755.買取センターの、構想。

『フェアリー商会』の新しい事業についての打ち合わせの最後は、装飾品の製造販売事業だ。


 三十七番目の事業で、『装飾品製造販売事業本部』となる。


 指輪やブレスレットなどのジュエリーやアクセサリーを作る部門だ。


 実はこれも前から考えていたことではあるのだ。


 『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんが、石を加工する魔法道具を作ってくれたこともあって、本格的に作り出そうという気になったのだ。


 そして、見た目は四歳児中身は三十五歳のハナシルリちゃんの強い要望でもあった。


「ジュエリーデザインとかやってみたかったのよね」と能天気に言いつつ、この部門を立ち上げようと駄々をこねるように言ってきたのだ。


 この事業は、ここにいるほとんどの人にとって何の前触れもなく提案したかたちになったが……女性陣がざわめき立った。

 やはりみんな宝石類が好きらしい。


 みんな期待を込めた目で俺を見ていた。


 ただ俺としては、貴族や豪商の娘さんたちなど裕福な人たちに向けての商品だけじゃなく、一般の人たちが街の露店で買えるような商品も作ろうと思っている。

 安くても綺麗で、自分を着飾って気持ちが高まるようなものを販売するつもりだ。


 現状でも、屋台では安価な装飾品が販売されている。

 それなりには流通しているが、種類は全然少ないのだ。


 まずは、安価な装飾品から『フェアリー商会』で、作れるようにしていこうと思っている。

『アクセサリー工房』を作るつもりだ。

 ただ今のところ、装飾品作りの親方になりそうな人材はいないんだけどね。


 当面、俺やハナシルリちゃんが時間があるときに趣味的に作ればいいと思っている。

 安価なものも高価なものも、少しずつなら作れるだろう。

 焦って商品数を増やす必要はないから、その程度で充分だと思う。


 ある程度商品数ができてから、お店の出店を考えるつもりだ。

 人口が多いところにだけ出店すればいいと思っている。

 ただ安価な装飾品については、各市町で屋台で販売して、一般庶民が買えるような状況を作りたいとも思っている。



 それから、俺はもう一つ思いついたアイデアで、『買取センター』のアイデアも披露した。


 これを思いついた経緯として、あのナルシスト全開の能天気貴族のシャイン=マスカット氏の話もした。

 みんな大爆笑だった。


 でも実態を知っているユーフェミア公爵やシャリアさんたち三姉妹からは、微妙な顔をされた。


「グリムさんは、話すのが上手だから面白く話してくださってますが、本当はかなり気持ち悪いですよ」


 シャリアさんが、ちょっと呆れた顔でそう言った。

 てか……毒舌だ。

 シャリアさんが毒舌なんて……。

 ある意味新鮮で………ある意味ドキッとしてしまったが……。


 そして妹たちのユリアさん、ミリアさんも強く同意するように、首を縦に振っている。


 この三姉妹の様子が面白かったのか、他の皆さんは更に笑っていた。


 確かに、つい面白おかしく話してしまったが、実際彼を見たらみんなドン引きだとは思うんだよね。

 あの可愛い『ドワーフ』のミネちゃんですら、彼を認めつつも猛烈にディスっていたからね。


 シャインさんのキャラが強すぎて、それが本題のようになってしまったが、俺は本題の買取センターの話に戻した。

 シャインさんが、売りつけに来た人たちから買ってあげていた行為は、ある意味その人たちの生活を助けていたし、助かっている人は何人もいたという話をした。

 そして、そこから売れ残りなどを買い取ってあげる買取センターというものを思いついたと説明した。

『何でも買取センター』という名前にして、買取の受付所を作るという構想を話した。

 不良在庫、売れ残り、訳あり品の買取窓口というイメージだが、将来的にはもしかしたら不用品を買い取るリサイクルショップみたいな感じにもなるかもしれない。


 シャインさんが言っていたように、それこそ本当の仕入れ窓口というかたちにし、適正な値段で買い取って、販売できるようにしようと思っている。


 俺はこの事業を……引き継ぐことになった『マットウ商会』でやるつもりだと話した。


 もちろん、『フェアリー商会』でやっても良いのだが、『マットウ商会』の名前でやることによって、持ち込まれるものの中に、盗難品や怪しい品も混じってくる可能性があると考えたのだ。

『マットウ商会』と悪いつながりがある者たちや、よくない評判を聞いた者たちが何かを売りに来る可能性があるからね。

 それをうまく利用して、摘発したり、悪事の情報を掴んだりできる可能性もある。

 また奴隷を売りに来る可能性もあるので、保護することもできるかもしれない。


 そういうことを考えると、『セイバーン公爵領特別御用商会』の証書を持つクリーンな『フェアリー商会』ではなく、グレーな……実質はブラックだったが……『マットウ商会』でやった方が良いと考えたのだ。


 そして『マットウ商会』では、『なんでも買取センター』で仕入れたものを販売しようと思っている。

 もっとも、基本の取り扱い品目は、食料品とその周辺雑貨に絞ろうと思っているけどね。

『なんでも買取センター』に持ち込まれるものは、生鮮品の割合が多いと思うし。


『マットウ商会』の店舗で販売しない買取品については、『フェアリー商会』に流すかたちにしようと思っている。


 そして、『なんでも買取センター』に野菜や摘んだ花を売りに来る貧しい子供たちや貧しい人たちについては、仕事を紹介してあげれるようにしたいと思っている。

 摘んできたお花を毎回買ってあげれば良いようにも思うが、そうしてあげたとしても生活が楽になるわけではないと思うんだよね。


 一番いいのは、子供たちにもできそうな仕事を考えて、雇ってあげることだよね。

 家庭環境によって、就職できない場合でも、せめて日雇いで……日払いでお金を払ってあげるような仕事が作れればいいんだけどね。


 ただ本当の抜本的な対策は、子供たちに仕事を作ってあげることよりも、その親がしっかり働ける状況を作ることだろうけどね。

 もっともそこは……各家庭によって色んな事情があるだろうし……一律に対処するのは難しいと思うんだよね。

 前にも思ったが、親を亡くした子供たちは保護すればいいけど、親がいるのに酷い環境にいる子供たちを助けるのは、複雑で難しい問題があるんだよね。

 酷い親から引き離した方がいい場合もあるだろうし、多少酷い親でも一緒にいた方がいい場合もあるだろうし、線引きが難しいのだ。

 今のところは、縁があって目の前に現れたそういう状況の子供たちに対して、個別に対応するしかないと思っている。



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