733.付喪神化、成功!
「あの……アウンシャイン様は、付喪神化する方法は教えてくれなかったのしょうか?」
俺は、新人『光柱の巫女』のテレサさんに訊いてみた。
「はい、そこまでは……。ただ、精霊たちの力を収束することで、急速に付喪神化させることができるそうです。精霊たちは、私たち『光柱の巫女』が祈りを捧げることで、集まってきてくれると思います。それから……救国の英雄の力を使えば、付喪神化が促進できるとも言っていました。そして、付喪神化を促進する体験をしてもらう為に、今回だけ特別に、アウンシャイン様も後押ししてくれるとおっしゃっていました」
テレサさんは、そう答えて俺を見つめた。
これはきっと……俺の『波動』スキルの『波動調整』コマンドのサブコマンド『生命力強化』を使えってことだよね……。
『精霊神 アウンシャイン』様ならお見通しなはずだから……。
この『生命力強化』は、対象の波動を活性化させることで、各ステータスをアップさせることができる技コマンドだ。
今まであまり意識になかったが……よく考えたら凄いコマンドなんだよね。
ただアップ率は、それほど高くない感じだけど。
どのぐらいアップするかなどの情報は、表示されないんだよね。
体のコンディションが良くなって、全体の能力が活性化されて、若干上乗せされるという程度だと思う。
そしてこのコマンドを、生物以外に使用すると、付喪神化を促進させることができると表示されていた。
これも今まであまり気にしていなかったんだが……もっと早く試してみればよかった……。
このコマンドを使っても、すぐに付喪神化するわけではないと思うが、今回は『精霊神 アウンシャイン』様が後押ししてくれるということなので、もしかしたら、すぐに付喪神化するかもしれない……。
これはやってみるしかないよね!
仮に『アウンシャイン』様の後押しがなかったとしても、このコマンドを使い続ければ、付喪神化が促進され、いつかは付喪神化するんだから、よく考えたら凄いコマンドなんだよね。
俺はとりあえず杖を握って、『生命力強化』コマンドを使ってみる。
魔力を含めた俺の生命エネルギーを流すイメージだ。
…………杖はうっすら輝いたが、すぐに収まった。
『波動鑑定』してみたが、今のところ大きな変化はない。
ただなんとなく……ちょっと雰囲気が変わった気がしないでもない。
これをやり続ければいいのかなあ……。
「あの……グリムさん、私たちが祈りを捧げて、精霊たちを呼び寄せます。周りの皆さんも一緒に、祈りを捧げてください。そしてグリムさんは、この杖の呪いが溶けて付喪神になるように願いを込めて、あなたの強いエネルギーを流してください」
テレサさんが、俺と周りの人たちに指示を出してくれた。
彼女は俺の『波動』スキルのことは知らないはずだが、『アウンシャイン』様との話の中で、俺になにかしらの能力があるか、もしくは俺の生命力を流すことで付喪神化が促進されると考えているようだ。
まぁ実際、『生命力強化』コマンドを使う時も、俺の生命エネルギーを流し込むイメージで使っているんだけどね。
……『光柱の巫女』三人が祈りを捧げ、他の人たちも指を組んで祈りを捧げるポーズをしている。
俺は、精霊を見る目の使い方をして、確認する……
おお……すごい……すごい数の精霊たちが飛び交っている。
どんどん集まって来ている。
この精霊たちが力を貸してくれて、『精霊神 アウンシャイン』様が後押ししてくれるということのようだ。
テレサさんの話の内容からして、『アウンシャイン』様は、俺に付喪神化をする体験をさせたいようだし、上手くいくような気がしてきた。
なぜ『アウンシャイン』様が体験させたがっているのかはわからないが、もしかしたら今後の為に必要な力ということなのかもしれない。
俺は、この杖の呪いが溶けて、付喪神化することを心の中で強くイメージし、念じる。
そして生命エネルギーを流し込むイメージで、技コマンドを発動する……
…………領城の中庭に小さな光が飛び交う様子が見えるようになってきている……幻想的な空間になってきた……。
この状態は、精霊を見る目の使い方をしなくても、光のつぶつぶが見える状態だ。
祈りを捧げてくれているみんなは、最初目をつむっていたが……何かを感じたのか、目を開け、この光景を見て呆然としている。
そんな中、『闇の石杖』の周りには黒っぽい光というか靄のようなものが漂いだした。
そして俺の手から離れ……宙に浮いた。
あの黒い靄のようなものは……杖の中にあった呪いなのではないだろうか……。
杖の周囲に広がる楕円形の黒い靄の中に、光のつぶつぶが飛び込んでいく……。
飛び込んでも、黒い靄はほとんど影響を受けていない。
それでも、光のつぶつぶがどんどん飛び込んでいく……
……そのうち黒い靄が、だんだんと薄れていく……
最後には、光のベールのようになって、杖の周りをはためいた。
その状態が発展し、更に光が広がり杖をすっぽり包む球体になった。
宙に浮いていた杖は、ゆっくり下に降りて、石突きを下にして地面に突き刺さった。
そして、光の球体がゆっくりと消えていった。
濃紺だった『闇の石杖』が、メタリックな紺色になっている。
キラキラ光っている。
『闇の石杖』自体が、岩石を切り出したようなカット面が多い杖になっているので、そのカット面がよりキラキラしているのだ。
「あぁ……ワシが……『闇の石杖』である。付喪神として覚醒したからには、この世界を楽しむのである! 小僧よ……お主の情報がワシの中にある……。お主が生命エネルギーを流して、付喪神化を促進したんじゃなぁ。なかなかやるではないか。いいだろう、力を貸そう」
『闇の石杖』から突然、声がした!
付喪神化に成功したようだ!
なんか……杖がしゃべっているのは、不思議だけど感動する。
目とか口とかは、ないみたいだけど……いや……なんとなく杖の頭頂部に黒目のようなものが二つ見える。
もしかしたら、目かもしれない。
「あの……付喪神化していただいて、ありがとうございます。グリムといいます。よろしくお願いします」
俺は突然のことに、変な挨拶をしてしまった。
冷静に考えると……「付喪神化していただいて、ありがとうございます」というのは、変な挨拶だったと思う。
まぁ今更気にしても、しょうがないけどね。
「うむ、よろしく頼む」
『闇の石杖』は、渋い声でそう答えた。
この杖は、誰かの残留思念が主人格となって付喪神化したわけではないようだ。
通常の付喪神化で、杖に残っている様々な人の残留思念と元々杖に宿っている精霊たちがベースになって、新たな人格を作りあげたもののようだ。
それでも、こんな個性があるということは……誰か特定の一人もしくは数人の人格が影響しているのだろう。
やけに偉そうなおじさん口調なんだよね……。
それが、この杖の個性っていうことなんだろうけど……。
気難しいお爺さんのような感じだが……大丈夫かな……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます