743.ディスりながら、認める。

 現在『ふさなり商会』が運営している『下級エリア』にあるお店は、『フェアリー商会』のものになるから、使い方を考えないといけない。


 場合によっては、俺の『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビーさんが、これから組織するであろう『舎弟ズ』の『領都セイバーン支部』の詰所にしてもいいかもしれない。


 そして屋台を運営するイメージで、店頭で『せんべい』とか、『コロッケ』とかを販売してもいいだろう。


 もしくは……今までシャインさんに物を売り付けていた人たちの中で、悪どくない人だけ選んで、店先を貸してあげてもいいかもしれない。

 共同の直売所みたいにしたら、面白いかもしれないなぁ……。


 自分ではお店を持てない人たちに、手数料だけもらって使わせてあげればいいよね。

 今まで道で売っていたことを考えれば、店先に張り付いていてもいいだろうし。

 二階建てらしいので、二階を『舎弟ズ』たちの詰所にして、一階を共同直売所にする。

 うん、いいかも!

 その方向で考えてみよう!


 これから『下町エリア』にある『ふさなり商会』の店舗を、実際に訪れてみようと思う。


 今の構想は、話を聞いただけでの想定でしかないのだ。

 もっとも、実際店舗を確認して、大きな問題がなければこのまま進めようと思っているけどね。



 その前に、せっかくなので、この『シャインズマスカット』をみんなで美味しくいただくことにした。


 リリイとチャッピーと『ドワーフ』のミネちゃんが、お待ちかねなのだ。


 今までは、この屋敷にいるシャインさんが保護した子供たちと走り回って遊んでいたのだが、もう食べたい気持ちが抑えられないようだ。


「みんな、打ち合わせが終わったから、この美味しいブドウを食べよう!」


「やったーなのだ!」

「待ってましたなの〜」

「戦いのゴングが鳴ったのです!」

「「「わーい!」」」


 俺が声をかけると、子供たちが満面の笑顔で、猛ダッシュしてきた。


 そして、手を拭いた後にそれぞれ食べだした。


「わぁ、一粒がジュースみたいなのだ!」

「すごい爽やかなの〜。毎日食べたいなの〜」


 リリイとチャッピーが、ニヤニヤして喜んでいる。


 そして『ドワーフ』のミネちゃんは……一粒口に放り込んだ後、続けて口に放り込んで、早業で一房全部を食べきってしまった。


「これは凄いのです! 『ドワーフ』の里のブドウとは違う種類の美味しさなのです! 美味しすぎるのです! 食べると幸せになっちゃうのです! ブドウのマスカット氏は、幸せそうな輝きで、ミネに食べづらくなるような精神攻撃を仕掛けてきたのです。でもミネは負けなかったのです! 意を決して幸せそうなマスカット氏を口に放り込んだのです。すると、今度はミネが幸せになったのです! あまりの幸せに、食べることをやめそうになったのです。でも誘惑に打ち勝って全部食べきったのです! ミネの勝ちなのです!」


 ミネちゃんがそう言って、勝利のブイサインを出した。


 相変わらずわけのわからないことを言っているが……

 そして勝利のブイサインって……一体誰が教えたのよ!?


「君たち、素晴らしいね! 君たちの食べる姿は実に美しいよ。君のその指のポーズも、何かエネルギーを感じるよ。素晴らしい美しさだ……」


 シャインさんがそう言って、リリイ、チャッピー、ミネちゃんに声をかけた。


 少し危ない人みたいな声のかけ方だが……基本的にシャインさんは、子供が好きなんだと思う。


 そして、ブドウのおかわりを渡してあげていた。


 これに感動したのか、ミネちゃんがわざわざシャインさんに近づいて、話しかけた。


「このブドウのマスカット氏を作った人間のマスカット氏は凄いのです。最初は、ナルシストで気持ち悪いと思ったけど、見直したのです! よく見たら人間のマスカット氏は、ブドウのマスカット氏と同じで、いつも幸せそうで楽しそうなのです! ナルシストなのは気持ち悪いけど、幸せそうなのはいいことなのです! 周りの人も幸せになるからなのです! だから……人間のマスカット氏が、自分大好きな気持ち悪いナルシストでも、その輝きで人を幸せにできちゃうなら……ミネは認めるのです! ナルシストすぎて、気持ち悪いけど許してあげちゃうのです!」


