745.精密画、販売開始。

 ————それでは皆さん、最後に、素晴らしいプレミアム商品のご案内をいたします!

 ————本日これより、四種類の『精密画』を特別販売いたします!

 ————まず一つ目は、なんと! 私たちの心を虜にしたあの『高貴なる騎士団ノブレスナイツ』の記念『精密画』なのであります! メンバー全員が描かれた最高、最強の逸品なのです!

 ————そして二つ目は、我らが『セイリュウ騎士団』団長のマリナ様の『精密画』です。勇ましくも美しいお姿が描かれております!

 ————三つ目は、愛する領主ユーフェミア様の『精密画』です! その美貌が、そのまま写し出された素晴らしい『精密画』です!

 ————四つ目は、我が領の希望の星、公爵家美人三姉妹シャリア様、ユリア様、ミリア様が揃って描かれている美しい『精密画』です!

 ————四種類の『精密画』は、特別限定品でこの『コロシアム村』でしか販売されません。それもいつまで販売しているかわからないのです。買い逃して後悔がないようにしてください!

 ————皆様に先んじて、私は現物を見ております! はっきり言います! もう買うしかありません! 買わずにはいられません! 飾らずにはいられません! 拝まずにはいられません! ぜひお求めください!

 ————このコロシアムの周りに、販売用の特別屋台が出るそうです! しかとその目でお確かめ下さい!


 アナウンス担当の文官シャイニングさんが、今度は『フェアリー商会』で販売する特別記念『精密画』の告知をしてくれた。

 これは俺の方から告知してほしいと頼んだのだが、すごい熱の入りようだ。


 この告知で……『炊き出し』に集まった人々は、また大盛り上がりだ。


 相変わらずユーフェミア公爵たちの人気はすごい。


 歓声が少し落ち着いたところで、再度シャイニングさんがアナウンスをして、やっと振舞酒のワインが提供されることになった。

 そして、これを持って案内を終了し、後は自由解散という告知がされていた。



 シャイニングさんが案内してくれた特別記念『精密画』は、実はさっき俺が作ったものだ。


『魔盾 千手盾』の付喪神フミナさんが、『精密画』スキルを持っていたお陰で、『波動複写』でコピーして、俺のスキルにすることができたのだ。

 もちろん、それを『共有スキル』にもセットしたので、仲間たちも使える状態になっている。


 さっき急に思いついて、試しに、書いてみたんだよね。


 スキルレベルを10にしてあるので、スキルによる補正の力がすごくて、絵心のない俺でも頭に思い浮かべるだけで手が動いて、まるで写真を印刷するように描けてしまうのだ。


 この世界の人は、写真というものを知らないわけだが、もし知っている人なら写真だと思うだろう。


 このスキルを使って、一色で描くのは大変ではない。

 もちろん仕上がりは、モノクロ写真のようになる。

 試しに一枚描いてみたが、結構スイスイ描けた。


 ただやはりカラーがいいなぁと思ってしまったのだ。

 それゆえに色を使って『精密画』を書くことにしたのだ。


 現在一般的に販売されている『精密画』と言われるものは、半分以上は一色で書かれているらしい。

 やはり何色も使うのは大変だからだろう。

 そして何色も使っている『精密画』は、値段も高くなるのだそうだ。


 ちなみに、一般的に販売されている『精密画』は、このセイバーン公爵領では、ユーフェミア公爵や令嬢三姉妹を描いたものが多いようだ。


 人々に広く知られていて、人気がある人を描いて、販売するのである。


 実際販売されている『精密画』の半分以上が一色で書かれているというのは、頷ける話だ。

 実際、自分で描いてみて、単色は苦にならないが、何色も使うのはかなり面倒くさいのだ。


 逆に言えば、面倒くさいのを我慢して頑張れば、カラー写真のような絵が描けてしまうということではあるんだけどね。


 今回は、頑張って何色も使って書いた。

 カラー写真状態を目指したのだ。


 実は、突然このスキルを使って『精密画』を描こうと思ったのにはわけがある。


 さっき『領都セイバーン』で、ナルシスト貴族のシャイン=マスカット子爵を訪ねた時に、染料のセットを手に入れることができたからなのである。

 この世界では染料と言っているが……絵を描くときに使う物なので、俺的には絵の具だ。


 シャインさんたちと共に、『下級エリア』にある『ふさなり商会』のお店に行く途中で、多くの人が物を売りつけに来たのだ。

 それは、話に聞いていた通りだったのだが、今回から取り巻き集団『マスカッツ』の赤髪の美少女サンディーさんを仕入れ担当者にした。

 彼女が窓口になって、買い取れる物を買い取ったのだ。


 実はその中に、染料のセットがあったのである。

 貝殻の器に入って、二十色のセットになっていた。

 絵描き用のセットらしいが、二セット売れ残ったので処分してしまう為に、シャインさんに売りつけに来たようなのだ。

 完全な在庫処分場扱いになっていた……。


 俺は、見て欲しくなったので、サンディーさんに利益を乗せた販売価格を設定させて、購入してあげたのだ。


 この時にちょっと思ったのは、染料を売りつけに来た商人のように、中途半端に残った商品を売り切ってしまいたいという需要は、他にもあるだろうということだ。


 そんなときに、買取センターみたいなものがあったら、多くの人が助かると思うんだよね。

 もちろん、買取価格は、適正に設定する必要があるので、通常販売するような価格よりは低い価格での買取になるだろうけど、それでも現金化できるということは、助かるのではないだろうか。

 不良在庫が流動化され、お金が回るということになると思うんだよね。


『在庫品買取センター』みたいなものを作ろうかなぁと真面目に考えてしまった。


 シャインさんは、在庫処分場としてカモにされていたわけだが、実際には、売れ残りの処分に困っている人を助け、その人やその家族の生活を助けていたと言えなくもない……。


 シャインさんがカモにされながらやっていたことを、ちゃんとした事業としてやってみるのも面白いと思った。

『フェアリー商会』は、様々な分野の事業をやっている総合商会だから、その中で大体の物は販売したり利用することができると思う。


 『領都セイバーン』のように人口が多い所、商会や商人が多い所では、喜ばれると思う。

 真剣に考えてみるか。


 ただ様々な商品に対する目利きができて、値段交渉ができる人材がいないと無理だろうけどね。

 これもやっぱり人材次第かなぁ……。


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