738.恋愛性能は、ストーカーと紙一重?
「兄上、とにかく中に入りましょう。紹介したい方がいますので」
シャイニングさんは、兄のシャインさんに屋敷に戻るように促した。
「なんだい、今から『ふさなり商会』に行こうと思っていたのに」
「お兄様、毎日行かなくてもいいんですよ。途中でまた、いろいろ売り付けられちゃうんですから。売れ残って困ったものをお兄様に売りつけようと、待ち構えている人がたくさんいるはずです!」
妹のシャイニーさんが、呆れた眼差しをしつつそう言った。
「シャイニー、そんな考え方は、美しくないよ。あれは、仕入れなんだよ。私が歩くだけで、商品が手に入る。こんな効率の良い仕入れはないさ。それに私が買ってあげると、みんな喜ぶんだよ。喜びは正義なのだよ!」
シャインさんは、そう言って爽やかに微笑んだ。
この人……完全にズレてると思うんですけど……。
よく言えば、めっちゃプラス思考なんだが……。
喜びは正義って……いいこと言ってはいるんだけど……実際上は、ただカモられてるだけだよね……?
今までの話を聞いただけで……この人が商売に手を出してはいけないということが良くわかる。
先祖代々築いてきた蓄財が、半分以上無くなっちゃったというのも、納得だ。
思っていた以上に、やばい人だった。
そして、まともに話ができる人なのかどうかも、既に疑問だ……。
「シャイン様、毎日行かなくてもいいっすよ。仕入れも店の人間がやるっすから。とにかく、お客様みたいだし、一旦屋敷に戻りましょう」
取り巻きの六人の美女の中で、中心的な役割をしている感じの赤髪の美少女サンディーさんも戻るように促してくれた。
彼女は六人の女性たちの中で一番若く見えるが、シャインさんに対して、一番意見が言えるようだ。
「そうかい、美しいサンディーが言うなら、仕方ないね。では一旦戻ろう」
ふう……やっと屋敷に戻ってくれるようだ。
屋敷の中に入ると……中庭に案内された。
中庭には、いろんな動物たちがいる……。
そしてやけに人も多い。
屋敷の使用人……おそらく下僕であろう人たちの数が多い。
十人以上いそうだ。
子供たちも六人もいる。
彼の子供なのだろうか……?
貴族の屋敷とは思えない……雑然とした賑やかさがある。
下町の雰囲気というか……孤児院の雰囲気というか……そんな感じだ。
「兄上、紹介します。こちらの方が昨日もお話しした、グリム=シンオベロン閣下です」
シャイニングさんが、俺を紹介してくれた。
産業振興執務官として俺の『フェアリー商会』のサポートをしてくれるということと、妹のシャイニーさんが『フェアリー商会』に就職してくれるという話は、もうしてあるようだ。
「これはこれは、シンオベロン卿、ようこそ、おいでくださいました。あなたのお噂は、弟のシャイニングと妹のシャイニーから聞いています。弟も妹もあなたに恋をしたかのように、昨夜はあなたの話ばかり聞かされました。『セイセイの街』の……『コロシアム村』でしたか……そこでの『正義の爪痕』との戦いの話も聞かされました。誠に美しい戦いだったと。美しいは正義、まさに貴公は正義の象徴でしょう! 私は美しいものが大好きなので、お近づきになれて光栄ですよ」
貴族としての爵位は、シャインさんの方が遥かに上だが、彼は偉ぶることなく、俺に貴族の礼で膝をついて挨拶してくれた。
「突然お邪魔してすみません。グリム=シンオベロン名誉騎士爵と申します。シャイニーさんに『フェアリー商会』に入っていただくことになりました。彼女の事は、責任を持って大事に致します。またシャイニングさんも、私を支援する仕事をしていただくことになりました。本当に感謝しています」
そう言って、俺も貴族の礼で返した。
「いやいや、いいのですよ。二人とも喜んでいます。ただ今の発言は……シャイニーを嫁に欲しいということでよろしいでしょうか? 私としては、二人の愛が美しければ、それで構いません。そしてシャイニングも、あなたのお陰で大出世できました。肩書も私と同じ執務官ですから。もし……シャイニングも嫁として欲しいということであれば……私としては気にしないので、大丈夫ですよ。二人の愛が美しければ、構いません」
シャインさんは、爽やかな笑顔で言った。
てか……この人何言っちゃってるわけ?
