752.なぜかみんなで、新事業の打ち合わせ。

 『紙芝居』の二回目の上演が終わった後、俺は『絵本』を作るという構想と、屋台を改造した舞台を作っての『人形劇』というものを演じる構想についても話した。


 これは見本を用意することができなかったが、俺の説明で大体を理解してくれたようだ。


 そして、これについても面白いと評価をしてもらった。

 特に『人形劇』については人形で劇を演じるという発想が斬新だと評価してもらえた。


 この二つについても、随時進めていきたいと思っている。

 ただ『絵本』は、文字を読めなければ読むことができないし、『人形劇』は『紙芝居』に比べると行うのに人数が必要になり大変だ。


 だから当面は、あくまで『紙芝居』に力を入れるべきと考えている。

『人形劇』は『紙芝居』のオプションというか特別版という位置付けにし、『絵本』も子供たちに文字を覚えてもらうためのツールとしても役立つようなものを作っていこうと思っている。


 ちなみに『紙芝居』の収益方法は、吟遊詩人の弾き語りと同じように、集まった人たちからお金を投げ入れてもらう方式を考えている。

 本当は、『紙芝居』自体ではお金を取らないで、演じるときに関連するグッズを販売したり、飲み物やお菓子を販売することで収益を上げるというビジネスモデルにしたかった。


 ただ、吟遊詩人の活動と比べたときに、『紙芝居』とはいえ無料で演じると、既存の吟遊詩人たちの活動に悪影響を与える恐れがあると判断したのだ。


 それ故、かたちだけでも吟遊詩人と同じスタイルで、お金を投げ入れてもらう形式にしたのだ。

 実質的なビジネスモデルは、関連商品の販売や飲食物の販売で収益を上げるという方式にしようと思っている。

 俺が元いた世界では、紙芝居を上演するときに水飴を販売していたようで、紙芝居と言えば水飴と考える人が結構いた。

 俺は、実際に経験したわけではないが、なんとなく風情があるので、この際水飴も作ろうかと思っている。



 国王陛下をはじめとした皆さんから高評価を得たので、これらの企画を新しい事業部門を作って、具体的に進めていくという話をしたのだが……


 なぜか引き続き、『フェアリー商会』の新しい事業について、打ち合わせすることになってしまった……。


 国王陛下が……「ここでこのままやった方がいいんじゃないかい?」と言ったり、王妃殿下が……「そうね。楽しみだわ」とか言って圧をかけてきたし、マリナ騎士団長に至っては、「なんだい、ケチケチしなさんな。私たちも混ぜておくれよ。楽しいことはみんなでしなきゃ」という駄々をこねるようなことを言ってきたので、ここで打ち合わせをせざるをえなくなってしまったのだ。


