751.上演、大成功!
リリイとチャッピーが『ホムンクルス』の女の子ニコちゃんと、狼亜人の女の子セレンちゃんを伴って、ハナシルリちゃんのところにいるサーベルタイガーの子供を見に行った。
そのすぐ後に、今度は『真祖吸血鬼 ヴァンパイアオリジン』のカーミラさんがやってきた。
カーミラさんも、この『コロシアム村』に残って、フミナさんたちと一緒に休んでいたのだ。
たまたま外出していて、戻ってきたようだ。
「お帰りなさい。グリムさん」
「カーミラさん、ゆっくり休めていますか?」
「はい、ゆっくりさせてもらってます。あの……もう少ししたら、家に帰ろうかと思うんですが、一緒に行かれますか?」
「ぜひお願いします。いつ戻られますか?」
「そうですね……私はいつでもいいんですが……グリムさんさえよろしければ、明日にでも行こうかと……」
「そうですね。じゃぁ明日行きましょう」
ということで、カーミラさんの家である『マシマグナ第四帝国』の作った本格稼働迷宮の第一号迷宮『希望迷宮』に行くことにした。
始祖のドラキューレさんが、目覚めているかどうかはわからないけどね。
ドラキューレさんは、元『癒しの勇者』のヒナさんということなので、元『守りの勇者』であるフミナさんも一緒に行くことにした。
◇
さっき、リリイとチャッピーと『ホムンクルス』のニコちゃんと『狼亜人』のセレンちゃんが向かった、中庭を少し覗いてみた。
四人は、ハナシルリちゃんのところに『サーベルタイガー』の子供のミケを見に行ったのだ。
ミケを見終わったからか、今はハナシルリちゃんと一緒に遊んでいるようだ。
『サーベルタイガー』のミケは、シスコン三兄弟が面倒を見ている。
溺愛オヤジことビャクライン公爵もいる。
長男のイツガ君が抱いて、次男のソウガ君と三男のサンガ君が横から撫でている。
ビャクライン公爵は、見守りながらニヤニヤしている。
みんなミケの可愛さにやられてしまったようだ。
「父上、ミケを撫でていると……ふわふわした気持ちになります! もしかしたら……撫で続ければ、宙に浮けるかもしれません! そしてレベルも上がるかもしれません!」
「だったら、撫で続けます!」
「ぼくは、撫でる訓練をします!」
イツガ君、ソウガ君、サンガ君は、そう言って幸せそうな笑顔をビャクライン公爵に向けた。
三人とも幸せそうでいいんだけど……相変わらず……ズレてると思うんですけど……。
撫で続けても、浮かないし!
レベルも上がりませんから!
ずっと撫で続けたら、ミケが何もできなくて可哀想だから!
撫でる訓練したら、テイマーになっちゃうかもしれませんから!
まぁそれでもいいけどさ!
てか……そもそも撫でる訓練て何よ!?
ちょっと危ない感じがするから、やめてほしい。
いつも思うが、真面目に武術の訓練を積んでほしい……。
◇
俺は会議室に、国王陛下やユーフェミア公爵たちに集まってもらった。
まず最初に、今日から発売を開始した『精密画』を『ブロマイド』という名前で、定期的に発売していくという話をし、モデルにさせてもらう許可を願い出た。
みんな、即答で快諾してくれた。
ただ、交換条件というわけではないが、俺に『ブロマイド』とは別に、自分たちの肖像画を描いてほしいと頼まれてしまった。
『ブロマイド』のモデルの許可を願い出た以上、断ることなどできるはずもなく……すべて引き受けた。
順番は適当にとお茶を濁したのだが……なぜかみんなで話し合いが始まり、厳正なるジャンケンにより、ビャクライン公爵が一番となった。
てか……大人気なく全力でジャンケンするのはやめようよ!
ちなみにじゃんけんは……前はこの世界にないと思っていて、大森林の仲間たちに教えたりしていたのだが、人族にはじゃんけんという風習は一応あったらしい。
ただほとんど使う人がいないようだ。
今回はハナシルリちゃんが、鶴の一声を発したのだ。
「ジャンケンで決めた方がいいの」と提案をし、なぜか大人たちが賛同しジャンケン大会になってしまったのだ。
ビャクライン公爵のオーダーは、家族が揃っている肖像画ということだった。
いわゆる家族写真のようなものだね。
俺はその話を聞いて、正直ホッとした。
上半身裸になられて、筋肉全開の絵を描けと言われたらどうしようかとビビっていたのだ。
それだけは避けれて、本当によかった……。
次に俺は、『紙芝居』について説明し、今後人々の手近な娯楽として広めていきたいという話をした。
そして実際に理解してもらう為に、上演することにした。
もちろん演じるのは、『魔盾 千手盾』の付喪神フミナさんだ。
彼女がこの『紙芝居』を作ってくれたし、読み聞かせというか、読んで演じるのが得意なのだ。
————パチパチパチパチパチパチパチパチパチ
『紙芝居』第一号の演目『神獣の巫女と化身獣』の上演が終わり、皆さんから大きな拍手が沸き起こった。
「いやぁこれは素晴らしい! 本当に素晴らしいものを見せてもらった! フミナさんありがとう! そしてシンオベロン卿、さすがだ。こんなものを考えだすなんて……。子供だけじゃなくて、大人も楽しめるよ!」
国王陛下が椅子から立ち上がって、絶賛してくれた。
興奮気味だ。
「本当ですわ。何度でも見たいし、毎日でも見たいですわ。吟遊詩人の弾き語りもいいですが、絵があるというのは、ほんとにいいですわね」
王妃殿下も感動してくれてたようだ。
目にはうっすら涙が浮かんでいる。
そこまで感動してくれたのか……というか、娘のクリスティアさんが、かっこよかったというのもあるのかもしれない。
「ぐおうぅぅ……ぐうぅぅぅ……シンオベロン卿……これは……これはすごい……。ハナが……ハナシルリが活躍している姿が……。これは我が家の家宝にすべきものだ……頼む、我が家専用にもう一つ作ってくれまいか……」
「グリム兄上、ハナがすごかったです! これを毎日観たら、レベルが上がると思います!」
「だったら、毎日観ます!」
「ぼくは、『紙芝居』を観る訓練をします!」
ビャクライン公爵とシスコン三兄弟が、そんな感想を述べた。
ハナシルリちゃんの活躍が描かれて感動しているらしい。
てか……ビャクライン公爵は、泣いている。しかも、号泣って感じだし!
