749.紙芝居を、作っちゃおう!
俺は、『魔盾 千手盾』の付喪神フミナさんに、『紙芝居』や『人形劇』の構想も話した。
この世界の人々の身近な娯楽として、各市町の広場で上演するというものだ。
屋台を『紙芝居』用に改造したり、『人形劇』の舞台を設置した『人形劇』用屋台を作って、上演するのである。
また、吟遊詩人とのコラボで『紙芝居』を演じるというアイデアもある。
『フェアリー商会』では、歌劇団を本格的に稼働させる予定だが、歌劇団にしろ劇場にしろ、大きな都市にしか作れない。
各市町を巡業で回ったとしても、たまにしか行けない状態だろう。
身近な娯楽として定着している弾き語りをする吟遊詩人も、随時育てていく予定だが、一流の吟遊詩人になるには、人を魅了するような才能も必要だし修練も必要である。
育てるには、時間がかかるのだ。
それが『紙芝居』なら、絵に合わせてお話を読んであげればいいし、ある程度感情を込めて読み上げられればいい。
絵本の読み聞かせのような感じで、ちょっと頑張れば、ある程度の語りはできるようになると思うんだよね。
これなら、『フェアリー商会』の支店がある全ての市町で実施することも、可能だと思う。
そんなことも含めて、ちょっぴり熱く語ってしまった。
「すごいです! それに楽しそう! 子供たち絶対喜びますよ! いえ、大人も喜びます! テレビとか映画がない世界だから、『紙芝居』でも相当人気が出るんじゃないですか!」
フミナさんは、かなりハイテンションで話に乗ってきてくれた。
もしかしたら……こういうことが好きなのかもしれない。
「そこでお願いがあるんです。フミナさんは、もともと『絵画』スキルを持っていて、絵を書くのが得意だと思うので、見本となる『紙芝居』を作ってもらえませんか? みんなに『紙芝居』というものを説明するために、見本が必要なんです」
俺は、フミナさんに頼んでみた。
これから国王陛下たちを集めて『紙芝居』を広めていこうという話をしようと思っているが、この世界には『紙芝居』らしきものはないようなので、説明するのに現物が必要だと思ったんだよね。
「ええ、私でよろしければ、いくらでもお手伝いします。なんか楽しそうだし! 私、絵を描くのが大好きだったんです。漫画も好きだったから、よく漫画のキャラクターとかも書いてたんですよ」
フミナさんは、超ノリノリだ。
そして、そんなフミナさんの楽しそうな姿を見て、ニコちゃんも幸せそうな顔になっている。
「ではこれから、私が考えている物語を説明するので、描いてもらってもいいですか?」
急な話ではあるが、俺は早速フミナさんにお願いした。
「いいですよ……でも絵の具とか道具は……」
「大丈夫です。持ってきました」
俺はそう言って、紙と筆と絵の具を出した。
絵の具は、『領都セイバーン』でシャイン=マスカット氏が売り付けられた物を買い取ってあげたものだ。
二セットあるので、一つはフミナさんにあげようと思っている。
フミナさんが俺の説明を聞いて、早速、描き出してくれた。
最初はラフを描いて、その後本格的に描き上げていくというやり方のようだ。
ちなみに俺が考えた『紙芝居』は、まったくの新作だ。
この世界でよく知られている英雄譚にしようかとも思ったのだが、せっかくなので新作にした。
しかもタイムリーなやつだ!
タイトルは……『神獣の巫女と化身獣』だ!
そう、先日の襲撃事件の時に覚醒した『神獣の巫女』と『化身獣』のお話しにしたのだ。
この『紙芝居』は、話の始まりが襲撃事件の真っ只中なので、最初から盛り上がって見る者を惹きつけると思うんだよね。
導入は……犯罪組織『正義の爪痕』の襲撃を防ぎ、首領も倒したというところから始まる。
ほっとしたのも束の間……恐怖の魔法機械神が襲ってくるのである。
そして、その場にいた妖精女神の使徒が、『コウリュウド王国』の護国の神獣である五神獣の化身として覚醒する。
それに伴い、王家と四公爵家の令嬢が『神獣の巫女』として選ばれ、覚醒する。
神器として継承されてきた伝家の宝刀の力も甦り、失われた『念術』の能力も甦る。
それを駆使して、
魔物を倒し人々を守ったところで、熱いまま終わるという展開だ。
実際の話は、この後にあの天災級の魔物の巨大クラゲ魔物が襲ってくるのだが、そこは描かずに終わった。
魔物の
この王国の希望の星といえる『神獣の巫女』と『化身獣』の存在を広めるのが、狙いだからね。
この話が広まれば、この国の人々は、何があっても五神獣がいつも見守ってくれていると、心を強く持てると思うんだよね。
実は……『神獣の巫女』と『化身獣』たちが、魔物相手に無双している姿は、俺とフミナさんは少ししか見ていないのだ。
移動型ダンジョン『シェルター迷宮』の中に突入してしまったので、その突入の前と出てきた後の部分しか実際には見ていない。
でも仲間たちから、活躍の様子は聞いていたから、ストーリーを作る上では全く問題ないのだ。
フミナさんは、凄い集中力で描き上げてくれた。
描き始めた最初の頃に驚いたのは、漫画が好きだと言うだけあって、劇画調のすごい絵を描き出したのだ。
それを俺が止めて、普通の絵本のような感じの絵に変えてもらった。
俺的には、劇画タッチでも良かったというか、むしろそっちの方が面白く見れるからいいと思ったのだが、『紙芝居』の見本としてはちょっと微妙だった。
劇画タッチが基準になっちゃうと、『紙芝居』のハードルが上がっちゃって、他の人が作りづらくなっちゃうからね。
ただ最終的には、かっこよく描きたかったというのもあり、多少劇画タッチの描画になっていたけどね。
まぁいいだろう。
俺的には、フミナさんの劇画タッチの『紙芝居』も作ってほしいと思っている。
『紙芝居』も、劇画タッチのものから絵本のような可愛い感じのものまで、バリエーションがあっていいと思うんだよね。
俺はフミナさんが絵を仕上げている間に、『紙芝居』をセットする枠と拍子木を作ってしまった。
拍子木は、『紙芝居』を始める時などに、叩いて音を出すやつだ。
カンカンっという音が出るやつなのだ。
『紙芝居』の実演は、フミナさんがやってくれることになった。
勇者召喚される前……元の世界にいた時に、病院に入院している子供たちに本を読み聞かせるボランティアをしていたそうだ。
読み聞かせは得意だと言っていたので、紙芝居も頼んだら引き受けてくれたのだ。
みんなに披露する前に、練習でフミナさんに実演してもらったが……完璧だった!
一緒に聞いていたニコちゃんは、大喜びで拍手をしていた。
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