737.ナルシストな、固有スキル。

 激昂したゴロツキたちが、棒を持ってシャインさんたちに殴りかかった。


 すかさず周りにいた女性の私兵たちが、前に出て応戦する。


「キャッ」

「あぁっ」

「ダメェッ」

「イヤァッ」

「ヤァ」

「ヤメてっ」


 六人は……めちゃめちゃ弱い!


 棒を剣で受け止めたが、非力で剣を弾き飛ばされたり、衝撃で倒されたり、尻餅をついたりしている。

 装備は完全に見掛け倒しで……驚くほど弱い。


「君たち……レディに手を上げるなんて、美しくないよ! そんな愚か者には、私が美しさを教えてあげよう! シャイーーン、スパーーク!」


 シャインさんは、白馬から飛び降りて、ゴロツキたちに対峙した。

 最後の言葉は、発動真言コマンドワードっぽい。


 ……やはりそうだ。

 すぐに技が発動した——

 ——なんと彼の顔が光った!


 ゴロツキたちは、光の眩しさに耐えきれず顔を手で隠し、うずくまった。


 そして光が収まると……ゴロツキたちがシャインさんの顔を見て、うっとりしている。


「君たち、本当の美しさがわかったかい?」


「「「はい」」」


 シャインさんの、意味不明な問いかけに、ゴロツキたちはなぜか素直に返事をした。


 この感じ……もしかして魅了されたのか?


「それでは、君たちはさっさと帰りなさい。これからはもっと美しく生きるんだよ!」


「「「はい、失礼しました」」」


 そう言って、ゴロツキたちは帰っていった……


 何この展開……?

 何の茶番劇なわけ?

 何を見せられたの?

 わけがわからなすぎて、笑う気にもなれない。


 それにしても……あの顔が光る技はなんだろう……?


 俺は気になってしまったので、申し訳ないがプライバシー侵害をさせてもらった。

 『波動鑑定』をさせてもらったのだ。


 それによれば……先程の顔が光る技は、彼の『固有スキル』によるものだった。


 そう……なんと彼は『固有スキル』を持っているのだ。


 しかもその『固有スキル』の名称を見て、俺は吹き出しそうになってしまった。

 スキル名が……『最高な自分』となっていた!

 『最高な自分』って……どんだけナルシストなわけ!?


 というか……『固有スキル』は、その人の魂の願望の表れである可能性が高いということだから、最高な自分でいたいという強い願望があるのかもしれない。

 裏を返せば、意外と自己評価が低い人だったりするのだろうか……?

 いや、逆に超絶な能天気である可能性もある……。


 その『最高な自分』という『固有スキル』の中に、技コマンドで『シャインスパーク』というのがあった。

『シャインスパーク』は、顔から光を発するというもので、普通の相手には目くらましになるようだ。

 そして、一定確率で魅了状態にすることができるらしい。

 自分よりもレベルの低い相手には、50%の確率で成功するようだ。

 この顔から出す光は、光魔法の系統のスキルのようで、アンデッドに対しては特効らしい。

 なかなかに面白い技だ。

 というか……ナルシストにはぴったりの技かもしれない。


 自分よりレベルの低い相手は50%の確率で魅了するということだが、さっきのゴロツキ六人は、全員魅了されてしまっていた。


 この『最高な自分』という『固有スキル』には、もう一つ技コマンドがあって『ベストコンディション』という名前だ。

 これも吹き出しそうになった……。

 ナルシストらしいとしか言いようがない。

 『ベストコンディション』を使うと、自分の『サブステータス』の全ての数値が、1.2倍になるらしい。


 名前はともかくとして、かなり使える技コマンドだと思う。


 シャインさんは、実は、戦闘でも強いのかもしれない。


 ちなみにレベルは、29となっていた。

 兵士でもない一般の貴族としては、レベルが高い方ではないだろうか。

 確か弟のシャイニングさんはレベル22と言っていたし、シャイニーさんはレベル20と言っていた。


 他の貴族の子弟の平均的なレベルがわからないが、マスカット家の人たちはレベルが高めなのではないだろうか。


 いつも接している貴族の人たちのレベルが高すぎるのであって、シャインさんのレベル29でも、普通の感覚からすると十分高いと思うんだよね。



「兄上、一体どういうことなのか、説明してください!」


 シャイニングさんが、兄のシャインさんを問い詰めた。

 今回は、『固有スキル』で撃退できたが、シャイニングさんとしては、気が気でないのだろう。


「なんだね、シャイニング。無事に解決したじゃないか。感情的になるのは、美しくないよ」


「兄上、いいから、詳しく話してください」


 シャイニングさんは、更に問い詰めた。


「シャイニング様、私が説明するっす。昨日、シャイン様がまた物売りに頼まれて、鮮度が落ちてる野菜を大量に買っちゃったんす。それをしょうがなく、『ふさなり商会』のお店で売ってたんすけど、あんまり売れなくて、残って腐りそうだったんすよ。そんで、シャイン様が道行く人にただ配っちゃったんす。そのせいで、周りの店や屋台の野菜が売れなくなっちゃって、みんな怒っちゃって、ゴロツキをけしかけたんだと思うっす」


 サンディーと呼ばれていた、赤毛の美少女がそう説明した。


 彼女は、下っ端口調で面白い感じだ。

 見た目の綺麗さとのギャップがすごい。


「そうだったのか……。兄上、そんなことしたら周りの人たちが怒って当然ですよ! 孤児院に寄付するとか……貧しい人たちの所に行って配るとか、少しは工夫しないと……」


 シャイニングさんは、呆れている。

 おそらくいつもシャインさんが問題を起こし、シャイニングさんが後始末をするみたいな感じなんだろう。


「なんだい、みんな喜んでいたのに……。喜ぶ事はいいことさ。喜びこそ正義だよ! そして美しさも正義! この世はシンプル。美しいことと、喜ばしいこと、それが正義だよ!」


 シャイニングさんにお小言を言われて困ったからなのか……わけのわからないことを言っている。

 言っていること自体は、結構いいことだと思うけど……この人のキャラが強すぎて、素直に賛同できない……。


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