750.チーム、付喪神。

『紙芝居』が完成し、練習も終わったところで、国王陛下たちを集めてプレゼンを兼ねた実演をしようと思っている。


 だがここに来た目的がまだあった、うっかり忘れるところだった。


 俺は、一度部屋を出て、あるものを手に持って再度部屋に戻った。


「実は、紹介したい人がいるんです」


 俺は、『魔盾 千手盾』の付喪神フミナさんにそう言って、手に持っていた杖を前に出した。


 フミナさんは、キョトンとしている。

 それもそのはずだ……紹介したい人というのは、人ではないからだ。

 この杖なのだ。


 この杖は、実は、もはや杖ではないのだ。

 俺が『闇オークション』で競り落とした呪われた杖『闇の石杖』が付喪神化した姿なのだ。


「おお、めんこいのぉ。素敵な美人さんと可愛い子ちゃんがおるではないか!」


『闇の石杖』の付喪神の闇さんが、フミナさんと『ホムンクルス』の幼女ニコちゃんに声をかけた。


 杖から突然声がしたから、二人とも驚いている。

 でも、フミナさんはすぐに、付喪神だということを理解したようだ。


 闇さんって俺には偉そうな口をきくけど、綺麗な女性や可愛い子には優しい好々爺のようなトーンで話すんだよね。


「付喪神なんですね?」


 フミナさんはそう言って、俺を見つめた。


「そうなんです。実は昨日……付喪神化して、新しく仲間になったんです」


 俺は、昨日の出来事を簡単に説明した。


「フミナです。よろしくお願いします」


 フミナさんは、礼儀正しく杖に向かってお辞儀した。


「おお、礼儀正しいではないか。お嬢ちゃんはわかっておるのう。ワシのことは、闇さんと呼んでくれていいからのう。これからよろしくなのじゃ」


「ニコです。よろしくお願いします」


 今度はニコちゃんが、ペコリと頭を下げた。


「ニコちゃんかい。ほんとにめんこいのう。闇さんが守ってあげるから」


 闇さんは、フミナさんとニコちゃんが気に入ったようだ。


「あの……実は、フミナさんとニコちゃんに闇さんのパートナーになってもらおうと思っているんです。フミナさんとは付喪神同士というのもありますし、ニコちゃんを守ってくれるパートナーとしても良いかと思っているんです」


 この件が、闇さんを紹介した本題なのだ。


「いいんですか? 私は全然構いませんけど」


 フミナさんは嫌がることなく、むしろ謙虚に俺に尋ねてきた。


「ほほほ、それでは決まりじゃな! ワシもこの子たちが気に入ったのじゃ。これから楽しくなりそうなのじゃ! 付喪神化したからには、楽しまにゃいけんからのう。フミナちゃん、ニコちゃんと呼ばせてもらうのじゃ。よろしくのう」


「はい。よろしくお願いします」


「あい」


 フミナさんとニコちゃんが、お辞儀をして答えた。


「それでは、私もよろしくお願いしますね!」


 そう声をかけながら入ってきたのは、『家精霊』こと『付喪神 スピリット・ハウス』のナーナだ。


 ナーナは、フミナさんとニコちゃんの面倒を見てくれている。


「おお、こりゃまた、めんこい。そして……付喪神じゃな。それにしても、なんというべっぴんさんじゃぁ……。ここは天国なのかのう……」


 闇さんは、そう言って空中を踊るように動いた。

 闇さんを紹介したときに、俺は握るのをやめて自由に浮かせていたのだが、喜びを体で表現している。


 俺に対しては偏屈爺さんのような口調だし、可愛い子には好好爺の口調だし、綺麗な女性には浮かれて踊るし……この人っていったい……?

 やはり人格のベースになっている何者かがいるようだ……。

 絶対に、この杖を作ったアンデッドのリッチ、そしてその変性前の魔術師だよね。


 ただ闇さんの人格自体は、あくまで独立した人格のようだ。

 杖についていた残留思念のうちの何者かの残留思念が、人格を形成する際に影響を与えたというだけのことらしい。

 その何者かの残留思念が、主人格となって付喪神化したわけではないので、記憶などは一切無いようだ。


 俺の仲間の付喪神が三人揃い、『チーム付喪神』ができてしまったようだ。


「私から一つ提案なんですが、このメンバーでレベルを上げるための特訓をしませんか? 闇さんは付喪神化したばかりでレベルが1で、今後の為にレベル上げをした方がいい状態です。ニコちゃんもレベル20なので、今後の安全のためにもう少し上げた方がいいでしょう。フミナさんは、レベル33ありますのでそのままでもいいと思いますが……もう少し上げた方が安心ではありますよね」


 俺は、みんなに提案した。


 闇さんについては確実にレベル上げが必要だし、ニコちゃんもできればもう少しレベルを上げてた方が安心だ。

 もちろんパワーレベリングはもったいないので、じっくりあげればいいと思ってるけどね。


「そうですね。私もその方が安心できますし、ぜひお願いします!」


 フミナさんが、部活少女のように元気よく頭を下げた。


「あい、私もがんばります」


 ニコちゃんがペコリとお辞儀した。

 ほんとに、この子は可愛いなぁ……。

 このおとなしい感じが、めちゃめちゃ可愛いんだよね。


「ほほほ、ワシもレベルさえ上がれば、かなり強くなるぞい!」


 闇さんも張り切っているようだ。


「それでは、私の方でニコちゃんの体調を見ながら、レベル上げの段取りをします。特訓は大森林で行います。その後、状況に応じて、『ミノタウロスの小迷宮』での合宿も考えます」


 ナーナがそう言ってくれたので、今後のことはナーナに任せることにした。



 話が終わったタイミングを見計らったかのように、賑やかな声と共にリリイとチャッピーがやってきた。


「ニコちゃん、こんにちはなのだ」

「チャッピー来たよなの〜」


 二人はニコちゃんを取り囲んだ。

 二人ともニコちゃんのことを、気にしてくれていたようだ。


「あい、こんにちは」


 ニコちゃんは、少し恥ずかしいのか、はにかんだ。

 ニコちゃんは、何度も来てくれているリリイとチャッピーにはだいぶ慣れてきたようだが、元々がおとなしい引っ込み思案な性格なのだろう。


 少し遅れて、昨日保護した狼亜人の女の子セレンちゃんが入ってきた。


「あの……こんにちは。セレンです」


 セレンちゃんが、はにかみながらニコちゃんに挨拶した。

 セレンちゃんは、人見知りなのかもしれない。

 でも尻尾が揺れている。


「新しい友達なのだ!」

「一緒に遊ぶなの〜」


 リリイとチャッピーがそう言って、ニコちゃんにセレンちゃんを紹介してあげた。


「ニコです。よろしくお願いします」


 ニコちゃんは、セレンちゃんにペコリと頭を下げた。


「ハナちゃんのところに、サーベルタイガーの子供がいるから、見に行くのだ!」

「可愛いから、見に行こうなの〜」


 リリイとチャッピーがそう言いながら、ニコちゃんの手を握った。


「あい」


 ニコちゃんが嬉しそうに答えた。

 そして、セレンちゃんを含め四人で見に行った。


 子供たちのこういう姿を見ていると……本当に幸せな気持ちになる。


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