744.人材募集で、大歓声?
昼近くになって、俺たちは『領都セイバーン』から『コロシアム村』に、転移で戻ってきた。
昨日の『闇オークション』で保護した動物たちや狼亜人の親子も一緒だ。
領城で一泊したが、自分の家とは違うのであまり落ち着かなかった。
この『コロシアム村』の屋敷は、もうすっかり家という感じがするので、落ち着くのだ。
襲撃事件から三日目となる今日は、『大勝利祭』と称した三日間のお祭り騒ぎの最終日でもある。
これから、最後のお昼の『炊き出し』を行うことになっている。
カレーライスは無理なので、今日も焼肉だ。
それでも食べたいだけ、食べさせてあげるので豪勢な『炊き出し』である。
最終日ということもあり、振舞酒も出す予定だ。
予定していた通りに、魔物化因子を浄化する『対策ワイン』を振る舞うのである。
これで、もしこの『コロシアム村』にいる人の中に、まだ魔物化因子を持っている人がいたとしても、もう大丈夫だろう。
そして、人々に数日残ってほしいと案内していた点についても、今日を持って解散して大丈夫という告知ができる。
残ってほしいと案内していたのは、魔物化する危険がないか様子を見たかったからなのだ。
『対策ワイン』によって、もうその必要がなくなるからね。
実際に告知をするのは、俺たちではなく領の文官たちだ。
俺たちは、あくまで『炊き出し』のサポートなのである。
解散していいという告知をしたとしても、戦勝のお祭り気分が残っていて、楽しそうにしている人が多いから、しばらくは多くの人が残りそうだけどね。
それでも別に問題はない。
むしろ俺としては大歓迎だ。
この村を運営している『フェアリー商会』の儲けが増えるのだ。
ありがたい話なのである。
出店者を募った屋台の分を除いて、『コロシアム村』で上がる売り上げは、全て『フェアリー商会』の売り上げなのだ。
訪れている人たちの宿代、食事代、買い物……全てが『フェアリー商会』の売り上げなのである。
当初の想定よりも、かなり多くの人が集まってくれたお陰で、物凄い売り上げになっているのだ。
大会期間だった四日間、その後の今日までの三日間、そして大会が始まる前に訪れた人たちを受け入れていた宿代や食事代……それら全ての売り上げを足すと、十億ゴルを超えているのだ。
もちろん売り上げであって、利益ではない。
人件費がかかっているわけだし、提供した食べ物の原材料費もある。
そして本来なら、この『コロシアム村』の建物の減価償却費もあるわけだ。
だが魔法で作ったので、そもそもの建設費用がほとんどかかっていないのだ。
それゆえに、事実上、減価償却費などは考えなくていいから、収益率はかなり高くなるんだよね。
かなりの利益が出そうだ。
もちろん当初考えていたように、今回応援に来てくれた『フェアリー商会』のメンバーには特別ボーナスを出すつもりだ。
それにしても、改めて思ったが……人口というか、利用する人が多いというのは、凄いことだ。
めっちゃ儲かるのだ。
『フェアリー商会』の各事業も、マリナ騎士団長やユーフェミア公爵が言っていたように、『領都セイバーン』や『王都』など人口の多いところでやったら、毎月すごい収益をたたき出しそうだ。
領都から一緒に戻ってきた産業振興執務官という名の『フェアリー商会』のサポート要員……シャイニングさんから提案があった。
これから始まる『炊き出し』の時に、集まっている人たちに『フェアリー商会』のスタッフ募集の告知をしたらどうかというのだ。
武術大会を観戦する為に訪れている人は、裕福な人が多いと思うので仕事を探している人は少ないだろうが、それでも応募してくる可能性はあるというのだ。
それに、予選敗退者がまだかなりこの『コロシアム村』に残っているはずなので、その人たちは仕事を探している可能性が高い。
衛兵や私兵に採用するのは難しいとしても、普通のお店のスタッフなら可能性はあるだろうし、本人たちも、それでもいいから就職したいという可能性は十分にあるというのが、シャイニングさんの読みなのだ。
確かに、言われてみればそうかもしれない。
武術大会のときは、衛兵としての可能性や商会スタッフとしての特別な能力という点を重点に人を見ていた。
だが……お店のスタッフなら、武術が強くなくても、特別な能力がなくても、真面目で性格が良ければいいんだよね。
それにそもそも、出場者全員は見れていないからね。
今回告知することによって、一人でも二人でも採用できたらいいし、場合によっては、多くのスタッフを確保できる可能性もある。
俺は、シャイニングさんの提案を受け入れ、告知をお願いした。
そして就職面談会を、本日から三日間夕方の時間帯にコロシアムの中の大きな個室で行うことにした。
希望者は、そこに集まるようにと告知をしてもらうことになった。
ただ……サーヤの採用基準は、人間性重視で……ある意味厳しいとも言えるので……就職できない人が、それなりの数、出てしまうかもしれない。
