753.出版事業を、はじめよう!
次に、三十四番目の事業として、『航空事業本部』を作ることにしていたので、それについても話をした。
この事業は、飛竜船を使った航空輸送事業である。
以前ヘルシング伯爵領領主のエレナ伯爵から、飛竜船で各市町を結ぶ定期便の運行してくれないかと依頼されたことに始まっている。
ただ現時点では、定期運行は難しいので、個別に輸送の依頼を受けるチャーター便のかたちで事業を始めることにしていたのだ。
このチャーター便の運行について、実はユーフェミア公爵からも頼まれたのである。
それもあって、改めて事業本部として確立することにしたのだ。
まぁ事業本部といっても、当面はエレナ伯爵とかユーフェミア公爵とか、知り合いから依頼を受けるだけになると思うが。
今から八日後に行われる『領都セイバーン』での式典に、領内の各市町の守護を参加させるということで、飛竜船での送迎を依頼されたのだ。
飛竜船なら、移動時間を圧倒的に短縮できるからね。
ユーフェミア公爵には、転移の魔法道具も渡してあるので、転移の魔法道具で連れてくればいいんじゃないかとも思ったが……まだ全ての市町は登録していないらしい。
そしてユーフェミア公爵は、転移の魔法道具を使っての移動は、できるだけ緊急時に限定した方がいいと考えているようだ。
完全に隠す必要もないが、広く知られる必要もないという考えらしい。
この航空事業についても……またもや二人の男が食いついた。
もちろん、ナイスミドルな溺愛オヤジ国王陛下と脳筋溺愛オヤジビャクライン公爵の親友コンビだ。
てか……なんでそうすぐに食いつくのよ! 入れ食い状態か!
「エレナ伯爵が提案した市町を定期便で結ぶというのは、やはり大変なのかね?」
「もしそれができたら、かなり人の交流と物流が盛んになりますなぁ」
国王陛下とビャクライン公爵が、迫ってくるような迫力で俺に訊いた。
「はい。定期運行となると飛竜たちの数も必要ですし、添乗するスタッフの育成も必要です。人と物の流通を盛んにするために、飛竜船よりは時間がかかりますが、長距離乗合馬車事業に力を入れた方が着実だと考えているんです……」
俺は、そう答えた。
「そうか……まずは長距離乗合馬車を定着させるということだね。それでも十分に価値があるよ。今まで誰も考えもしなかったことだからね」
国王陛下が少し残念そうだったが、笑顔でそう言ってくれた。
「シンオベロン卿、やはり飛竜がいるだけでは飛竜船の運行は、難しいのかね? 凄腕のテイマーがいないと無理かい?」
ビャクライン公爵が、確認の意味も含めてだろうが、そう尋ねてきた。
「はい。飛竜の統率が取れないと最悪の場合、墜落してしまいます。かなり難しいと思います」
俺は、そう答えた。
飛竜たちは皆『絆』メンバーになっているので意思疎通が図れるけど、そういう状態でもなければ難しいと思うんだよね。
だから、俺たち以外が運行するのは、事実上不可能だと思う。
「なるほど事実上、『フェアリー商会』にしかできない事業ということなのだねぇ……。まぁ、飛竜自体が貴重な存在だからね……」
ビャクライン公爵もトーンダウンした。
二人とも、おあずけをくらった子供みたいに、テンションが下がっている……子供か!
「それでも、個別に依頼をかけることができるのは助かるよ。王家としても、今後依頼することがあると思う。その時は頼むよ」
国王陛下にそう声をかけられ、俺は首肯した。
「確かに……必要な時に頼めるだけでもありがたいからね。あと……できればビャクライン公爵領でも、長距離乗合馬車事業を早めに初めてもらえると、助かるよ……」
ビャクライン公爵は、そう言って、長距離乗合馬車事業を始めるようにお願いしてきた。
俺は、努力しますとだけ答えておいた。
三十五番目の事業として、先ほど話した『紙芝居』を作ったり、『絵本』を作ったり、『ブロマイド』を作る事業部門を作ることにした。
『出版事業本部』である。
『フェアリー出版』というブランドにしようと思っている。
俺は改めて確認したが、この国というかこの世界では、印刷の技術はほとんど普及していないようだ。
識字率の問題もあり、印刷物に関しては収益が上がる事業という認識はされていないらしい。
どの商会も、手を出したがらないのだそうだ。
国王陛下の話によると、活版印刷のような技術自体はあるみたいだが、書物の印刷物を作ることに力を入れている商会もないし、国としても今のところは印刷物を大量に作る事は考えていないそうだ。
告知板に張り出す御触書などは、多くても数十枚程度なので、文官が書き写したほうが早いということになっているらしい。
今のところは、そういうやり方で事足りているということのようだ。
印刷技術が普及しない……商売として成り立たないと考えられているのは、やはり識字率の問題だろう。
できれば将来的に、この『出版事業本部』で活版印刷を行って、多くの書物を作りたいという話もした。
「それはいいねぇ。あんたたちは識字率を上げるために、子供たちに文字を教えたり、街の人たちに無料で読み書きを教える『ぽかぽか塾』をやってくれているからね。何年か後には、読み書きができる人が、格段に増えているかもしれないしね。印刷物を作る事業に力を入れてくれるのは、我々としても助かるよ。他の商会じゃ、頼んでもやってくれないだろうからね」
ユーフェミア公爵がそう言って、ニヤリと微笑んだ。
国王陛下も同様に、期待していると言ってくれた。
そして王立研究所に命じて、印刷に関する技術情報を提供するように指示してくれるとも言ってくれた。
ハナシルリちゃんからは、また念話が入って、将来的には新聞みたいなものを作ってもいいんじゃないかと提案された。
確かに、将来的にはありかもしれない。
まぁその前に、号外の発行みたいなところからだろうけどね。
そう言われて思ったが……国として広報のようなものを発行したらいいんじゃないだろうか。
識字率の問題はあるにしても、貴族や上流階級には少なくとも書面で、情報を提供することができる。
活版印刷ができるようになって、大量に印刷物が作れるようになったら、国としても考えるかもしれない。
まぁその時に提案すればいいかな。
いずれにしろ、印刷物の普及は識字率の向上と密接に繋がっている。
識字率を上げるために、今やってる『ぽかぽか塾』での無料の教育のほかに、文字の読み書きができるようになる教材としての『絵本』や『紙芝居』を作ったらいいかもしれない。
楽しんでいるうちに、簡単な文字ぐらいは覚えてしまえるというものができれば、最高なんだよね。
架空のストーリーで……文字で戦う戦士のお話なんかを作ったらいいかもしれない。
剣という文字を書いたら、剣が現れるとか、火と書くと火が出るとか、そういう内容の『紙芝居』にすれば、簡単な文字は『紙芝居』に夢中になっているうちに覚えてしまうだろう。
そういうシリーズを作っても面白いかもしれないなぁ。
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