア公爵に個別に報告しようと思ったのだが、公爵の方からこの場で報告してほしいと頼まれたのだ。

 マスカット家の個別情報でもあるので微妙な気がしたが、ユーフェミア公爵がシャインはそんなこと気にしないし、最近じゃほとんどの貴族が知ってるから気にする必要は無いと笑いながら言われたので、それに従った。


 そして、立て直し策は、皆さんの評価を得ることができた。


 俺が説明した立て直し策は……

 ○『シャインズマスカット』を大々的に栽培し高級フルーツとして販売する。

 ○栽培面積を増やすために、マスカット家の農場の栽培面積を最大まで増やすことと、『フェアリー商会』と合同で大農園を作る。

 ○この農園は、俺が報酬としてもらった領都郊外の大きな草原に作る。

 ○今回だけ特別に妖精女神の使徒の力を借りて、成木の状態で増やすので、すぐに生産量が増やせる。

 ○販売は基本的には『フェアリー商会』が担当する。『領都セイバーン』のみマスカット家の『ふさなり商会』で行う。

 ○シャインさんがものを売りつけられないようにする為に、彼の動き方、動線を変える。

 そのために店舗を『下級エリア』から『上級エリア』に移す。

 高級品のフルーツ販売という観点からも、『上級エリア』で販売した方が良い。

 ○念のため取り巻き集団『マスカッツ』の赤髪の美少女サンディーさんが仕入れ担当者となり、シャインさんが直接売り付けに来る人と話さないようにする。


 ……という内容だ。


 意図せず……半分ぐらいはシャインさんをディスったような内容になってしまったが……。


 一応……“シャインさんは、本当はいい奴だ”みたいなフォローを入れておいた。

 そして友達になったという発言をしたら……セイバーン家の三姉妹シャリアさん、ユリアさん、ミリアさんがびっくりした顔をしていた。

 そしてユーフェミア公爵は、豪快に笑った。


「なるほど、すごいね。いや……私が話を振っておいて悪いけど、あいつの家を立て直すのは、至難の業だと思ってたさね。さすがのあんたでも、すぐには難しいと思ってたんだが、さすがだよ。シャインを変えることを諦めて、あいつの動き方、動線を変えるっていうのは、正直感動したさね。そして、このブドウは本当に素晴らしいよ。グリムを行かせてなかったら、マスカット家ではこのブドウをまさに宝の持ち腐れ状態にしていただろうね。それに、あんたに与えた領都郊外の草原が早速役立ったのも嬉しいしね」


 ユーフェミア公爵は、かなり上機嫌で饒舌に語っていた。

 心配していた名門貴族マスカット家が何とかなりそうになったというのも、かなり嬉しいのだろう。

 俺もユーフェミア公爵に喜んでもらえて、本当に嬉しい。


 それにしてもブドウが美味しかったらしく、貰ってきた分が全部なくなってしまった。


 そして、俺の話が面白かったのか、シャイン=マスカット氏に会ってみたいと何人かが言っていた。

 それを、セイバーン家の三姉妹が、必死に「実際会ったらゲンナリするし、面倒くさいからやめた方がいい」と力説して、諦めさせていた。


 でもその必死な様子が、さらに面白かったのか、みんな笑っていたけどね。


「人間のマスカット氏は、すごいナルシストでほんとに気持ち悪いのです! でも楽しく生きていて、周りの人たちを幸せにしているから、ミネは認めたのです! でも会う事はお勧めしないのです!」


 『ドワーフ』のミネちゃんもそんなふうに言って、みんなの笑いを誘っていた。


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