 『シャインズマスカット』の美味しさに興奮したからなのか、今までのシャインさんの言動に耐えかねていたからなのか……ミネちゃんがすごいことを言っている。


 最終的には……シャインさんを認めますと言いたいんだと思うんだけど……そこに行き着くまでが、かなりディスってますけど……。

 まぁ気持ちはわかるけどね。


「ハハハ、君は面白いね。そして実に美しい。心も美しいようだ。いつでも遊びに来たまえ。好きなだけブドウを食べさせてあげよう」


 シャインさんは、上機嫌でミネちゃんに微笑みかけた。


 そしてミネちゃんも微笑み返し……なぜか二人で通じ合ったようだ。


 てか……シャインさん……さすがの超絶プラス思考!

 これほどのディスりを全く気にしていない……ある意味尊敬するわ!





 ◇





 俺たちは『下級エリア』いわゆる下町エリアにある『ふさなり商会』の店舗を訪れている。


 もちろんシャインさんたちと一緒に来たわけだが……やはりここに来るまでの間……『中級エリア』を少し過ぎたあたりから、売り子たちがどんどん近づいてきた。


 既にシャインさんはカモと認識されているらしく、みんな待ち構えていて、シャインさんを見つけると笑顔で手を振りながらやって来ていた。


 当然、シャインさんはそれを見て、みんなが喜んでくれていると嬉しそうにしていたわけだが……俺からしたら、ただのカモなのだ。


 今日から練習という意味も含めて、取り巻き集団『マスカッツ』の赤髪の美少女サンディーさんが仕切るようにしてもらった。


 売るために近づいてくる人たちに、買取窓口であることを伝えて、売り込みを受けるというスタイルだ。


 シャインさんがカモだとみんな思っているようで、シャインさんに近づく人が多かったが、リリイとチャッピーとミネちゃんがうまく妨害し、そして誘導して、サンディーさんの方に連れて行っていた。

 他の『マスカッツ』の女性たちより、この子たちの方が動きが良くて、全然優秀だったのである。


 ただよく観察していると、完全に悪意でカモにしている人ばかりではなく、純粋に買ってほしくて近づいてきている人もいた。

 子供も結構いたのだ。


 おそらく貧しい家の子供で、畑で作った野菜や、原っぱで摘んだお花などを持ち寄っているのだろう。


 そんな姿を見ると、俺も買ってあげたくなっちゃうんだよね。

 ていうか……買ってあげちゃったけどさ。


 シャインさんも、そういう気持ちから始まったのかもしれない。

 やっぱ……結構いい奴なんだよね……。


 まぁその人の良さを利用されて、売れ残りの処分場にされているわけだけどね。



 お店は『ふさなり商会』という大きな看板がついていて、店構えはかなり大きい。

 話を聞いて想像していたよりも、大きかった。


 働いている人たちも……聞いていた通りに……むさ苦しい筋肉質のおじさんたちだった。

 汗をダラダラ流しながら働いている……。

 いくら『下級エリア』と言っても……なんとなく入りづらい感じだ。


 見ていると……常連さんは気軽に声をかけて覗いていくが、それ以外の人はあまり見向きをしてくれていない。


 そして売っている物も、目茶苦茶だ。

 野菜も売っていれば、変なツボみたいな物も売っているし、椅子も売っている。

 わけのわからない石みたいな物も売っている。


 なんなんだろうこの店……。


 ある意味斬新だけどね……。

 雑貨屋の枠を超えた、更なる雑貨屋って感じ……。

 もう宝探し的な感じだけどね。

 でも多分……お宝的なものは何もないと思う。


 コンセプトが全くない店なのだ。

 まぁコンセプトがないことが、コンセプトの店なのかもしれないけどね。


 いずれにしても、早く俺が提案した体制を実現して、この店をなんとかしないとやばいと思う。



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