736.ナルシストな、イケメン貴族。
翌日午前、俺はユーフェミア公爵に呼ばれた。
案内された個室に入ると、ユーフェミア公爵と共にシャイニング=マスカットさんと妹のシャイニーさん待っていた。
シャイニングさんは、あのユニークなアナウンス担当者だ。
彼は文官でもあり、新設された産業振興執務官に抜擢されている。
産業振興執務官は、『フェアリー商会』のセイバーン領進出を早める為の、事実上のサポート要員なのだ。
その妹のシャイニーさんは、『フェアリー商会』への就職が内定している。
格闘技興業のリングアナウンサーや、様々なイベントでの告知アナウンスを担当してもらう予定だ。
期待の人材である。
二人とも、見た目はいかにも貴族という雰囲気の金髪の美男美女だ。
熱狂的な絶叫アナウンスをするような雰囲気は、全くない。
マイクを持つと、人が変わるということなのかもしれない……。
「悪いね。呼び出しちまって。今なら少し時間があるだろう? この二人と一緒にマスカット子爵家を訪ねてほしいんだよ。前にも聞かされたと思うけど、家督を継いだこの二人の兄のシャインが、なかなか困った奴でね。悪い奴じゃないし、面白いんだが、このまま放置しておいたら、マスカット子爵家が破産しちまいそうでね。いろいろ見てやってくれないかい? シャインが作った大赤字の商会も何とかしてやんなきゃいけないから、下請け仕事でもいいから、助けてやれそうなら、助けてほしいんだよ」
ユーフェミア公爵に、改めて頼まれた。
だいぶ気にかけているようだ。
まぁ上級貴族である子爵家が破産したら、まずいもんね。
一昨日、シャイニーさんを『フェアリー商会』に迎え入れる話をした時に、できれば兄がやっている商会を見てほしいと頼まれていたのだ。
そして、もし見込みがないようなら、商売をやめるように兄を説得するので、人を引き受けてくれないかとも言われていた。
なかなか深刻そうな顔をして、話していたのを思い出した。
その時、ユーフェミア公爵は話を聞きながら終始ニヤけていた。
悪い感情は持っていないように見えたが、やはりそうだったらしく、助けたいと思っているようだ。
でも何か……楽しんでる風でもある……。
まぁユーフェミア公爵に頼まれたら、一肌脱がないわけにはいかない!
「わかりました。私でお役に立つかどうか分かりませんが、一度話を聞いてます」
「そうかい、悪いね。頼むよ。あいつは、かなりのナルシストで変わった奴だけど、私に言わせれば、不器用なだけの純粋なお馬鹿さんなのさ。あんたは変わった奴の扱いが得意だろ? 面倒をみてやっておくれ」
ユーフェミア公爵は、そう言ってニヤリと笑った。
ナルシストで……変わり者の……純粋なお馬鹿さんって……そんな人の面倒を俺に見れってか!?
変わった奴の扱いが得意ってなによ!?
なんか……もう面倒くさい予感しかしないけど……トホホ。
◇
少しして、シャイニングさんとシャイニーさんと共に、マスカット子爵家の屋敷についた。
今回は、リリイとチャッピーと『ドワーフ』のミネちゃんだけを連れてきている。
ユーフェミア公爵のアドバイスに従ったのだ。
綺麗な大人の女性を連れて行くと……ただでさえまともに話ができないのに、さらに話が進まなくなると忠告されたのだ。
綺麗な女性を見ると、褒めずにはいられないらしい……。
俺はそんな話を聞いて、ナルシストなだけじゃなく、ただの女好きかもしれないと思い、ますます……“面倒くさ”と思ってしまったのだった。
屋敷は『上級エリア』にあり、かなり大きくて立派だ。
屋敷の正門につくと、白馬に乗った金髪の美青年と、綺麗なデザインの軽鎧を着た女性六人がガラの悪い男たちと対峙していた。
シャイニングさんとよく似ている……彼が兄のシャインさんだろう。
白馬にまたがり、白地に金の模様が入った服を着て、白いマントをつけている。
金髪が風になびいて、遠目から見ても絵になっている。
華があるとは、こういうことをいうのだろう。
外見的な第一印象は、悪くない。
でも白馬にまたがり、白いマントをつけているあたり……ナルシストな感じは十分に出ているけどね。
一緒にいる六人の女性たちも、白地に金があしらわれた綺麗な軽鎧を着て、同じように白いマントをつけている。
美女ぞろいだ!