そして何故か長男のイツガ君が、俺を兄上と呼んでいる……どういうこと?
意味がよくわからないけど……もしかして……ハナシルリちゃんが俺と結婚するからということなのかなぁ……?
もしそういうことなら……兄上は……俺じゃなくて、君の方だから!
そして、『紙芝居』を毎日観ても、レベル上がらないし!
『紙芝居』を毎日見まくってたら、“紙芝居は一日一時間まで”とか制限がかかっちゃうかもしれないし!
『紙芝居』を観る訓練とかしちゃうと、『紙芝居』評論家みたいになっちゃいますから!
まぁそれはそれで面白いけどさ……異世界初の『紙芝居』評論家……いや、やっぱりダメだ……ちゃんと武術の訓練をがんばりなさい!
「グリムさん、これはほんとに素晴らしいわ! 時間がかかっても構いませんので、主人がお願いしたように、我が家用に作ってくださるかしら?」
アナレオナ夫人から、改めてお願いされた。
もちろん俺は快く承諾した。
そして、当然のごとく……ここにいる全員から欲しいという要望が出されたので、後日全員にプレゼントすることにした。
『波動複写』を使えば、簡単にコピーできるからね。
もっとも、『絆』メンバー以外にはオープンにしていない情報だから、ちょっと時間をおいて、フミナさんが頑張って書いてくれたという体で渡そうと思っている。
「いやぁこれはすごいね。英雄譚の有名なやつだけでも『紙芝居』にしたら、面白いね。みんな吟遊詩人の弾き語りを楽しみにしてるけど、吟遊詩人の数自体が少ないから頻繁に弾き語りを聞けるのは、大きな都市の人だけだからね。この『紙芝居』なら、訓練すれば多くの人が上演できるようになりそうだ。これはいいよ!」
ユーフェミア公爵も、感心しつつ満足そうに頷いてくれている。
「しかしあんたは……ほんとに大した男だねぇ……。果たしてこれから、どれだけの女を惚れさせることやら……。新作を作っちまったのも凄いね。ユフィたちが、吟遊詩人に語らせる話を作らせているけど、これもそのまま使っちまえばいいんじゃないかい?」
『セイリュウ騎士団』のマリナ騎士団長が、そう言いつつユーフェミア公爵を見た。
「お
ユーフェミア公爵が俺を見ながらそう言ったので、首肯した。
「まったく……どこからこんなアイディアが出るんだい?」
マリナ騎士団長はそう言いながら、俺の肩に手を回した。
なぜか戦友の男友達パターンの肩組みをするという行為が、定着してきているんですけど……。
それはそれで良いのだが……異世界に来て、俺のファーストキスをマリナ騎士団長に奪われたからか……肩を抱かれると、ちょっとだけドキッとしてしまう自分がいた……。
これってどういうことだろう……深く考えたら負けだな……無視!
他の皆さんも、一様に高く評価してくれて、賛辞を送ってくれた。
上演したフミナさんも、嬉しそうだ。
一気にみんなと打ち解けた感じになってきている。
そして一緒に見ていた子供たちは……目を輝かせて喜んでいた。
リリイ、チャッピー、『ホムンクルス』のニコちゃん、『狼亜人』のセレンちゃん、『ドワーフ』のミネちゃん、ゲンバイン公爵家長女のドロシーちゃん、ピグシード辺境伯家の姉妹ソフィアちゃんとタリアちゃん、ビャクライン公爵家長女のハナシルリちゃんが本当に喜んでくれている。
そして熱い眼差しを、フミナさんに向けている。
リリイとチャッピーが皆を代表するように、もう一度見たいというお願いをしてきた。
俺がなだめようと思ったら、国王陛下とビャクライン公爵がすぐに同意し、また見たいと主張した……子供か!
そして何故か……二度目の上演が始まってしまった……。
まぁいいけどさ!
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