せっかくのお祭り気分なところを、嫌な気持ちになって帰らせるのは可哀想なので、採用されなくてもあまり落ち込まないように、告知のアナウンスの時点で、『厳しい採用だからダメ元でチャレンジしよう』という呼びかけをしてもらうことにした。
シャイニングさんは、意図を理解してくれて、「任せてください!」と親指を立ててくれた。
よほど性格に問題があると判断される以外は、基本的には採用すると思うけどね。
とにかく人手が必要だから。
今後も『コロシアム村』を運営していくわけだが、今のところ、ここに住むと決まっているのは、『格闘術プロレス』の継承者のアンティック君たち『シンニチン商会』の皆さんだけなのだ。
このままでは、ガラガラの村になってしまう可能性もある。
ただ、観光地のようにしたいと思っているから、住む人が少なくとも、訪れる人が多ければいいんだけどね。
それ故、移住者を集めるつもりは、初めからない。
移住希望者がいるなら、ピグシード辺境伯領に移住してほしいし……。
『コロシアム村』で求めているのは、あくまでも宿屋やお店を運営するスタッフなのだ。
当然そのスタッフが、『コロシアム村』に住むことにもなるので、住民にもなるわけだけどね。
今運営してくれている俺の眷属の『聖血鬼』のみんなや、『フェアリー商会』の他の支店から応援に来てくれているスタッフたちは、いずれ元の仕事に戻らなきゃいけない。
その為にも早く現地採用を進めて、スタッフを確保しなければならないのだ。
今までに、ユーフェミア公爵が声をかけてくれていた貴族の子弟の一部が面接に来てくれていたりして、ある程度のスタッフは採用できている。
だが、正直まだまだ足りないのだ。
◇
最後の『炊き出し』が始まった。
三日連続でやっているので、主催する方も参加する方も、もう手慣れたものだ。
参加者が率先して、自分で肉を受け取って焼き場で焼いている。
文官たちの段取りも、見事だ。
俺たちは、見守っていればいいだけだ。
後はできるだけ多くの人に、振舞酒の『対策ワイン』を飲んでもらえばいい。
ワインが飲めない人についてはどうしようかと一瞬考えたが、そもそもワインが飲めなければ『魔物化促進ワイン』も飲んでないだろうから問題ないだろう。
————皆様、『大勝利祭』三日目、最終日の今日で『炊き出し』も終了となります! そこで、本日は特別にユーフェミア公爵閣下のご厚意で、ワインを振る舞いたいと思います!
今日もアナウンスを担当しているシャイニングさんが、いつものノリで、振舞酒の告知をした。
「「「うおぉぉぉーー」」」
大歓声が上がる!
————はーい、皆さん、でもワインはまだちょっと待ってください! 皆さんが酔っ払って、わけがわからなくなる前に、私の方からいくつか大事なご案内をさせていただきます! まずはそれを聞いてから、ゆっくりワインを楽しみましょう!
シャイニングさんはノリノリでそう告げると、いくつかの案内をノリ良くやってくれた。
まずは予定通り、以前案内した数日残ってほしいという期間が過ぎたから、もう自由に解散してくれて良いという告知をしてくれた。
そして、改めて『コロシアム村』は、今後も楽しみを提供する村として存続していくので、期待してほしいと案内してくれた。
格闘技の興行を定期的に開催することも告知した。
すると人々からは、大歓声が上がっていた。
やはりみんな格闘技を見るのが好きなようだ。
そして、格闘技を見たり、楽しいイベントに参加しながら、珍しく美味しい食べ物を食べて暮らしたいと思う人は、移住してほしいとまで呼びかけてくれた。
そこまでは頼んでいなかったのだが、さすがの手腕である。
どうせ移住を呼びかけてくれるなら、ピグシード辺境伯領への移住の呼びかけも頼めばよかった。
次に告知してくれたのは、『フェアリー商会』の人材募集の件だった。
お店や宿屋で働く人を募集しているので、興味のある人はぜひ応募してほしいと案内してくれた。
そして、『フェアリー商会』に就職して、この村に住んで、格闘技観戦を楽しむという生活をしてはどうかと、生活スタイルの提案までしてくれていたのだ。
妹のシャイニーさんの方が優れていると本人は言っていたが、こういうアナウンスができるということは、シャイニングさんも優れた才能の持ち主だと思う。
更には、『フェアリー商会』は、領で唯一の『特別御用商会』だし、妖精女神と救国の英雄がやっている商会だと絶叫しながら案内してくれていた。
いわば……『一流企業だし、有名人が作った会社だから安心して働いてください』みたいな意味で言ってくれたんだと思うが……人々が大歓声をあげていた。
人材募集の告知に対する反応ではないと思うのだが……。
まだ歓声が続いているし……。
でも、もしかしたら……結構、就職希望者が集まってくれるかもしれない……期待しよう。
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