こいつ……ハーレムを作っているのか……?
羨ましい奴め……。
「兄上!」
「兄様!」
シャイニングさんとシャイニーさんが、心配そうに駆け寄った。
俺も後をついていく。
「やぁ、シャイニング、シャイニー、もう戻ったのかい? 早かったね」
シャインさんは、のん気な感じで手を上げた。
「兄上、それよりこの騒ぎはいったい……?」
シャイニングさんが、心配そうに声をかける。
「あぁ、彼らは『ふさなり商会』に言いたいことがあるようなのだ。でもやり方が、美しくないと話をしていたところさぁ」
相変わらずシャインさんは、のん気な口調だ。
「サンディー、どうしたの?」
シャイニーさんは、兄では埒が明かないと判断したのか、周りに控えていた赤毛ロングの女性に説明を求めた。
「シャイニー様、こいつら、『ふさなり商会』に難癖をつけてきてる下町のゴロツキなんっすよ。『ふさなり商会』が商売の邪魔をしたからって、金を払えって言ってきてるんす。ぶっちゃっけ、言われてもしょうがない部分はあるんすけど、でも基本的には難癖っす!」
サンディーと呼ばれた女性は、そう説明した。
「おい、早く弁償してもらおうか! お前の店がただで野菜を配っちまうから、周りの店は迷惑してんだよ! 売れるはずのもんが売れなくなっちまったんだよ!」
ゴロツキのリーダー格と思われる男が、声を荒らげた。
「私の『ふさなり商会』では、ちゃんと値段をつけて販売しているよ。ただ傷んでダメになりそうな野菜を、無料で放出しただけさ。食べ物を腐らせてしまうなんて、美しくないだろう? ハハハハハ」
シャインさんは、全く悪びれる様子もなく、愉快そうに笑った。
「貴族だからって、舐めてんのか! 俺たちには、怖いもんなんてねーんだよ! みんなやっちまえ!」
ゴロツキが、激昂した。
清々しいくらいのゴロツキだ。
もし俺の『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビーがいたら……確実にテイムもとい矯正していただろう。
ちなみにナビーは、今『コロシアム村』で、滞在している人たちを見て回っている。
悪意などのマイナス波動が強い人がいないか、見てくれているのだ。
わざわざ旅をして『コロシアム村』まで来ている人たちなので、街にいるチンピラのような人たちはいないと思うが、一応確認しているらしい。
もしそれに類する人がいたら、声をかけて話を聞くとのことだ。
そして、できる手助けがあれば、してやるつもりらしい。
改めて思うが、ナビーがチンピラたちを更生してくれていたことは、魔物化を防ぐことにもなっていたと思う。
マイナス波動に落ちている、もしくは落ち気味な人たちを救っていたことになるからね。
『セイセイの街』にいたチンピラたちが、『魔物化促進ワイン』を飲んでいた可能性は十分にあるのだ。
もしナビーに出会って、『舎弟ズ』になったり、『残念B組ナビ八先生』に入校していなければ、あの襲撃の時の魔物化の波で、魔物になっていただろう。
ナビーによるチンピラのテイムもとい矯正活動は、実は、陰のファインプレーだったりするのだ!
『領都セイバーン』は、治安が良いといっても、人口が多いだけに、多少のゴロツキはいるのだろう。
こんな奴らがいるなら……ナビーが領都でチンピラをテイムしまくるのも、時間の問題だ……。
俺に起きている事は、ナビーにはいつも筒抜けだから、今起きていることもナビーはわかっているからね。
まぁ領都に暮らす人たちのためになるだろうから、いいけどさぁ。
それにしても……『舎弟ズ』の『領都セイバーン』支部が百人とかになったら嫌だなぁ……。
人口的に充分あり得るんだよね。
いや……百人どころじゃないかもしれない……深く考えるのはやめておこう。
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