754.おじさんも、『ぬいぐるみ』がほしいわけ?

 三十六番目の事業として、『造形事業本部』を作ることにした。


 『ぬいぐるみ』や『フィギュア』や『おもちゃ』などを作る部門だ。

 この事業部門の中に、『ぬいぐるみ工房』『フィギュア工房』『おもちゃ工房』を作って、職人を養成して行こうと思っている。

 実際は無理に職人を育てなくても、俺や仲間たち……特にハナシルリちゃんで制作は事足りる気もしている。

 ハナシルリちゃんは、『ぬいぐるみ』作りをやりたいと言って張り切っていたからね。


 ただ、事業部門として作る以上、俺たちがいなくても事業が回るようにしておく必要があるから、一応職人を育てようと思っている。

 当然この世界には、『ぬいぐるみ』職人という人はいないわけだけど、『裁縫』スキルを持っている人なら、スキルの力で『ぬいぐるみ』が作れちゃうと思う。

 実際、俺が『ぬいぐるみ』を作れたのも『裁縫』スキルの補正のお陰だからね。


 そういう意味では、『フィギュア』の製造は、実際はかなり難しいんだよね。

 そういう技能の補正がかかるようなスキルを持っていないからね。

 木や骨を使った簡単な人形のようなものは作れると思うが、俺が好きなリアルの造形美の『フィギュア』は、現時点では作れそうにない。

 今度は、『彫刻』スキルとか……何か……リアルな『フィギュア』が作れそうなスキルを探してみるしかない。


 『おもちゃ』については、いろんなものが考えられる。

 一応、『おもちゃ工房』として独自の工房を作ろうと思っているが、木の『おもちゃ』などはピグシード辺境伯領『マグネの街』の『家具工房』で作ってもらっていいと思っている。

 ただ、シンプルな『おもちゃ』の中で、木の『おもちゃ』以外のものが、今のところ思い浮かばないから、当面は『おもちゃ工房』を作らないで、『家具工房』の職人見習いの子たちに作ってもらえばいいかもしれない。



 そして、ここでもわがままをいう男が二人……そう……国王陛下とビャクライン公爵だ。


 てか……なんでそう毎回絡んでくるわけ……?

 もう飽きてきたんですけど!


「シンオベロン卿、『従者獣』たちの三体の『ぬいぐるみ』は、素晴らしい。……人々の心を豊かにするものだ。国の王として……しばらく手元に置いて、心がどう豊かになっていくのか確認する必要があるのだよ……」


「私も四公爵家の一つ『武のビャクライン』として『従者獣』を模した『ぬいぐるみ』を確保し、様子を確認せねばなるまい……」


 国王陛下とビャクライン公爵が、そんなことを言った。

 何を言っているのかよくわからないが……要は自分たちも『ぬいぐるみ』が欲しいってことでしょ?

 国王陛下の言ってることは、まだわからなくもないが……ビャクライン公爵は何を言っちゃってるわけ?

『ぬいぐるみ』をもらうのに『武のビャクライン』は関係ないし!

 様子を確認する必要もないと思うけど……別に暴れ出さないし!

 わけわからん!


 子供たちには、全員に『従者獣』三体のセットをプレゼントしてあるが、大人メンバーにはあげていなかった。

 大人女子メンバーは欲しいと言うかもと思っていたが……まさか溺愛オヤジコンビが欲しいと言うとは……。


 まぁわからなくもないけどね。

 おじさんでも、『ぬいぐるみ』が好きなおじさんはいるし。

 実際俺も『ぬいぐるみ』が好きだからね。

 特に珍しい動物の『ぬいぐるみ』が好きだったなぁ……ウツボの『ぬいぐるみ』とか……。


 しょうがないので、大人の皆さんにもプレゼントすることにした。

 そう言うと、皆手を叩いて喜んでくれた。

 実はみんな欲しかったらしい……。

 まぁかわいいからね。


 溺愛オヤジコンビは、他のみんなからしたら、結果的に良い仕事をしたことになったようだ……。


 みんなほんとに『ぬいぐるみ』を気に入ってくれたみたいだ。

 そんな『ぬいぐるみ』の高評価がうれしくなって、俺は思わず……『ぬいぐるみ』第二号をお披露目してしまった。


 実はこれは、販売用に作ったものではない。

 そして出した瞬間、みんなから歓声が上がったほどタイムリーなものなのだ。


 俺が作った二種類目の『ぬいぐるみ』は……カタツムリ型虫馬『デンデン』のデンコなのだ!