 てか……もうこの人たち商会関係者状態なんですけど……。

 まぁいいけどさ。

 新事業について、様々な意見が聞ける機会として割り切ろう。



 まず最初に議題にしたのは、三十三番目の事業部門として本格的に立ち上げた『健康ランド・銭湯事業本部』についてだ。


 異世界に入浴文化を広めるという意義ある事業部門だ。

 入浴文化を広めるためには、できるだけ多く公衆浴場を作った方がいい。

 近くにないと、習慣にはならないだろうからね。

 だから市町に一つずつではなく、幾つも出店していく必要があるのだ。


 今は、順調に銭湯の数を増やしているところだ。

 お風呂に入るだけではなく、食事などもできるスーパー銭湯になっている。

 ピグシード辺境伯領、ヘルシング伯爵領、セイバーン公爵領の全市町に、数店ずつ整備していく予定になっているのだ。

 スーパー銭湯の名前は『銭湯 妖精の湯』になっている。


 今のところ……スーパー銭湯を超えた健康ランドのような大規模施設を作る予定はない。

 それよりも、できるだけ多くの人が利用しやすいように、数を増やして身近な存在にすることが優先なのだ。


 それから、もし温泉が湧いているような場所があれば、温泉旅館も作りたいと思っているが、今のところ各市町の中もしくはその近郊で温泉が湧いているという情報はない。

 もっとも、本気で源泉を探しているわけではないから、本気で探せば見つかる可能性はあるけどね。

『財宝発掘』スキルを使ってみてもいいかもしれない。


 ちなみにピグシード辺境伯領の『マグネの街』と『アルテミナ公国』を結ぶ不可侵領域の街道にある『ピア温泉郷 妖精旅館』は、妖精族が運営している癒しの宿ということになっているので、『フェアリー商会』の事業には入っていない。

 ただここにいる貴族の皆さんのほとんどは、一度招待しているので、実質は俺たちがやっているということは知っているのだ。


 話の流れの中で、当然温泉旅館の話にもなり……ここに猛烈に食いついてきた男が二人……そう……国王陛下とビャクライン公爵だ。


「シンオベロン卿、そこは国王として視察せざるを得ないなぁ。国民の娯楽を充実させるためにも、知っておく必要がある。訪れなければなるまい……」


「シンオベロン卿、ハナも温泉に入りたいと言っているよ。私も、陛下と一緒で視察する必要を感じている……」


 二人がそう言いながら、遊んで欲しい犬の表情になった……。

 またか……まぁいいけど。


「その話もユフィやシャリアたちから聞いてるよ。あんたまさか、私を招待しない気じゃないだろうね……? 何なら一緒に温泉に入ってもいいけど……ふふふ」


 マリナ騎士団長までそう言って、俺に詰め寄ってきた。

 そして……「一緒に入ってもいいけど」と言いながら、悪戯な笑みを浮かべるのはやめて欲しい……。

 異世界でのファーストキスを奪われたからか……ちょっとドキッとしちゃったじゃないか!

 なにこの美熟女爆弾……。


 ということで……突如、明日の夜みんなで温泉旅館に行くことになってしまった……。

 てか、そうしないと話が進まなくなっていたからね……。


 まぁ今日で『コロシアム村』の三日間の『大勝利祭』も終了だし、タイミングとしてはいいかもしれない。

 当然ながらビャクライン公爵一家の護衛の近衛兵十人と、『セイリュウ騎士団』も行くことになった。

 今までになく……男湯のむさ苦しさが急上昇しそうだ……トホホ。

 湯けむりの中で、筋肉ポーズで自慢し合う男たちの姿が思い浮かんでしまった……絶句……。


 それから見た目は四歳児中身は三十五歳のハナシルリちゃんが、念話してきていた。

『領都セイバーン』や王都など大きな都市では、健康ランドのような大型施設を作って、レジャースポットにするのもいいとアドバイスをしてくれたのだ。


 確かにそうかもしれない。

 充実した施設にしたら利用者も喜ぶだろう。

 商売的にも、かなり儲かりそうだ。


 人々に喜んでもらって、儲かるっていうのは、嬉しいことだし、楽しいことだ。

 改めてそう思う。


 今までの『フェアリー商会』は、どちらかと言うと雇用を創出するために無理矢理多角化して、手を広げてきたというのが実態だ。

 各事業は、初めから赤字を覚悟して始めたもの以外は黒字ではある。

 ただ人口が少なかったせいもあって、もの凄い黒字というわけではなかった。


 今回、『コロシアム村』の運営で、利用する人が多いと莫大な収益が出るということを再認識した。

 そして、正直、大儲けすると、やっぱり楽しい!


 人口の少ない市町での商売を軽んじるつもりはないが、人口が多い場所での商売は、上がる収益が大きくて、やっぱり面白さも感じてしまうんだよね。


 物が売れる喜び、買った人が喜んでくれる喜び、お金が儲かる喜び、事業が大きく成長する喜び……商売がうまく回ると、喜びが広がっていくんだよね。


 この純粋な喜びを忘れないように、今後も運営していこうと密かに心に誓ったのだった。




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