742.シャインさんの、取り扱い方法。
俺は、マスカット家及び『ふさなり商会』の立て直しの柱として、マスカット家が作り出した『シャインズマスカット』を活用することにした。
マスカット家所有のブドウ農園の面積を二割増やしてもらい、それとは別に俺が褒賞として手に入れた領都近郊の草原に、大きなブドウ農園を作ることにした。
このブドウ農園は、マスカット家と『フェアリー商会』の共同農園というかたちにし、実際には『フェアリー商会』で管理する予定だ。
今『ふさなり商会』で働いてる力自慢の男衆十人には、この農園のマスカット家の担当部分の栽培管理をしてもらうのがいいと思っている。
農園全体の管理は『フェアリー商会』が行うが、実際の栽培管理については、マスカット家にも担当してもらう予定なのだ。
ちなみに『シャインズマスカット』は、俺がいた世界の『シャインマスカット』と同じで種がないのだが、特に種なしにするための処理はしていないらしい。
俺の中の常識では、種無しブドウを作るには『ジベレリン処理』という植物ホルモンを使った処理が必要なのだが、特にそういう事はしていないとのことだ。
もともと種がない品種もあるから、その系統なのだろう。
そうだとすると、味はほぼ一緒でも、俺のいた世界の『シャインマスカット』とは違う系統かもしれない。
農園全体の管理を『フェアリー商会』で行うというのは、マスカット家の負担を減らす為とシャインさんがあまり来なくていいようにする為だ。
領都郊外の共同農園に来るということは、それだけ長い距離を移動するということになり、その間にシャインさんが様々な人に物を売りつけられてしまう危険が高いからだ。
話を聞く限り、シャインさんが買わないようにするのは、かなり大変なので、そもそも物を売りつけられる状態が発生しにくいようにしようと思ったのだ。
シャインさんを変えられない以上、彼の動線というか動きを変えるしかないということなのである。
もちろん次善の策も考えてある。
シャインさんが物を売りつけられる状況になったときに、その場の仕切りを、いつも一緒にいる取り巻き集団『マスカッツ』の赤髪の美少女サンディーさんにやってもらおうと思っている。
彼女なら思ったことをはっきり言えるので、主人であるシャインさんの意向で買わなきゃいけない場合でも、適正な値段で買うように交渉できると思ったのだ。
そしてその為に、彼女に『仕入れ担当』という肩書きをつけてもらうように、シャインさんとシャイニングさんに頼もうと思っている。
道を歩いていて、物を売りつけられる行為をシャインさんは仕入れだと主張しているので、それに乗っかって仕入れ担当という肩書きをつけてしまえば、彼女もやりやすいと思うんだよね。
それから『商会の会頭が仕入れを自ら行うのは美しくない、仕入れ担当者が行った方が商会のあり方として美しい』というわけのわからない理屈で、シャインさんを丸めこもうと思っている。
美しいを連発すれば何とかなるというのが、わかってきたのだ。
領都郊外の共同農園についても、新品種を開発したマスカット家は、悠然と構えて、協力商会の『フェアリー商会』に任せる方が美しいという理屈で、あまり出向かないようにしてもらおうと思っている。
シャインさんは最初は面倒くさい奴と思ったが……『美しさ』と『喜び』という彼の判断基準をうまく使えば、簡単な奴なのかもしれない……。
農園作りについては、シャインさんたちには仲間の『トレント』の技を使うという話で説明したが、実際には、俺の新しい『固有スキル』の『絶対収納空間』の『データ収納』コマンドを使って、今あるマスカット家のブドウ園を、データコピーして貼り付けようと思っている。
広い共同農園の場所にこの貼付を何回か繰り返せば、あっという間に今のブドウ園の何倍ものブドウ園ができてしまうのだ。
当然、収穫できる『シャインズマスカット』も、大量に増えるということになる。
まさに農業チートである。
マスカット家が増やす二割の部分についても、この方法でやってあげようと思っている。
今回だけの特別な裏技だ。
普通の方法では、マスカット家を短期間に救うことはできないと思ったのだ。
当主のシャインさんが独特すぎるからね。
今回は割り切ってしまった。
販売については、『フェアリー商会』が行うという提案も了承してくれている。
国王陛下や王妃殿下に頼んで、当面は王都の貴族たちに販売して、その後は『フェアリー商会』の各支店で販売するつもりだ。
ただ『領都セイバーン』だけは、マスカット家で作った『ふさなり商会』で販売してもらおうと思っている。
商会も立て直してあげないといけないからね。
そこで俺は、『ふさなり商会』で『シャインズマスカット』を販売する具体的な提案をさせてもらった。
それは、店舗を『下級エリア』ではなく『上級エリア』に移すというものだ。
『シャインズマスカット』を販売する以上、ターゲット顧客である貴族や上流階級が住む『上級エリア』に店を出すべきなのである。
そしてこれには、もう一つ理由があるのだ。
それは、やはりシャインさんが物を売りつけられないようにする為だ。
いくら領都郊外の共同農園に出向かないようにしても、『下級エリア』に店舗があれば、そこまでは行ってしまうのだ。
そして今まで通り、その途中の道のりで物を売りつけられてしまう。
その対策としても、店舗の場所の移動は非常に有効なのだ。
話によれば『中級エリア』から『下級エリア』で売りつけられることがほとんどらしい。
『上級エリア』に店舗があれば、売りつけられること自体が極端に減るはずなのだ。
これで完全にシャインさんの動き方……動線が変えられるので、赤字の元凶の一つが改善されるはずだ。
『上級エリア』に今後の運営に適した店舗を探して、それを『フェアリー商会』で購入して、『下級エリア』の『ふさなり商会』の店舗と交換するという提案もしてあげた。
この交換は、不動産の価値からして確実に『フェアリー商会』が損をするが、蓄財を大きく減らしているマスカット家の為に、敢えて提案してあげたのだ。
この取引だけ見れば『フェアリー商会』が損をするが、今後『シャインズマスカット』の栽培と販売で大きく利益が出るはずだから、先行投資と考えることにしたのだ。
『上級エリア』に出す『ふさなり商会』の新店舗は、小さくても美しい店舗にして、『シャインズマスカット』を中心にした果物と新鮮な野菜だけを販売してもらおうと思う。
お洒落な八百屋さんという感じだ。
午前中の数時間だけ営業して、『マスカッツ』の女性たちに運営してもらおうと思っているのだ。
普通に話したら、シャインさんは『マスカッツ』の女性たちがお店に立つことを嫌がると思うが、『午前中の清々しい美しい時間に、美しい店舗で、美しい女性たちが、美しい野菜や果物を販売して、人々に喜んでもらう』というコンセプトであることを説明すれば、何とかなりそうな気がする。
時間も数時間だし。
多分……美しさと喜びを織り交ぜれば、何とかなると思うんだよね。
これでマスカット家は、何とかなりそうだ。
まさにチートによる経営改善だ。
プロのコンサルタントからすれば、ありえないズルだが……俺はプロではないし……存在自体がズルのようなシャインさんの商会を黒字化するには、ズルするしかないよね。
だが経営者本人のシャインさんの問題は、全く改善されていない。
つまりは……根本的な問題は据え置きという悲しい状態なのだ。
でもまぁいいだろう……完璧主義になる必要はないし。
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