嫁に欲しいとは、一言も言ってないんですけど!
シャイニーさんはまだわかるけど、シャイニングさんまで……?
「兄上!」
「兄様!」
当然のことながら、シャイニングさんとシャイニーさんは、兄の発言に抗議するようにツッコミを入れた。
「まぁまぁ、今後の事はゆっくり話すとして、まずはお茶にしましょう。どうぞ腰をかけてください」
シャインさんは、そう言って俺たちを大きなテーブルに誘導した。
どこまでもマイペースな人だ……。
この中庭に置いてある大きなテーブルは、白くて豪奢なテーブルだ。
かなりの上物なのではないだろうか。
そして周りには、なぜか犬や猫や豆牛がいる。
全部で十匹以上いる感じだが……ほとんどのものは、ヨレヨレな感じだ。
年老いているのだろう。
「皆さんは、動物が好きなんですか?」
俺は思わず、そう尋ねてしまった。
「好きというか……好きは好きなんですが、ここにいる動物たちは、みんな兄が拾ってきちゃたんです。捨てられた動物を見ると、何でも拾ってきちゃうんですよ。さっき乗っていた白馬も……ビューティフォーって名前なんですけど、年老いて処分されるところを引き取って来ちゃったんです。元は価値の高い『軍馬』なんですが、もうヨレヨレなんです。ここにいるほとんどの動物たちも、年老いて捨てられたり、彷徨っているところを兄が連れて来ちゃったんです」
シャイニーさんが、呆れた口調でそう言った。
確かに言われてみれば、さっきの白馬はちょっとヨレヨレ感があった。
よく手入れされていて、綺麗な馬ではあったけどね。
でも今の話を聞いて……俺ははじめてシャインさんに、好感が持てた。
捨てられた動物を放って置けないというのは……共感できる。
シャイニーさんが、より詳しく説明してくれたが、シャインさんは、街に出かけるとよく拾いものをするらしい。
この屋敷にいる動物もそうだし、孤児や浮浪児も拾ってきてしまうのだそうだ。
もっと言うと、大人も……困っている人とかを拾ってきてしまうというか、連れてきてしまうらしい。
そういう人たちが仕事を持って生活ができるようにと、『ふさなり商会』を作ったとのことだ。
『下級エリア』に大きな店を構えたらしいのだが……全く以て大赤字らしい。
ここにいる子供たちも、下僕と思われる男の人たちも、取り巻きの六人の女性も、みんなシャインさんが助けて連れてきた人たちなのだそうだ。
ただのナルシストの変な奴かと思ったが……シャインさんは、意外といい奴だったらしい。
ちょっと応援したい気持ちになった。
ここの子たちは、シャインさんの子供というわけではなかったようだ。
ちなみに、シャインさんはまだ独身らしい。
シャイニーさんの話では、貴族の令嬢で言い寄ってくる人は結構いるのだそうだ。
子爵家という上級貴族の家柄もあるし、美系のイケメンだし、かなりモテるらしい。
あの独特の語り口とナルシストキャラを差し引いても、結婚相手として人気があるようだ。
ただシャイニーさんによれば、彼は自分に振り向かない女性を追いかける傾向にあるらしい。
そしてなんと、彼が今好きなのは、ユーフェミア公爵なのだそうだ。
まぁ確かに、ユーフェミア公爵なら確実に振り向いてくれないよね。
美しいし……。
てか……こいつも熟女好きなのか!
ただ、シャイニーさんの見立てでは、ユーフェミア公爵を好きといっても、憧れ的なもので、どちらかというと心酔しているという感じのようだ。
もちろんユーフェミア公爵の三姉妹シャリアさん、ユリアさん、ミリアさんも、シャインさんを、全く相手にしないようだ。
それ故に、三姉妹も振り向いてくれない相手として、守備範囲に入っているらしい。
よくわからないこだわりだが……
なんとなく……好きになられる幸せよりも、好きでいる幸せの方がいいみたいな……そんなこと?
でもそのこだわりのままだと……ずっと独身じゃないだろうか……。
いや……振り向いてくれない人が……振り向いてくれればいいのかな……?
ていうか……シャイン氏の恋愛性能は……ストーカーと紙一重なような気がする……がんばれナルシスト!
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