 昨日の『闇オークション』で落札して保護してきた珍しい白い『デンデン』だ。


 実は、昨夜急遽作ったのだ。

 なぜ作ったかというと……ハナシルリちゃんから頼まれた“あるもの”を作るために、必要だったからだ。


 ハナシルリちゃんから頼まれた“あるもの”とは……『デンデン』に騎乗する為の鞍だ。

『デンデン』に乗れるように鞍みたいなものを作ってほしいと頼まれたのだ。


 『デンデン』は荷引き動物で、馬車を引くのが一般的で、直接騎乗することはほとんどないのだそうだ。

 というのもカタツムリの殻があるので、他の虫馬のように直接乗るのが難しいからだ。


 それでもハナシルリちゃんは乗りたかったらしく、俺に頼んできたというわけだ。


 『デンデン』に合った面白い鞍を作ろうと考えて、アイデアを出すために『デンデン』の実物見本が欲しくなり、軽いノリで『ぬいぐるみ』を作ったのだ。

 最初はざっくり作ろうと思ったのだが、作り出したら面白くなっちゃって、ちゃんとした白くて綺麗な可愛い『ぬいぐるみ』に仕上げてしまった。


 それを出したもんだから……もう全員がすごい食いつきだ。


 ハナシルリちゃんなんか、すごいんですけど……。


「グリムにぃに、ハナのために作ってくれてありがとう。大好き」


 そう言って、俺に抱きついてきた。


 この人……謀ったな……。

 念話でお礼を言えばいいものを……わざわざ抱きついてくるなんて……。


 当然のごとく……さっきまで遊んで欲しそうな犬の顔していた溺愛オヤジビャクライン公爵は、一転して俺に殺気を放っているじゃないか!

 そして、俺に好意的になってきていたシスコン三兄弟も、同様に俺に殺気を放っている……。


 ハナシルリちゃん……絶対これ楽しんでるよね……?

 まぁいいけどさ。


「いや……実は、ハナシルリちゃんが『デンデン』に安全に乗れるような鞍を考えていて、そのアイデアを出すための見本として作ったんですよ……」


 俺はそう説明し、販売用に作ったわけではないと話したのだが……


 当然のごとく……この『ぬいぐるみ』を増産して……全員にプレゼントする羽目になった。

 まぁしょうがないよね……見せた俺が悪いから……。

『ぬいぐるみ』が好評だったので、つい見せたくなったんだよね。

 我ながら、いい出来だったし。


「グリムさん、この『デンデン』の『ぬいぐるみ』は、少なくともビャクライン公爵領では、かなり売れるようになると思いますよ。これからハナシルリや私が出かける時は、この子に馬車を引いてもらおうと思っていますから。かなり目立つので、領民の間で有名になると思うんですよ」


 アナレオナ夫人が、そうアドバイスしてくれた。


 確かにビャクライン公爵領だったら、公爵家の天才少女ハナシルリちゃんの虫馬ということで、人気が出て『ぬいぐるみ』も売れそうだ。


 他の所でも、普通に虫馬の『ぬいぐるみ』としては、売れるだろう。

 ハナシルリちゃんというネームバリューがなくても、見た目が可愛いから結構売れちゃうかもしれない。


 期せずして、『ぬいぐるみ』第二号は虫馬『デンデン』のデンコになった。

 俺はてっきり第二弾は、『化身獣』になるかと思っていたが……自分で作ったとは言え思わぬ展開になった。


 これをきっかけに思ったが、虫馬たちの『ぬいぐるみ』を作るのは面白いかもしれない。

 虫馬には、いろんな種類がいるから『虫馬シリーズ』という感じにできそうだ。


 そして虫馬の『ぬいぐるみ』に小さな人形とか、他の動物の『ぬいぐるみ』を乗せて遊んだら、楽しそうだ。


 『魚使い』ジョージの仲間の虫馬『サソリバギー』のスコピンの『ぬいぐるみ』を作ったら面白そうだ。

 背中に背負っているレーシングカーのコックピットのような独特な鞍も再現して、そこに人形が乗るようにするとか、陸ダコの霊獣『スピリット・グラウンドオクトパス』のオクティの『ぬいぐるみ』を作って乗せられるようにしたら、楽しく遊べそうだ。


 でもそんな話をしたら、オクティが期待しちゃうから、ほんとに実行するまで言うのはやめておくけどね。


 今度こっそり作って、こっそり遊んじゃおうかな……。

 出来が良かったら、みんなにお披露目して商品化してもいいだろう。




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