734.面倒くさい、付喪神。
呪われた『
話し出した『闇の石杖』は、独特な口調で気難しいお爺さんのような雰囲気がある。
声質もトーンもお爺さんっぽいのだ。
うまく付き合っていけるか、多少の不安を感じてしまった。
そんなことを思っていると……杖が宙を舞って俺に近づいてきた。
すごい、自分で動けるようだ。
まぁ付喪神だから、当然かもしれないが。
「お主……今、「この爺さん面倒くさっ」みたいなことを思ったじゃろ? お見通しなんじゃよ! そう思うなら、ワシの相棒は可愛い子ちゃんにすることじゃな。可愛い子ちゃんには優しくする主義じゃからの……ムッフ」
杖がそんなことを言った。
俺の心を読んだのか……?
俺が生命エネルギーを流して付喪神化したから、ある程度、伝わってしまうのだろうか……?
そんなはずは、ないんだけどなぁ……。
それにしても……何なの、この自己主張……。
今魂が宿って付喪神化したばかりなのに……長年生きてるお爺さんみたいなんだけど。
やはり主人格とはいかないまでも、大きな影響を与えている人格があるようだ。
なんとなくだが、この杖を作ったというアンデッドの『リッチ』……元々は力のある魔術師だったということだから、その人間の人格が影響してるのかもしれない。
偏屈な魔術師のお爺さんのイメージが、脳内に湧き上がってきた……。
そしてそいつは、女好きだったに違いない……。
「まぁ希望は考慮するけど、当面は俺と一緒にいてもらうつもりだよ」
俺はさっきまでの丁寧な口調を止め、フランクにというか、強気な口調に変えた。
調子に乗りそうな性格っぽいので……強気で行くことにした。
というか……本当は、俺としては対等な関係のイメージなんだけどね。
「なんじゃと……。生意気な小僧が……。ふん、まぁいいわ。残念ながら、お主に逆らうことはできないからの」
『闇の石杖』は、そう答えた。
明確な顔がないので、表情は読み取れないが……声のトーンからすると、少しイラっとしているが、割り切っているみたいな感じだ。
「ところで何て呼べばいいかなぁ? 『闇の石杖』だと呼びにくいんだけど、希望はある?」
俺は、そう尋ねてみた。
実際問題、『闇の石杖』って呼びづらいんだよね。
「そうじゃのう……闇さんとでも呼ぶがよい。お主のことは……お主でよいかの?」
「好きなように呼んでくれていいよ。改めてよろしくね、闇さん」
「こちらこそ、よろしくなのじゃ」
改めて挨拶を交わし、俺たちは仲間になったわけだが……今後この闇さんを誰と組ませるかは、考えないといけない。
まぁしばらくは、俺が持っていてもいいんだけど。
付喪神化の唯一のデメリットは、『波動収納』や『アイテムボックス』『魔法カバン』に収納できなくなるってことなんだよね。
魂のあるものは収納できないから、もはや収納できないのだ。
だから、常に一緒に行動するしかない。
それ故しばらく俺がパートナーを務めるとなると、俺がこの杖を持ち歩かなければいけない。
別にいいんだけど……紺のメタリックだし、杖自体がブリリアントカットほどでは無いが、いくつものカット面があるから、キラキラ光るんだよね。
かなり目立ってしまうのだ。
待てよ……『魔盾 千手盾』の付喪神であるフミナさんに託すか……。
同じ付喪神だし、彼女は人型に顕現できるから、杖を持つことができる。
彼女は美人さんだし、闇さんも文句ないだろう。
闇さんを持つのは、目立ってしまうかもしれないが、フミナさんは顕現するときは本体である千手盾を背負わなきゃいけないから、元から目立っている。
我慢してくれるんじゃないだろうか。
街行く人も、冒険者と思って見てくれると思うんだよね。
付喪神コンビでいいかもしれない!
『家精霊』こと『付喪神 スピリット・ハウス』のナーナも付喪神だから、ナーナとのコンビでもいいんだけど……なんとなくフミナさんとの方が良さそうだ。
フミナさんといつも一緒にいる『ホムンクルス』のニコちゃんを守ってもらうというか……ニコちゃんとのコンビにしてもいいかもしれない。
うん、それがいいかも!
お爺さんが孫を守るイメージだ!
その方向で考えてみよう!
俺は、改めて付喪神化した『闇の石杖』を『波動鑑定』してみた……
……おお、先程までのアイテムとしての画面とは違い、生物のステータス画面が表示された。
『種族』が『付喪神 スピリット・マジックワンド』となっていた。
『名称』は、『闇の石杖』となっている。
レベルは、もちろん1だ。
そして『固有スキル』に『減退の闇』という元々杖の技コマンドだったものが、表示されている。
そして、このスキルの内容は、元々の技コマンドと同じように…… 対象者の『サブステータス』の『攻撃力』『防御力』『魔法攻撃力』『魔法防御力』『知力』『器用』『速度』の全ての数値を、10%程度下げるとなっている。
そして『減退の闇』は、五回まで重ねがけできると表示されている。
ん、……五回重ねがけすると、自分の『サブステータス』も同様に下がるとなっている。
これは……逆に言うと、四回までなら自分の『サブステータス』を下げることなく、使えるということだろう。
仮に五回使った場合も、自分の能力が下がった状態が三日間続くとは表示されていないので、三日間のデメリットも消えているようだ。
これはすごい!
そして、闇さんは、フミナさんの時と同じように、俺の眷属になっていた。
『状態』欄に、『グリムの
もちろん、呪われているような内容は表示されていない。
俺の眷属になったのは、フミナさんの時のように、付喪神化するときに俺の生命エネルギーや思念を取り込んだからだろう。
眷属になっているので闇さんは、自動的に『絆』メンバーになっている。
『共有スキル』も使えるから、かなり強くなるんじゃないだろうか。
それにしても、上手く付喪神化してくれて、本当によかった。
後押ししてくれた『精霊神 アウンシャイン』様に、俺は感謝の祈りを捧げた。
そして、今までの光景を見ていた周りの人たちは……みんな驚いて呆然としている。
付喪神化を目の当たりにし、感動しつつも、少し遠巻きに見ている。
「闇さん、私はニアよ、よろしくね」
ニアはすぐに寄ってきて、挨拶をした。
興味津々な顔をしている。
「おお、これはこれは、めんこい子じゃの! こちらこそ、よろしく頼むのじゃ」
闇さんは、空中でステップを踏むように動き、挨拶をした。
「ハナシルリです。闇さん、よろしくお願いします」
ニア同様、付喪神が大好きなハナシルリちゃんが挨拶した。
「おやおや、これまたべっぴんさんじゃのう。一緒に遊ぼうの」
今まで渋い感じの声のトーンだったが、急に明るく高くなった。
闇さんは、やはり“お爺さん属性”のようだ。
俺に対しては……見下したような話し方をするのに……ニアやハナシルリちゃんには、優しい話し方だ。
本人が言っていたように、女の子には優しいのかもしれない……。
それにしても……態度の違いが露骨すぎるんですけど!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます